薬剤師、現場に出る -手が震える。さて、何て言う?-

大海薬子
再度、登場しました。大人の事情です。察してください。

では、改めて自己紹介。

大海薬子(おおうみくすりこ)と申します。

大海薬局という調剤薬局を経営しています。

大海薬局では、在宅訪問に力を入れています。

今になって振り返ると恥ずかしいところもあるのですが、今日は、私がまだ在宅訪問に慣れていなかった頃のお話をします。

 

大海薬局では、『地域密着』という目標の具現化として「在宅訪問」に取り組んでいる。「在宅訪問」は、医科・歯科・看護の領域では既に定着した感があるが、薬科領域はまだまだ立ち遅れている印象がある。原因は様々だろうが、その一つに、現場の知識・経験が足りないという臨床力の不備が挙げられると思う。さらにその原因として卒前・卒後の薬学教育にいささか問題がある‥‥と思うのだが、それはまた稿を改めて。

臨床力の不備は、患者さん宅にお伺いしても、状況を適切に評価することができないといった形であらわれる。例えば、患者さんが、いつもとは違うご様子であっても、それを上手く言葉で言い表すことができないのだ。

もどかしい (´・ω・)

これでは、他の在宅医療職の方々とコミュニケーションを取ることもできない。なんとかしなくていけない。私の場合は、わからないことが出てきた場合、質問するなり自分で調べるなりして、その都度その都度、知識を補充するようにしている。

例えば、こんな風に。


在宅患者Aさんは、以前から向精神薬が処方されていた。あるときから軽微な手の震えを訴えるようになった。その震えは奇妙なものだった。両前腕が数ミリだろうか規則的に小刻みに震えているのだ。ぱっと見ではわからない。指先に注目すると、ぷるぷるしていることがわかる。本人に聞いても意識して動かしているわけではないという。「日常生活には支障はないが、なんだか気持ち悪い」ともいった。私は、よくわからないながらも(拙い表現であったろうが)主治医にこの震えのことを報告した。主治医は、「ああ、ジスキネジアね」といって向精神薬を変更した。まもなく震えは消え、半年後、震えの症状を聞いたところ、本人はすっかり震えのことなど忘れていた。

ジスキネジア?

なんだろうか。調べてみると、ジスキネジアは錐体外路障害の一つに分類されていた。

錐体外路とは錐体路(大脳皮質の運動野)以外の運動を制御している経路のことを指す。簡単に言えば、大脳を経由しない(人間の意識にのぼらない)運動の調節などをつかさどる経路のことだ。この神経経路は、ドーパミンが深く関与していることがわかっている。一方、多くの向精神薬は、ドーパミンによる神経伝達をブロックすることでその作用を発揮する。この患者さんの震えは、向精神薬がドーパミン受容体をブロックするためにおこった副作用であった。錐体外路障害は、この震え(ジスキネジア)以外にも様々な種類があるが、向精神薬を投与した場合、かなりの頻度であらわれる副作用だという。

ああ、あの震えは「ジスキネジア」と言えばよかったのか‥‥ (-_-;)

錐体路障害は時間が経つとかなり回復が見られる。それに対し、錐体外路障害は一度損傷すると回復が見られない。錐体路障害は錐体外路によって代償されるが、逆は起こらない。錐体外路障害が固定化しないためには、早期発見による適切な処置が重要である。

主治医は、長年の経験から、向精神薬の投与で副作用が出ることを知っている。だから、報告を受けて速やかに原因と思われる向精神薬を変更したのだろう。原因薬剤の変更が迅速であったため、症状は消退しすみやかな回復が見られたと思われる。

医師は、2週間~4週間おきに在宅患者宅を往診する。多くの副作用は、ここで主治医によってチェックされる。しかし、往診の合い間に発現する副作用もある。A さんのジスキネジアはそうであった。観察者が多ければ多いほど、見落としは減り、症状の早期発見につながるはずだ。在宅訪問に関わる者として、役に立つ観察者の一人でありたいと思う。

『向精神薬が処方されている在宅患者の場合、錐体外路症状に注意!』

この症例から得られる教訓はそれだ。臨床力を身に着けるためには、こういった経験の積み重ねが必要なのだろう。


 

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