むくみ

大海薬子
今日は、病態生理のお話をします。

この分野を苦手にしている薬剤師さんは多いのではないでしょうか?

でも、これを克服しないと患者さんが納得するような説明をその場でできないのではないかと思います。

ちょっとややこしいですが、いっしょに勉強していきましょう!

 

在宅など患者さんに近い位置で仕事をしていると患者さんやその家族が疑問に思っていることを訊ねられることが多い。
高血圧だとか糖尿病などは、患者さん自体が外来の主治医の先生からレクチャーを受けている場合が多いので、質問を受ける頻度は意外に多くない。
多いのは、疾患と目に見える症状との関連性がぱっと見わかりにくい病態に関するものだ。その一つに「むくみ」というものがある。

そこで、今回は「むくみ」に関して取り上げたい。なので、ちょっと専門家向けでしょうか。

「むくみ」は、医学用語では「浮腫」という。wiki では
「細胞組織の液体(細胞質間液)と血液の浸透圧バランスが崩れ、細胞組織に水分が溜まって腫れる」状態
と定義されているが、これで具体的なイメージが湧けばいいのだが、なかなかそうもいかないでしょう。ちょっとイメージを図にしてみました。

血液の液体成分(血しょう)は、心臓から送り出された後、
①動脈→②組織(間質)→③静脈・リンパ管
の順に灌流し、再び心臓に戻ってくる。この流れが何らかの事情で阻害され、液体成分が②に留まっていると、組織はぱんぱんに膨れる、つまり「浮腫」の状態になる、という理屈です。

次に、どういう場合にこの流れが阻害されるか?考えてみましょう。

一番、わかりやすいのは、①→②の流量が増大する場合でしょうか。
具体的には、炎症がおこって①動脈の血管透過性が亢進している状態や低栄養状態で血管内の浸透圧が低下し水分が過剰に組織に移行する状態がこれにあたります。

また、深部静脈血栓症などで③静脈・リンパ管が物理的・機械的に閉塞した状態も灌流がうまくいかず浮腫をひきおこします。

わかりにくいのは、心不全で足がむくむ場合(下腿浮腫)でしょうか。これは右心不全では、静脈がうっ滞し静脈血圧が上昇し、結果として②→③の流れが阻害されるためです。

以上、かなり図式的に浮腫に関して軽くまとめてみました。

ところで、「浮腫」からこのような病態をぱっとイメージできる医療関係者は医師や看護師をのぞいて、そう多くない、というのが私の印象です。
あくまで経験的な推測ですが。
理由はいろいろあると思うのですが、

・臨床的な訓練が不十分
・臨床生理に慣れていない(解剖用語や浸透圧だとかの物理化学的な概念が乱れ飛ぶので統合して理解することが難しい)

というのが背景にあるのかなと思います。

まずは、臨床で必要とされる概念を使える形で理解し、患者さんの症状と結び付けて考えられるようにする、というところから始めるのがよいのではないかと私は思います。

 

大海薬子

 

* * * * * *

ところで、某所で話題になったのはこの動画。

浮腫で困っているおばあちゃん宅を薬剤師さんが訪問し、その評価を行なっているところを切り取った動画のようです。
一見すると、それっぽい雰囲気でサービスしているように見えます。
なのですが、これを視聴した多くの医師は「これは診察になっていない」とあまり評価していませんでした。
どこかわかりますか?

薬剤師に必要な基本的臨床医学を研究・実行する会』(facebook内グループ)では、こういった質疑応答がほどほどに(笑)活発に議論されています。
ご興味のある方はどうぞ、ご参加を。
元は薬剤師・医師限定だったのですが、現在は看護師さんなどの医療関係者もOKにしています。
ただし、人数が増えすぎてきたため、現在(2021/8 〜)は、入会時にある程度のチェックはしています。それほど厳しいものではないですが、本当に医療関係者なのかネット上で資格・経歴が確認できる程度の準備はしておいてください。
そこまでではない人(医療系の資格は持っているが、家族介護などで一時的に現場から離れていた人など)や医療に興味のある一般の方は『医療を考える(仮)』(同じくfacebook内宮ループ)の方が適しているでしょうか。
こちらは軽めの時事ネタなどを取り上げていく予定です。

ちなみに私がこれに関して述べたコメントは以下の通りです。

じゃあ、訪問薬剤師さんが現場で何を優先して見なきゃいけないかって話なんだけど、ちょっと考えてました。
聞くところによると、現場では訪問薬剤と訪問看護とで患者の取り合いになっていると聞いてます。だから、訪問看護と同じようなことをするのは得策ではなさそう。
やはり、差別化を図る上では、薬剤師のストレングスポイントである「薬」にフォーカスするのが有効ではないでしょうか。
このケースは「20年前の子宮癌のオペでリンパ郭清して、それ以来、浮腫が出現。(おそらく心不全が進行して)増悪傾向にあった。そこで2週間前より主治医が(たぶんお試し的に)ルプラックを開始した」って状況だと思います。
だから、これ主治医の側からすると「ルプラックの効果はどの程度で、それが適当なチョイスなのか?」ってのが気になるところなんですよ、たぶん。
その点を重視するなら、患部はもちろん水分の in-out (厳密なものは無理なので水分の摂取状況をさりげなく聞いておくとか)や腹水の貯留(お腹チラ見する程度でもいいんです)をチェックする・・なんかが優先して観察すべき項目になるでしょうか。
そこまで意図が明確なら、事前に医師とそこらへんをすり合わせてもいいですよね。
なんかしら改善点がありそうなんですよ、この動画。

 

猪股弘明(医師)




 

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