パルモディア -薬子的『モジュレーター』解釈-

薬子
2018年6月に興和から

高脂血症治療薬パルモディア®️(一般名:ペマフィブラート)

が発売された。

このとき出てきたのが「モジュレーター」という概念。

発売元は、『パルモディアは「リガンド」ではなくて「モジュレーター」です』と説明した。

リガンド? モジュレーター? 違いは何でしょう

 

勉強会などでこの話題が出ることは多いですが、曖昧に(そして多くの場合、間違って)理解している方が多いようです。

ベザフィブラート

まず、従来のフィブラート系薬剤、ベザフィブラート(商品名:ベザトール®️など)の特徴をまとめましょう。

ベザフィブラートは、他のフィブラート系薬剤同様、細胞質内の PPARα (ピーパーアルファ)という受容体と結合し、核内に移行。他のコ・ファクターと転写因子複合体を形成して DNA に結合。脂質代謝改善遺伝子産物を発現させることで、体内の LDL コレステロール・トリグリセリドを減少させ、HDL コレステロールを増加させる。このとき、肝機能を障害させる遺伝子産物も発現してしまうため、副作用として肝機能障害が出現することがあります。

軽くイメージを掲げておくとこんな感じでしょうか。

ベザフィブラートを載せた PPARα 車は、核内へ移行。脂質代謝改善遺伝子産物も肝細胞障害関連遺伝子産物も区別なく転写翻訳してしまいます。

 

ベザフィブラートの改良

ベザフィブラートを改良してより意味のある薬剤を設計したい場合、なんとかして副作用である肝機能障害を抑えたいと考えるのではないでしょうか。発想としては単純ですが。

まさしくそれをやったのがペマフィブラートです。

ここで、着目すべきは「PPARα という受容体と結合し、核内に移行。他のコ・ファクターと転写因子複合体を形成して DNA に結合」という点です。

この転写因子複合体が肝障害関連遺伝子領域と結合するときには、転写率を下げるような機構があれば、上記の目標が達成できることがわかります。転写率を下げる、例えば、DNA とユルく結合(かなり比喩的な表現ですが)させればいいわけです。

そして、転写因子と DNA を「ユルく結合」させる最も簡単な方法は、ペマフィブラートが PPARα と結合し転写因子を形成した際、この転写因子の立体構造そのものを変化させることです。

イメージ的にいえば、こんな感じでしょうか。

 

図では、「立体構造の変化」を車のタイヤの形状で表現してみました。パルモディアを載せた PPARα 車はタイヤの形状が変化してしまいます。脂質代謝改善遺伝子領域ではがっちりと DNA 路面にタイヤが吸い付くものの、肝機能障害関連遺伝子領域ではタイヤの形状と DNA 路面が不適合をおこしています。実際にも PPARα-パルモディア転写因子は関連遺伝子のイントロン領域と結合するようです。(ただし、繰り返しますが、この説明はあくまで比喩的なものです。実際の転写過程では、他の因子もパルモディア-PPARα 転写因子に結合し、転写因子複合体とでもいうべきものをつくっています。他の因子も転写活性に影響を与えます)

 

ポイントは

  • PPARα が核内受容体(膜受容体→シグナル伝達系を使った場合、このような制御はできません)という点
  • ペマフィブラート-PPARα 転写因子の立体構造が変化する点

でしょうか。

確かに、パルモディアはリガンドのように特定の受容体と結合します。ただし、結合後、受容体の形状を変化させ、最終的な遺伝子産物の産生量を調整するように振舞います。だから、「モジュレーター」と呼ぶのですね。(人によっては、アロステリック酵素の転写因子バージョンと言った方が理解が早いかもしれません)

この用語が適切なものなのか、本当に意味のあるものなのか、私にはわかりませんが、ここでは、そう理解しましょう。

それにしても、パルモディア、狙ったつくったのか、それともたまたま見つけたものかわかりませんが、かなり精巧な働き方をするものだなと思います。

 

今後の評価

ただし、このような凝ったつくりこみをすると、その反動もあるようで、具体的には、パルモディアの代謝に関連する CYP などの酵素は、他の薬剤と被るものが多く、結果、併用に注意すべき薬剤が従来のフィブラート系薬剤に比べ増えています(シクロスポリン・リファンピシンが併用禁忌。クラリスマイシン・カルバマゼピン・フェノバルビタールなどが併用注意)。

パルモディアそれ自体は安全性の高い薬剤といえそうですが、肺炎を併発し抗菌薬の投与を受ける場合や、他に基礎疾患を持っており薬剤投与を受けている患者に対しては、相互作用のチェックが必要になりそうです。

 

よくある間違い

「他のフィブラート系と異なりペマフィブラート自体が PPARα と高選択で結びつき… 」とかいう勝手な解釈。いえいえ、ベザフィブラートもかなり選択的に PPARα と結合します。

『おくすり110番』

なんか説明がおかしいですよね。

 

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ネット版 症例発表における倫理指針

薬剤師、現場に出る』シリーズ

アルコール依存症患者では視床枕の体積減少がみられる

の影響か、医療・介護関係者の方々から、

「患者さん・利用者さんとのエピソードをブログやホームページに読み物として載せたいが、倫理的にどのような点に配慮したらいいか?」

という質問や

「開業しているが、臨床研究を始めたい。従うべき倫理基準は何か?」

というような質問を受けた。

いや、私は、バリバリの研究者でもなければ、その道の専門家ではないのだが…と思うのだが、今までの経験や調べた範囲内で有益と思われる情報をまとめる。

 

まず、後者はクリアカットなので、こちらから。

一言で言えば「所属学会の規定に従ってください」ということになる。たいていの主だった学会はこの手の倫理規定を制定し、公表しているのでそれに従う。

軽く検索をかけたのだが、例えば、消化器外科学会であれば『学会発表・論文投稿における倫理指針について』というページが公開されている。(消化器外科を挙げたのは、単に検索順位が上位だったからで他意はない)
たぶん、倫理委員会ウンヌンを気にされている先生が多いと思うが、

 

Q1:当院には倫理審査会がありません.学会発表はできませんか?
A:観察研究の倫理審査を行う倫理審査委員会やそれに準じた諮問委員会を常設していない施設からの本学会への研究発表や論文投稿については,できるだけ抄録登録時や投稿時に,関連の大学病院や医師会での倫理審査を受けてください

 

とのことなので、地元の医師会などに相談されるとよいと思う。気の利いた医師会ならば、常設はされてなくても、地元の弁護士さんや教育関係者などを集めて即席で審査会をつくってくれると思う。形式的になりがちな大学病院倫理委員会を通すより、こちらの方が話を吟味して聞いてくれそうで良いように思うのだが、どうだろう。

症例報告に関しては倫理委員会の承認すら不要のようだ。プライバシーに配慮して内容をまとめれば良いと思われる(ただし、症例 9 例以上は観察研究扱いになるようですね)。
なお、査読誌などに投稿する場合には、患者さんの書面同意が必要になると思うので、これぞと思われる症例にであったら、あらかじめ同意を取っておくと投稿時に患者さんの所在を探しまわる、というようなことがなくなるのでよいと思う。

 

問題は前者で、おそらく基準は存在しない。

私の場合は、「テクニカルには医師系学会の基準に従い、コンテンツに関しては『読み物』として割り切って本筋に関係ない余計な情報はどんどん捨てる」という書き方に徹している。

つまり、表記上のテクニックとしては、

【患者】秋葉太郎、35歳→ ×

「患者 A さん、30代」などとする

平成 30 年 7 月 6 日→×

たいてい話を始めたい日(初回訪問日など)があると思うので、その日を基準に X 日、X + 1日…などと表記する。

束大大学付属病院→×

A 病院、などとする

として、とにかく患者さんの特定に繋がりそうな情報はどんどん匿名化する。

また、患者さん・利用者さんとのエピソードを書きたいという場合、学術目的というよりは、「エピソードを通してその施設の特色を表現したい」とか「そのエピソードで得た学びを共有したい」ということだと思うので、内容を「症例報告風読み物」に寄せる。

これは学会発表ではないので、例えば、検査値が丸ごと記載されてなくとも、

会場最前列に陣取ったお年を召した大御所から「その時の○○の数値はいくつだったの? 覚えてない? それ、治療方針を決める上で最も重要な値だよ。君、患者さんのこと把握してんの」と突っ込まれ、発表者はおろおろ、指導医が大慌てでフォローに入る、という学会地方会で毎回のように繰り返される微笑ましいワンシーン

になるようなことはない。安心してほしい。むしろ、その執筆意図から考えて、ストーリーに関係ないものは積極的に捨てるべきだと思う。

患者さん・利用者さんの同意に関しては、「決まり」という意味では書面同意を取るのが安全なのだろうが、堅苦しい。医療機関ブログにはコミュニケーション・ツールとしての一面もあるため「ブログ面白いですね。今度、私のことも書いてくださいよ」と自然と自発的同意が取れるような関係になっているのが理想的と思われる。

 

以上、倫理関係に関して述べてみました。

回答になっているでしょうかね。

(追記)医療ジャーナリスト(兼医師)の中山佑次郎氏より「年齢、性別などを変えており、『これは私の話かも』と思っても当てはまりません」という記載を加えておくのもよいのではないかという提案を受けた。なるほど、これなら被害的になり注察妄想を持つ傾向のある患者さんに対しても「自分のことじゃない」という安心感を与えますね。良い工夫のように思います。

 

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薬剤師、現場に出る -白昼の死角-

薬子
前回の患者さんの話の続きです。つまり

『50 歳代の女性。病名はついているが、いわゆる膠原病。肩と大腿の痛みが強いため通院困難となり、治療薬であるステロイドを届けるため当薬局の出番となった』(薬剤師、現場に出る -〇〇を主訴とする膠原病

という患者さんがいて、訪問前に予習が必要!みたいな話を前回までしました。

 

では、それで準備は万全だったかというと、やはりというべきか、全然、そんなことはなかった。

訪問前の経過をもうちょっと詳しく書く。

X月1日:背部痛を訴え A 病院受診。プレドニゾロン5mg、4錠/日、分2、21日分が処方された。

X月4日:痛みが治まらず再度受診。プレドニゾロン5mg、2錠/日、分2、16日分が追加され6錠/日。増量奏功し、その後、背部痛は消失。

X月20日:A 病院外来日。診察の結果、経過良好と判断され プレドニゾロン5mg、3錠/日、分1、21日分に処方変更(半量に減量)。

このとき、処方されたプレドニゾロンをお届けするために当薬局の出番となったのだった。何の問題もないようだが…。

訪問日:起床時より背部痛再燃。訪問していた介護担当職員が、 A 病院と当薬局にその旨を連絡。私は、医師にプレドニゾロン5mg、6錠/日、分2に戻してはどうかと処方提案。追加処方がなされた。

余裕、余裕と思ってたら、患者さん、突然痛みを訴え始めたわけです。

「痛がっている」といっても、目の前に患者さんがいるわけでもないので、どう痛いかわからない。

訪問前にその報告を聞いて、一瞬、うろたえましたが、そこはこれまでの精進の賜物、「基礎疾患はリウマチ関連であることに間違いはない。メインの処方薬はステロイド。だから」となんとか考えを推し進め、プレドニゾロンの減量で病勢が悪化したと判断し、ならば、再度増量するのが良いのでは?と考えたわけです。

少しは、成長できたかな>私

これでも間違えではなかったと思うのですが、実は、他にももっと良い正解がありました。

同日午後、訪問。ご家族が以前に購入されていた市販薬のイブプロフェンを介護担当職員が患者に服用させ、痛みは既に治まっていたことが判明。A病院担当医師と協議の結果、疼痛時の屯用薬としてあらためて(医科用)イブプロフェン錠が処方された。

介護職員さん、ナイスプレー

実際に訪問したら、患者さんけろっとしてました。

簡単に言えば、ステロイドの用量調整に気をとられすぎ、疼痛コントロールが盲点になってしまっていたわけですね。リウマチ性の疾患といえば、(新しい生物学的製剤が出てきたとはいえ)ステロイドはまだまだメインの治療薬といえる。だから、この領域の疾患では、治療面ではステロイドの用量調整が問題点のすべてだと思いがちだ。だが、実際には、ステロイドの導入時なども含めて薬剤調整時に疼痛コントロールが不良になることがしばしばあるし、この症例はまさしくそれであった。

また、この手の問題は、在宅医療に固有の問題のようにも思う(ちと大げさか)。例えば、これが病院であれば、最寄りの医師が『疼痛時:ロキソニン(60) 1 錠 タケプロン(15) 1 C 経口投与』と指示を出すだけでとりあえずは解決する問題だ。ところが在宅では、主な観察者は家族や介護職員になる。病状の評価や報告はどうしても、医療者のそれとは変わってくる。上の例では、結果的に介護職員さんのファインプレーで問題は早期解決をみたが、治療環境が変わると問題点も変わってくるのだなということがよくわかった。今回、私が市販の併用薬確認を怠り、倍量のステロイドを提案してしまったが、今後は、同様な場面では、非ステロイド系抗炎症薬の使用も考慮していきたい。

 


いちおう一般の方向けにもうちょっと説明しておくと…。

プレドニゾロンは、ステロイド系の抗炎症薬で、抗リウマチ薬・生物学製剤とともに関節リウマチの治療に使われる。治療が奏功すれば、結果として、リウマチに伴う痛みも消失する。

イブプロフェンは、非ステロイド系の抗炎症薬で、即効性があり(半減期は1.8時間)、一時的に強い痛みを取ることができる。

今回、ステロイドの用法が変更されたこと(分2から分1)、用量が減量されたこと(3錠/日から6錠/日)で、ステロイドの効果が減弱し、痛みが強まったと考えられます。

なお、ステロイドは少量でも長期投与すると、感染症、骨粗しょう症などを引き起こす可能性があることが知られている。ステロイド 2.5mg/日でも骨折リスクが1.5倍に増えるという報告もある。主治医は副作用を鑑み、早期減量を行ったわけですね。

ちなみに、ステロイド・非ステロイド系抗炎症薬の副作用は以下の通りです。

ステロイド:最も強力な抗炎症薬であるが、副作用が強い。ステロイドの副作用は軽いものとしてはムーンフェイス、中心性肥満、痤瘡(にきび)、白血球増多、多毛などがあり、特に注意が必要な副作用としては感染症、骨粗鬆症、骨折、動脈硬化病変(心筋梗塞、脳梗塞など)、ステロイド性糖尿病、消化管潰瘍、白内障、緑内障、高血圧症、脂質異常症、副腎機能低下、精神症状などがある。

非ステロイド系抗炎症薬:副作用として、消化管出血、消化管潰瘍があり、特にステロイド薬もしくは少量のアスピリン(商品名:バイアスピリン®など)との併用で頻度が増すことが知られている。他にも腎機能障害や心血管障害のリスクが報告されている。

 

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薬剤師、現場に出る -〇〇を主訴とする膠原病-

薬子
さて、お待ちかね、在宅が気になる薬剤師さんから人気の「現場に出る」シリーズ。

……なんですが、今回、訪問に伺う患者様は、リウマチ関連性疾患。

私、この疾患が昔から苦手で。

nomad
それは無理もない。

医師でも実際に患者さんを担当するまでは、苦手な人が多いように思う。

その原因の一つは、一見、曖昧に見える診断基準。

でも、これは疾患が疾患だけに仕方のないことなんだ。

「○×菌が見つかったから、△□性肺炎」というように原因と結果が1対1に対応しているわけではない。だから、一見、ぼやっとした操作的診断基準を使わざるをえないが、臨床的にはそちらの方が都合がいいんだ。

この背景を知っているだけでも理解が早くなるかもしれないよ。

 

今回、訪問に伺う患者様は、50 歳代の女性。病名はついているが、いわゆる膠原病。肩と大腿の痛みが強いため通院困難となり、治療薬であるステロイドを届けるため当薬局の出番となった。

で、膠原病なんですが、これが昔から苦手。。。

まず、疾患分類からしてわかりにくい。膠原病の代表的疾患である関節リウマチにしても、あるときはリウマチ性疾患、あるときは膠原病、またあるときは自己免疫性疾患に分類される。

また、診断もわかりにくい。同じような訴えをしていても、検査値の微妙な違いで診断名が変わったり、別の疾患が合併したりする。

さらに、せっかく診断が決まってもかなりの頻度でステロイドが治療薬のメインになり、「ステロイドが効いたのだから、診断は〇×」というふうに理解することができない。

要するに、患者さん個々の病態が把握しにくく、言ってみれば「患者さんの区別がつきにくい」のだ。

これではいけない、というわけで勉強。

まず、分類・診断の曖昧さだが、これは歴史的に見ると致し方ないことがわかる。この分野の疾患の多くは、その原因として自己免疫系の異常が想定されるようになったが、このような理解がされるためには、現代的な生物学の発展を待たねばならなかったし、現代でもその解明が完全になされているわけではないので、臨床的な分類のベースは経験的なものに頼らざるをえない。また、自己免疫が関与しているというのは、例えば、悪さをする抗原抗体複合物が、関節に沈着すれば関節痛、筋肉に堆積すれば筋肉痛、血管壁に固着すれば血管炎として出現する、という症状の多彩さにつながる。症状が多彩である以上、臨床的な診断は操作的診断の方が都合が良いのだ。

つまり、「検査でこれこれが見つかったから、診断はこれ」という世界観よりは、「検査値がこれこれだから 1 点、大関節に疼痛があるから 2 点、症状が 6 ヶ月前からあるから 1 点で、計 5 点。なのでかくかくと診断してよい」という世界観の方が都合が良い領域なのだ。

そこまで理解したうえで患者さん個々の病態の把握に向かう。検査値やら難しい疾患概念の微妙な差異やらはひとまず置いて、個々の患者さんの顔と名前を「主訴+大雑把な分類」で結びつけておいた方が実用上は便利なように思う。誤解を恐れずに言えば、診断名は経過とともに変わる可能性があるので、こう覚えておいた方がぱっと思い出しやすい。「関節リウマチと診断されている A さん」よりは「両肩部、両大腿部痛を訴えリウマチ性疾患を疑われている A さん」の方が、曖昧のようでいてより本質に近い感じがする。

で、件の A さんだが、両肩部痛、両大腿部痛から考えて、リウマチ性多発筋痛症・線維筋痛症・多発性筋炎あたりがあやしい(診断ではなく、訓練のための勝手読みです)。もちろん合併している可能性もある。

ちなみにリウマチ性多発筋痛症の診断基準の一つは ↓ です。慶応大学病院の HP からお借りしてきました。

 

症状の詳細はそちらの方を覗いてほしいが、ここでは「症状が比較的に短期(2 週間程度)に完成する」、「予後は良く、ステロイドが著効すれば、数か月~数年で症状改善し、ステロイドからの離脱も見込める」といった点に特に注目したい。

もし、Aさんが関節リウマチでなく、リウマチ性多発筋痛症だった場合、うまくいけば、めでたしめでたしで終わる可能性もあるわけで、その点も踏まえて訪問時の情報収集は重要だなと思う

何を聞けばいいだろうか?

・痛みはいつ始まったのか

・常時痛むのか?それとも起床時のみなのか?

・両肩痛とあるが、痛みは関節なのか?筋肉なのか?

・その他の関節(例えば、手指の関節)に痛みはあるか?

などなど。

長くても数年で訪問の必要性がなくなってしまうのと、今後、ある程度の長期にわたって訪問が必要になってくるのでは、諸々の準備・覚悟が違ってくる。だからこういった「予習」が必要なのだ。

今回は、予習はバッチリなような気がする。さて、出かけるか。

 

薬子
……と比較的、気持ちに余裕を持ってAさん宅に訪問したのですが、臨床はそんなに生易しくない。

やはりというべきか、事件が起こりました。

続きます。

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組み合わせと最適化と IT

nomad
今日は、これまでに勉強した糖尿病に関して、やや advanced な話をします。

 

糖尿病に限らず、治療薬の幅が増えるのはよいことだと思う。なぜなら、異なる治療薬を組み合わせることで、さらに良い効果が期待できるからだ。いわゆる併用療法というやつだ。糖尿病治療薬においては、いくつかの疫学的研究から実際の処方トレンドも変わってきていることがわかっている。具体的には、2 型糖尿病患者では SU 剤単剤療法が減り、DPP-4 阻害薬の使用率が増えている。これはわかる考え方だ。低血糖のリスクがつきまとう SU 剤のみを使うよりは、比較的安全な DPP-4 阻害薬をどこかで組み合わせた方がよいという判断によるものだろう。

次に問題となるのは、増えた選択肢の中から「どの薬を選び出し、どういった比率で投与するか」という最適化の問題だ。日本で使える経口糖尿病薬は 7 種類。単純に 2 剤選び出しただけでも 7C2 = 21 通りの組み合わせがある。これにインスリン製剤と GPL-1 受容体作動薬の注射剤 2 剤を足すと組み合わせ数は 36 通りに増える。さらに、これらを単剤での標準投与量の半分にして 0.5:0.5 で単純に投与すればよいかというとそういうわけにはいかないだろう。組み合わせの相性という因子の他に肝機能・腎機能による投与量調整も必要になってくるであろうからだ。

これに関連して(?)、興味深いニュースがあった。

日立製作所:電子カルテ解析を機械学習で、糖尿病治療の90日後の効果を高精度に予測

ビッグデータから、予後を機械学習で予測。。。流行りですね。

ですが、この手の研究結果は、吟味して受け止める必要があると思っている。

もちろん、これは素晴らしい研究なのかもしれないが、これだけではなんともいえない。まず、「HbA1c値を低減できる確率を、患者ごと、薬の種類ごとに予測可能なモデルを構築しました」とあるが、上述の通り糖尿病治療薬のトレンドは併用療法に移ってきている。単剤療法での予測が臨床的にみてどれほどの価値を持つのかという疑問がある。

次に、これは、単一大学機関でおこなわれる研究デザインにみられる共通の弱点だと思うのだが、「単一機関のカルテデータベースではすべての病歴・処方歴が集積しているわけではない」という問題点が挙げられる。例えば、虚血性心不全の発症リスクのある患者に SU 剤を極量まで投与するのは、かなり勇気の要る行為で、糖尿病治療を担当する主治医は投与量調整(減量)をおこなうと思うのだが、大学以外の診療所などで心臓病の治療がフォローされていた場合、こういった情報は解析対象の大学データベースには何ら反映されていない可能性がある。

さらに、カルテベースの解析につきまとう問題点として「保険病名の落とし穴」というものもある。例えば、 SGLT2 阻害薬は、1 型糖尿病患者に対する適応はないが、主治医がどうしても試してみたいと考えた場合、投与される可能性はある。この場合、主治医は、保険適応を通すためにカルテ上の病名に 2型糖尿病をそっと追加する。つまり、本来解析対象ではない患者が解析対象に混入されるのだ。今回は医師のチェックもはいっているようなので大丈夫だとは思うが、大規模病院向けの電子カルテシステムの開発を盛んにおこなっているとは思えない日立がこういった臨床上のニュアンスを汲み取れるのか、若干の不安は感じる。

目についた医療関係のニュースということ今回はこの報道記事を取り上げたが、特に日立やユタ大学に対して悪意があるわけではない。できれば正式な結果もみてみたいところなので、ぜひとも、オープンアクセスな媒体で公開してほしいと思う。



「新しい」糖尿病治療薬

大海薬子
糖尿病シリーズ第三弾。ようやくひとまとまりでしょうか。
ようやく最近の薬と結びつきます。
これが書きたかった。

 

一般的に言って、糖尿病の治療は、運動療法・食事療法・薬物療法の三つである。薬物療法にのみ目がいきがちであるが、「2 型」糖尿病が生活習慣と関係していることから考えて運動療法や食事療法の重要さも認識しておきたい。

しかし、薬剤師として知識をブラッシュアップさせておく必要があるのは、やはり薬物療法だ。特に、最近になって糖尿病治療薬は様変わりしている。従来にない機序に基づく薬が市場に投入されるようになった。これはなんとしてもついていかなくてはならない(信じられないかもしれないは、数年前までは、インスリン製剤の他には、メインを張る糖尿病治療薬は SU 剤やビグアナイド製剤くらいしかなかったのだ)。

機序に意識して、糖尿病治療薬をまとめる。

インスリン‥‥糖尿病ではインスリンが産生されないか不足しているので、インスリンそのものを生体外から補充する。考え方は、わかりやすい。

スルホニルウレア‥‥ SU 剤と表記されることが多い。2 型糖尿病では、膵臓でのインスリン産生能が残されているので、β 細胞を刺激してインスリン分泌を促す。グリメピリドなど。

ビグアナイド‥‥肝臓に作用して糖新生を抑制する。インスリン分泌云々には関係しないので 1 型糖尿病にも使える。食欲抑制効果もあるので肥満を持つ患者に良い適応になる。乳酸アシドーシスに注意が必要。メトホルミン、ブホルミンなど。

ここまでは、古くからある薬だ。インスリンそのものを外部から補充する、残されていたインスリンをこそぎ出す、インスリンとは関係なく肝臓での糖の産生を抑える、とその機序もわかりやすい。この他にもチアゾリジンや α グルコシターゼ阻害薬、グリニドがあるが、ここではその説明は割愛。

時代がくだると糖尿病関係の創薬は目のつけどころがより戦略的になる。

一般的に、糖を経口投与すると経静脈投与時よりも大きなインスリン作用が現れる。この経験的事実から、消化管に由来する何らかのインスリン分泌促進因子の存在が仮定されていた。このような作用を持つ化学物質のうち、特に消化管ホルモンをインクレチンと呼んでいた。インクレチンが 2 型糖尿病治療薬に転用できることは容易に想像できる。

GLP-1 受容体作動薬‥‥GLP-1 は 1980 年にアメリカ毒トカゲの唾液から同定されたインクレチンの一つである。インスリン分泌促進作用の他、胃内容物排出遅延作用もある。リラグルチド(商品名ビクトーザ)、デュラグラチド(商品名トルリシティアテオス)など。GLP-1 はペプチドのため当然経口投与はできない(インスリンと同様に皮下注)。GLP-1 にヒト抗体を結合し腎での排泄を遅延させたものがデュラグラチドである。

DPP-4 阻害薬‥‥生体内では GLP-1 は DPP-4 という酵素により急速に(半減期 1 ~ 2 分)分解される。DPP-4 の活性を阻害すれば、GLP-1 の分解が抑制され、結果としてインスリンの分泌が促進される。シタグリプチン(ジャヌビア®)など。

上記二つはインクレチン関連薬ともいわれる。ところで糖尿病患者では尿糖がみられることは前にも触れた。このとき、血液中の糖は、単純に濾し出されるわけではなく、いったん濾し出された後、SGLT2 というトランスポーターで能動的に血液に戻されている。SGLT2 を阻害すれば、血液中の余剰な糖は尿中に排泄されるため、結果として高血糖改善につながる。

SGLT2 阻害薬‥‥機序は上述の通り。腎臓に作用する点はユニーク。本邦では 2014 年に発売された新薬。インスリン云々は機序に関係しないため、 1 型糖尿病にも使える可能性がある。が、評価はまだまだこれからというところだろう。

GLP-1 受容体作動薬であるエキセナチド(バイエッタ®)が日本で発売されたのが、2010 年。糖尿病治療薬を取り巻く情況は、ここ十年で大きく様変わりしたものだ。

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「甘いものを食べすぎると糖尿病になりやすい」は本当か?

薬子
糖尿病シリーズ第二弾。

「甘いものを食べすぎると糖尿病になりやすい」

は本当でしょうか?

厳密にいうと違うと思いますが、あたっている節もあるように思います。

 

 

まず、糖尿病の病態をもう少しほりさげてみよう。糖尿病の本質が「持続的に高血糖の状態にあること」であり、血糖を下げるホルモンはインスリン「のみ」であることから、「何らかの理由によりインスリンの効果が出なくなった状態」が糖尿病の病態の中心と考えられる。インスリンの効果が出ない機序には、①インスリン自体の産生が乏しくなる、②インスリンは産生されているものの各種臓器がインスリンに反応しなくなる、ことが考えられる。実際には、インスリン産生→反応悪い→無理やりインスリン産生(インスリンは膵臓 β 細胞でつくられる )→膵臓 β 細胞が疲弊→インスリン産生量減少、という両者絡んだ悪循環が進行していくようだ。なお、免疫系の異常で突如として膵臓 β 細胞そのものが破壊され、インスリン産生ができなくなった病態もあり、これは「1 型」糖尿病という。1 型糖病病は、食事などの生活習慣とは一切関係なく発症するため、甘いものを食べすぎたからといって罹りやすくなるものではない。

問題なのは上記の悪循環で進行する「2 型」糖尿病のことでしょう。「肥満」や「運動不足」が危険因子とされている。甘いものを食べて『運動もしなければ』なりやすくなるといえるでしょう。

 
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糖尿病とは?

薬子
今日は、コモンディジーズ中のコモンディジーズ、糖尿病に関してまとめます。

というのは、糖尿病はここ数年で治療薬・治療戦略が大きく変化したから。

現場復帰したときは、知識をブラッシュアップするのが大変でした。

苦労しましたが、それでもついていくことができたのは、糖尿病の病態に関する基本的な知識があったからだと思います。基本て大事ですね。

だから、一般の人でも知識が定着しやすいように基本的なところから書いていこうと思います。

 

そもそも糖尿病とはなんでしょうか?

糖尿病は、世間的にもかなり誤解を受けている疾患ではないでしょうか。いわく「甘いものを食べすぎているとなりやすい」とか「おしっこが甘くなる」とか。。。断片的なイメージが先行しているように思う。私も医療職につくまでは、似たり寄ったりでしたが。

まず、糖尿病の本質ですが「血液中の糖の濃度(=血糖値)が持続して一定値を超えている状態」と捉えるといいと思います。

ここでまずでてくる疑問が「糖は、運動するためのエネルギー源と習った。人間に必要なものである。血糖値が高いとなぜまずいのか?」というものです。なるほど。確かに、例えば、通常の人でも食後数時間は高血糖の状態になることはあります。ですが、通常の食生活をしている人が重篤な疾患になるかというとそういうことはありません。なぜなら、通常は、インスリンというホルモンが分泌されて、全身の臓器で血液中の糖が取り込まれて血糖値は正常値に戻るからです。問題なのは、持続的に高血糖が続くことです。糖分子に含まれるアルデヒド基やケトン基は、基本的に反応性が高く、無秩序にたんぱく質や脂質と反応します。これから始まる一連の化学反応(糖化反応)が、生体にとって非常によくないのですね。具体的には、血管や神経にダメージをあたえ、糖尿病性腎症・糖尿病性神経障害・糖尿病性網膜症といった合併症をひきおこします。「糖病病を放置していたら、透析を受ける羽目におちいったり、失明してしまった」という話を聞くこともあるかと思いますが、それはこれら合併症によるものです。また、このように数年~数十年にわたって慢性的に進行する病態の他に、何かの拍子に急激に血糖値が上昇する糖尿病性高血糖という状態もあります。こちらの場合は、意識障害をともなうものもあり、迅速な処置が必要です。慢性的な症状も急性的な症状どちらもありますが、生体の許容量を超えた高血糖はいずれにしてもよくないわけです。

なお、血液中の糖が一定値(具体的には 180 mg/dl 程度)を超えると糖が尿中に漏れ出すため、「糖尿病では尿が甘くなる」というのは、ある程度、あたっています。ですが、単純に腎臓の病気で尿中に糖がじゃばじゃば漏れ出している病態も考えられるため、尿糖が糖尿病の本質かというとちょっと違うようです。

 
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受験めし

大海薬子
先生、中学理科の話、評判いいです。

できたら、「受験」にまつわるエピソードで1本書けないでしょうか?

季節も季節(初出は1月。受験シーズン直前)ですし

nomad
ああ、じゃああの話にしようかな

 

寒くなってきましたね。

この時期の風物詩の一つといえば、「受験」があります。

ネット上にも、受験にまつわるいろんな情報が集まっています。けっこう驚いたのは、「受験日の前日夜と当日朝には何を食べたらいいか?」というまとめサイトがあったこと。便利というかお節介というか。。。

『将棋めし』が話題になったことからわかるように、頭をフル回転で働かせているときの栄養補給は大事です。

色んな意見があると思いますが

① 脳の神経細胞がもっとも利用しやすいエネルギー源であるグルコースを速やかに補給する

ということに加え

② 気分転換作用を期待する

という意味で集中しているときの食事は確かに重要だと思います。① に関して軽くまとめておくと、

・脳の主要なエネルギー源は、グルコース(従来は、グルコース「のみ」といわれてきましたが、現在はケトン体というものもエネルギー源として利用できることがわかってます。けれどももっともお手軽に利用できるのはグルコース。医療現場で、経口摂取不能な低血糖患者にまずおこなう処置はグルコースの静脈注射です)。

・グルコースの消費量を臓器別にみると、脳で 2 割程度が消費されている(脳は非常に「ばか食い」です)。

・ご飯や麺などの炭水化物が体内で分解されてグルコースになる。一部のスポーツ選手は大会前日・当日にパスタやバナナなどを多めに摂取する(腸内から吸収することに加え、グリコーゲンという形で体内に備蓄しておくことができるため)。

といったところでしょうか。

一昔前の漫画だと特別な日の前に「ビフテキ喰いいくぞ!」という表現があったりしますが、戦後の食糧難の時代ならいざしらず、現在は、恒常的にアミノ酸が足りてないということは考えにくく、栄養面からみるとあまり意味がなさそうです。特別な食事で発奮させるという効果はあるかもしれませんが。過度のプレッシャーは、心理的な意味で良くなく、当日前日の食事などは常日頃から食べ慣れているものでいいんではないでしょうか。気になるようなら炭水化物多めで。

ただし、受験当日は、どんなに神経図太い人でも少なからず緊張状態におかれます。緊張状態におかれると、変にお腹がすいたり、逆に、食事が喉を通らなかったりと一時的な「摂食障害」が出る場合もあります。こればかりは当日になるまでわかりません。念のため、飲み物や手軽に食べられるお菓子類は持っていった方がいいかもしれません。ちなみに私は、某国家試験当日は、日頃から愛飲しているペットボトルの紅茶飲料を気持ち多めに持っていって助かりました。変に喉が渇くわ、えづくわで食事どころではなく、糖分入りの飲料水は、重宝しました。

ところで、こういった短期的な栄養補給ということの他に思い出すことがある。某国家試験の二か月ほど前だったろうか、受験の重苦しさを実感し始めたとき、突然、掌の皮がぼろぼろと剥げはじめた(落屑、という)。片方の掌だけであれば、接触性皮膚炎だとかが考えられるが、そうではない。両の掌のみに対称的に小さい白いぶつぶつ(水泡)ができて、やがてぼろぼろと剥がれ落ちていくのだ。痛みや痒みはまったくなし。なんだこれは?と調べてみると、『掌蹠膿疱症(しょうせきのうほうしょう)』というのがこれに近い。で、この病気の原因をさらに調べると、ビオチンという物質が不足してなるらしい。ビオチンは、かつて「ビタミン H」と言われていた補酵素の一種でヒトでは腸内細菌叢でつくられるらしい。どうやら、私の体内では、過度のストレス→腸内細菌叢破壊→ ビオチン産生量減少→掌蹠膿疱症、ということがおこっていたらしい。文字通り、「ストレスが身体に来て」しまったのだ。

そのときは、「今から緊張してもしょうがないし」と自分に言い聞かせ、気持ち野菜や乳製品を多めにとることでなんとか乗り切った覚えがある。ある程度の年齢になってしまえば、過度のストレスをかわす知恵を持っている。しかし、これが小学生や中学生くらいの年齢だったらどうだろう? 過剰なストレスを感じながらもその回避方法を知らない、というのはなんとも不健康な状態ではないだろうか。この業界に入ると、受験を背景にした下痢や血便に悩まされる子供が数多くいることを知ることになる。時には精神的な病に発展することもある。過剰ともいえるストレスに子どもを曝すのは、今の時代、ある程度仕方のないことなのかもしれない。けれど、子どもが自身で処理しきれない情況になったとき、手助けするのは周囲の大人の責任だ。そのようなとき、危険信号は、「食」がらみで出ることが多い。このことを心の片隅のどこかに留めておきたいと思う。

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