間質、の対になる言葉は?

薬子

むくみ」が好評だったようなので、付け足します。

そこで出てきた「間質」という言葉の連想からだと思いますが、「間質性肺炎って何ですか?」という質問をいただきました。

nomad
んー 、そういうのは質問というのか??? (´Д`)

じゃ、今日は私が説明。

 

 

ゲフィニチブ(イレッサ)の副作用ー間質性肺炎ー空咳

という試験対策用のキーワードの羅列丸暗記で「間質」を理解しているとそういうことになる。ちなみに「間質の対になる言葉は?」と訊くと、やはりというべきかほとんどの人がわかっていないので、たぶんそういうことなのだろう。

間質の対になる言葉は「実質」だ。臓器・組織においてその機能の中心となっている部分が「実質」であり、それ以外の部分はすべて「間質」である。

例えば、肝臓であればその機能の中心は「代謝・解毒」なので、実質は肝細胞そのもの、それ以外の血管内皮細胞・結合組織などはすべて間質である。肺の場合は、その機能の中心は「ガス交換」なので、実質は肺胞腔(肺胞+肺上皮細胞)、間質はそれ以外の肺胞壁モロモロということになる。

ここまでくれば、「間質性肺炎」という言葉の理解はできる。肺炎のうち炎症が生じる場所が主に肺間質であるものを「間質性肺炎」と呼んでいる。実質性肺炎という言い方は聞かないが、これは、実質に炎症がある場合は原因がほぼ細菌性・ウイルス性に限られるので、それぞれ「細菌性肺炎」・「ウイルス性肺炎」と呼んでいる、という事情による。

また、間質性肺炎は、炎症の首座が、(人体「外」環境に直接暴露されているといっていい)肺実質ではなく、間質という人体「内」であることから容易に想像がつくように免疫が関与している場合が多い。(先ほどチェックしたが、ゲフィニチブの副作用による間質性肺炎の機序はいまだに不明なようだ)

なお、間質性肺炎の症状は、息切れ・発熱・咳などであるが、炎症は気管支などには及んでいないため痰などはさほど分泌されず、咳は乾性の空咳になる。

これでキーワードはつながったかな?

 

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医療系まとめサイトは成立しないと思う

現在(2018/07/28)、「モジュレーター」でぐぐると、私の記事が4位にくる。最近までトップ記事だったので少し残念。

 

2, 3 位の weblio は仕方ないとして、問題はトップの「沖縄バイオポータルプラス」の記事内容

こんな感じ。

 

ふむふむ…

代謝活動に関する酵素には、本来の基質と全く異なった化合物が酵素の活性部位以外に結合することにより、酵素活性が変化するものがある。このような酵素をアロステリック酵素といい、これに結合してその酵素活性を調節する化合物をモジュレーターという。

これ、最後、モジュレーターじゃなくて「エフェクター」じゃない?

なんかすごい基本的なところで間違ってるような気がするんですけど。

元記事となった AMBiS 社の記事は単なる勘違いですまされるけど、アクセス数欲しさにそれをノーチェックで掲載したまとめサイトは、色んな意味であとあとまで責められると思う。

公益財団法人がこれやっちゃいかんでしょう。

沖縄の人に悪い人はいないと信じている。

 

 

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ちょっと告知

nomad
私と薬子さん、介護のカンファレンスに出席してきました。

高齢者介護だけが介護じゃないの巻

精神科関連の地域医療/大人の発達障害 に興味のある方は、覗きにいってください。

薬子
よろしく♪

 

東京医大の例のアレなど

東京医大の件

東京医大の裏口入学の一件が世間を騒がせているようだが、関係者の間ではこの事態はある程度は予想されていたように思う。

というのは、東京医大はどういうわけかその経営基盤が弱いようで、講師あたりをしている知り合いなども「お金なくて研究ができないんです」とよくこぼしていた。その拝金主義はどこかで破綻するだろうという予感はあったと思う。

私学医学部の経営事情一般に関してコメントするほど私はこの分野に詳しくはないが、こと東京医大で関係者の不信をかっていたと思うのは、臨床教授や臨床准教授という存在。

世間一般では「教授」や「大学の先生」というと研究業績もあってその分野の権威である偉い人とみなされていると思うが、医療関係者の間では「臨床教授」はそこまで評価は高くない。研究志向が強く、長くその教室で頑張っているが、教授になるほどの業績は上げられず、かといって単なる医員扱いするには忍びない…といった先生に与えられる通りのいい肩書きといった位置付けだろう。

もちろん、この特徴、つまり研究もある程度できて、臨床もできる、という特徴を活かして臨床教育などに立派に貢献されている尊敬すべき先生も数多くいることを私は知っている。

なのだが、こと東京医大となると…

なんで業績もほとんどないあんたが臨床准教授とかやってんねん

とツッコミ入れたくなるような人を教員にしていた。具体的には、それまで研究のケの字もしたこともないような私立病院の院長だとか理事長とかですね。その私立病院が教育的な病院ならわからなくもないのだが、ガチ経営重視のところだったりする。病院経営者のご子息の多い私立だからそれでもいいと言われれば元も子もないのだが、それであれば非常勤講師あたりの肩書きで留めておくのが良識というものだろう。

ここらへん、事情通からみたら「あ、あの院長、金で肩書きを手に入れたね」とわかると思うのだが、世間一般の人はなかなかそうもいかないだろう。

この騒動がどこまで広がるか私は予想もできないが、願わくば騒動後のこの大学(とその関連病院)の体制が健全化してくれるといいと思う。

 

ブログ記事とマネタイズ

私はこれまで各種メディアに記事一本いくらみたいな感じで雑文を提供していたが(これは私に限ったことではなく多くの医師がアルバイト感覚でやっていると思う)、こちらでブログを持たせてもらうにあたって執筆料の代わりにアドセンスによる広告料収入を選んだ。

連載当初などは1日0円なんて日が多く、正直、選択をあやまったかなと思わないでもなかったが、関係者が SEO (Search Engine Optimization 検索エンジン最適化。この言葉もこちらに来て初めて知った。現在勉強中)などを頑張ってくれたおかげか最近はアクセス数も増加し、それなりに収益が上がってきた。

まだまだ最終的な判断を下すには時期尚早だと思うが、「コンテンツを権利ごと売って一時的にまとまった収入を得るのと自前で発信して長期的にマネタイズしていくのはどっちが得か?」という問題は、似たような立場にいる方なら興味あるところだと思うので、もうちょっと観察を続けてはっきりとしたことが言えるようになったら、どこかで発表したいと思う。

 

モジュレーター

以前に某医療機関のブログに寄稿したモジュレーター関係の記事がおかげさまで好評で、あちこちで引用された結果、現在(2018/07/25)グーグルで「モジュレーター 」で検索するとトップにくる。

 

この医療機関にはこれまでの記事の働きでその知名度向上に十分寄与したと思うし、今後、もうちょっとモジュレーター 関係に関して書きたいことがあるので、関係者にお願いしてモジュレーター 関係のコンテンツを引き上げさせてもらった。

記事では、パルモディアという具体的な薬剤からモジュレーター を説明していたのだが、一般的に言えば、モジュレーターの一種としてパルモディアがあるという関係だと思うので、時間をみつけて 一般的な性質に関して書きたいと思う。

 

 

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モジュレーターって何?【新薬高脂血症薬パルモディア説明会に参加しました。】

nomad
以下が、『パルモディア -薬子的『モジュレーター』解釈-』の元記事になります。

一か所気に入らないところがあり、リライトするに至ったわけです。

どこかわかりますか?

 


新薬高脂血症薬パルモディア説明会に参加した。
まず、既存の薬ベザフィブラートの鍵と鍵穴の説明があった。【鍵穴:PPARα(ペルオキシダーゼ増殖因子受容体)、鍵(リガンドともいう):ベザフィブラート】
「新薬パルモディア(ペマフィブラート)は鍵穴(受容体)に入る鍵(リガンド)ではなく、モジュレーターです。」との興和(株)MRさんの説明がわからず、モジュレーターと鍵はどう違うんですか?と聞いてしまった。

その後、開発部門から模式図をいただいた。モジュレーターとは広義の意味で鍵であるが、生体の特定の機能のみを発現促進するように振舞うリガンドのことをいう。以下の模式図の通り、パルモディアは脂質代謝改善のみの機能を持つ(肝機能障害は従来のフィブラート系薬剤と比べおこりにくくなる)。

 

なぜ、このようなことができるのだろうか? 従来のフィブラート系薬剤も標的は PPARα で変わらない。

この機構を理解するポイントは、

・PPARα が核内受容体であり、直接 DNA の標的遺伝子部位と結合し他の因子により転写活性の調節を受けている

・ペマフィブラートは PPARα と結合することにより PPARα の立体構造を変化させ、他因子の結合状態を変えることで転写活性を調節している

にあると思う。アロステリック酵素の転写調節因子バージョンといえばわかりやすいか?

あるいは、膜受容体と比較するとわかりやすいかもしれない。『膜受容体とアゴニストの結合→細胞内シグナル伝達→遺伝子産物の産生』のような系では、特定の遺伝子機能だけを発現・促進させるというのは、なかなか難しい。それに対し PPARα + フィブラート は、これ自体が核内に移行し特定の DNA 領域と特異的に直接結合するため、望まない遺伝子産物をつくりだすことがない。さらに、自身の立体構造を変えることで、関連する一連の遺伝子のうち、例えば「脂質代謝に関連する酵素」をコードする遺伝子部位の転写活性を上げることができる。

もちろん、現実的にはこのように図式的・理想的には働いていないだろうし、臨床的な評価もこれからなのだが、薬剤設計自体はかなり工夫されたものではないだろうか。


nomad
気に入らなかったのは図です。

「別の」タンパク質が結合すると説明していますが、図はほぼ同種のタンパク質のように見えます。

ここで、注目すべきはそこではなくて、これらのタンパク質との結合部に関する立体構造が変わっているところでしょう。だから、転写活性が変わってくる、変わってもいいんだという説明になるはずです。

ある種の薬剤師さんが物理学、特に原子レベルでの分子の立体構造をイメージするのが苦手だ、という事情はぼやっとは理解しているのですが、苦手なことがわかっているならば修正すべきです。

特に高校時代、物理不履修者は、基本概念だけでもいいから現場に出る前にこの分野を理解しておく方が望ましいと思います。

医療には、総合科学的側面があり、物理・化学・生物の基礎の上に立脚しているので、何か一つが欠けていると実務に必要な知識の習得に困難を覚えるようになります。それが理由で現場に出れないとか出るのがおっくうになる、というのはもったいない話だと私は思います。

 

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パルモディア -薬子的『モジュレーター』解釈-

薬子
2018年6月に興和から

高脂血症治療薬パルモディア®️(一般名:ペマフィブラート)

が発売された。

このとき出てきたのが「モジュレーター」という概念。

発売元は、『パルモディアは「リガンド」ではなくて「モジュレーター」です』と説明した。

リガンド? モジュレーター? 違いは何でしょう

 

勉強会などでこの話題が出ることは多いですが、曖昧に(そして多くの場合、間違って)理解している方が多いようです。

ベザフィブラート

まず、従来のフィブラート系薬剤、ベザフィブラート(商品名:ベザトール®️など)の特徴をまとめましょう。

ベザフィブラートは、他のフィブラート系薬剤同様、細胞質内の PPARα (ピーパーアルファ)という受容体と結合し、核内に移行。他のコ・ファクターと転写因子複合体を形成して DNA に結合。脂質代謝改善遺伝子産物を発現させることで、体内の LDL コレステロール・トリグリセリドを減少させ、HDL コレステロールを増加させる。このとき、肝機能を障害させる遺伝子産物も発現してしまうため、副作用として肝機能障害が出現することがあります。

軽くイメージを掲げておくとこんな感じでしょうか。

ベザフィブラートを載せた PPARα 車は、核内へ移行。脂質代謝改善遺伝子産物も肝細胞障害関連遺伝子産物も区別なく転写翻訳してしまいます。

 

ベザフィブラートの改良

ベザフィブラートを改良してより意味のある薬剤を設計したい場合、なんとかして副作用である肝機能障害を抑えたいと考えるのではないでしょうか。発想としては単純ですが。

まさしくそれをやったのがペマフィブラートです。

ここで、着目すべきは「PPARα という受容体と結合し、核内に移行。他のコ・ファクターと転写因子複合体を形成して DNA に結合」という点です。

この転写因子複合体が肝障害関連遺伝子領域と結合するときには、転写率を下げるような機構があれば、上記の目標が達成できることがわかります。転写率を下げる、例えば、DNA とユルく結合(かなり比喩的な表現ですが)させればいいわけです。

そして、転写因子と DNA を「ユルく結合」させる最も簡単な方法は、ペマフィブラートが PPARα と結合し転写因子を形成した際、この転写因子の立体構造そのものを変化させることです。

イメージ的にいえば、こんな感じでしょうか。

 

図では、「立体構造の変化」を車のタイヤの形状で表現してみました。パルモディアを載せた PPARα 車はタイヤの形状が変化してしまいます。脂質代謝改善遺伝子領域ではがっちりと DNA 路面にタイヤが吸い付くものの、肝機能障害関連遺伝子領域ではタイヤの形状と DNA 路面が不適合をおこしています。実際にも PPARα-パルモディア転写因子は関連遺伝子のイントロン領域と結合するようです。(ただし、繰り返しますが、この説明はあくまで比喩的なものです。実際の転写過程では、他の因子もパルモディア-PPARα 転写因子に結合し、転写因子複合体とでもいうべきものをつくっています。他の因子も転写活性に影響を与えます)

 

ポイントは

  • PPARα が核内受容体(膜受容体→シグナル伝達系を使った場合、このような制御はできません)という点
  • ペマフィブラート-PPARα 転写因子の立体構造が変化する点

でしょうか。

確かに、パルモディアはリガンドのように特定の受容体と結合します。ただし、結合後、受容体の形状を変化させ、最終的な遺伝子産物の産生量を調整するように振舞います。だから、「モジュレーター」と呼ぶのですね。(人によっては、アロステリック酵素の転写因子バージョンと言った方が理解が早いかもしれません)

この用語が適切なものなのか、本当に意味のあるものなのか、私にはわかりませんが、ここでは、そう理解しましょう。

それにしても、パルモディア、狙ったつくったのか、それともたまたま見つけたものかわかりませんが、かなり精巧な働き方をするものだなと思います。

 

今後の評価

ただし、このような凝ったつくりこみをすると、その反動もあるようで、具体的には、パルモディアの代謝に関連する CYP などの酵素は、他の薬剤と被るものが多く、結果、併用に注意すべき薬剤が従来のフィブラート系薬剤に比べ増えています(シクロスポリン・リファンピシンが併用禁忌。クラリスマイシン・カルバマゼピン・フェノバルビタールなどが併用注意)。

パルモディアそれ自体は安全性の高い薬剤といえそうですが、肺炎を併発し抗菌薬の投与を受ける場合や、他に基礎疾患を持っており薬剤投与を受けている患者に対しては、相互作用のチェックが必要になりそうです。

 

よくある間違い

「他のフィブラート系と異なりペマフィブラート自体が PPARα と高選択で結びつき… 」とかいう勝手な解釈。いえいえ、ベザフィブラートもかなり選択的に PPARα と結合します。

『おくすり110番』

なんか説明がおかしいですよね。

 

も一つ。色んな意味で「罪深い」間違いをしている例を

医療系まとめサイトは成立しないと思う

にあげておきましたので、よかったらご一読のほどを。

 

 

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ネット版 症例発表における倫理指針

薬剤師、現場に出る』シリーズ

アルコール依存症患者では視床枕の体積減少がみられる

の影響か、医療・介護関係者の方々から、

「患者さん・利用者さんとのエピソードをブログやホームページに読み物として載せたいが、倫理的にどのような点に配慮したらいいか?」

という質問や

「開業しているが、臨床研究を始めたい。従うべき倫理基準は何か?」

というような質問を受けた。

いや、私は、バリバリの研究者でもなければ、その道の専門家ではないのだが…と思うのだが、今までの経験や調べた範囲内で有益と思われる情報をまとめる。

 

まず、後者はクリアカットなので、こちらから。

一言で言えば「所属学会の規定に従ってください」ということになる。たいていの主だった学会はこの手の倫理規定を制定し、公表しているのでそれに従う。

軽く検索をかけたのだが、例えば、消化器外科学会であれば『学会発表・論文投稿における倫理指針について』というページが公開されている。(消化器外科を挙げたのは、単に検索順位が上位だったからで他意はない)
たぶん、倫理委員会ウンヌンを気にされている先生が多いと思うが、

 

Q1:当院には倫理審査会がありません.学会発表はできませんか?
A:観察研究の倫理審査を行う倫理審査委員会やそれに準じた諮問委員会を常設していない施設からの本学会への研究発表や論文投稿については,できるだけ抄録登録時や投稿時に,関連の大学病院や医師会での倫理審査を受けてください

 

とのことなので、地元の医師会などに相談されるとよいと思う。気の利いた医師会ならば、常設はされてなくても、地元の弁護士さんや教育関係者などを集めて即席で審査会をつくってくれると思う。形式的になりがちな大学病院倫理委員会を通すより、こちらの方が話を吟味して聞いてくれそうで良いように思うのだが、どうだろう。

症例報告に関しては倫理委員会の承認すら不要のようだ。プライバシーに配慮して内容をまとめれば良いと思われる(ただし、症例 9 例以上は観察研究扱いになるようですね)。
なお、査読誌などに投稿する場合には、患者さんの書面同意が必要になると思うので、これぞと思われる症例にであったら、あらかじめ同意を取っておくと投稿時に患者さんの所在を探しまわる、というようなことがなくなるのでよいと思う。

 

問題は前者で、おそらく基準は存在しない。

私の場合は、「テクニカルには医師系学会の基準に従い、コンテンツに関しては『読み物』として割り切って本筋に関係ない余計な情報はどんどん捨てる」という書き方に徹している。

つまり、表記上のテクニックとしては、

【患者】秋葉太郎、35歳→ ×

「患者 A さん、30代」などとする

平成 30 年 7 月 6 日→×

たいてい話を始めたい日(初回訪問日など)があると思うので、その日を基準に X 日、X + 1日…などと表記する。

束大大学付属病院→×

A 病院、などとする

として、とにかく患者さんの特定に繋がりそうな情報はどんどん匿名化する。

また、患者さん・利用者さんとのエピソードを書きたいという場合、学術目的というよりは、「エピソードを通してその施設の特色を表現したい」とか「そのエピソードで得た学びを共有したい」ということだと思うので、内容を「症例報告風読み物」に寄せる。

これは学会発表ではないので、例えば、検査値が丸ごと記載されてなくとも、

会場最前列に陣取ったお年を召した大御所から「その時の○○の数値はいくつだったの? 覚えてない? それ、治療方針を決める上で最も重要な値だよ。君、患者さんのこと把握してんの」と突っ込まれ、発表者はおろおろ、指導医が大慌てでフォローに入る、という学会地方会で毎回のように繰り返される微笑ましいワンシーン

になるようなことはない。安心してほしい。むしろ、その執筆意図から考えて、ストーリーに関係ないものは積極的に捨てるべきだと思う。

患者さん・利用者さんの同意に関しては、「決まり」という意味では書面同意を取るのが安全なのだろうが、堅苦しい。医療機関ブログにはコミュニケーション・ツールとしての一面もあるため「ブログ面白いですね。今度、私のことも書いてくださいよ」と自然と自発的同意が取れるような関係になっているのが理想的と思われる。

 

以上、倫理関係に関して述べてみました。

回答になっているでしょうかね。

(追記)医療ジャーナリスト(兼医師)の中山佑次郎氏より「年齢、性別などを変えており、『これは私の話かも』と思っても当てはまりません」という記載を加えておくのもよいのではないかという提案を受けた。なるほど、これなら被害的になり注察妄想を持つ傾向のある患者さんに対しても「自分のことじゃない」という安心感を与えますね。良い工夫のように思います。

 

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薬剤師、現場に出る -白昼の死角-

薬子
前回の患者さんの話の続きです。つまり

『50 歳代の女性。病名はついているが、いわゆる膠原病。肩と大腿の痛みが強いため通院困難となり、治療薬であるステロイドを届けるため当薬局の出番となった』(薬剤師、現場に出る -〇〇を主訴とする膠原病

という患者さんがいて、訪問前に予習が必要!みたいな話を前回までしました。

 

では、それで準備は万全だったかというと、やはりというべきか、全然、そんなことはなかった。

訪問前の経過をもうちょっと詳しく書く。

X月1日:背部痛を訴え A 病院受診。プレドニゾロン5mg、4錠/日、分2、21日分が処方された。

X月4日:痛みが治まらず再度受診。プレドニゾロン5mg、2錠/日、分2、16日分が追加され6錠/日。増量奏功し、その後、背部痛は消失。

X月20日:A 病院外来日。診察の結果、経過良好と判断され プレドニゾロン5mg、3錠/日、分1、21日分に処方変更(半量に減量)。

このとき、処方されたプレドニゾロンをお届けするために当薬局の出番となったのだった。何の問題もないようだが…。

訪問日:起床時より背部痛再燃。訪問していた介護担当職員が、 A 病院と当薬局にその旨を連絡。私は、医師にプレドニゾロン5mg、6錠/日、分2に戻してはどうかと処方提案。追加処方がなされた。

余裕、余裕と思ってたら、患者さん、突然痛みを訴え始めたわけです。

「痛がっている」といっても、目の前に患者さんがいるわけでもないので、どう痛いかわからない。

訪問前にその報告を聞いて、一瞬、うろたえましたが、そこはこれまでの精進の賜物、「基礎疾患はリウマチ関連であることに間違いはない。メインの処方薬はステロイド。だから」となんとか考えを推し進め、プレドニゾロンの減量で病勢が悪化したと判断し、ならば、再度増量するのが良いのでは?と考えたわけです。

少しは、成長できたかな>私

これでも間違えではなかったと思うのですが、実は、他にももっと良い正解がありました。

同日午後、訪問。ご家族が以前に購入されていた市販薬のイブプロフェンを介護担当職員が患者に服用させ、痛みは既に治まっていたことが判明。A病院担当医師と協議の結果、疼痛時の屯用薬としてあらためて(医科用)イブプロフェン錠が処方された。

介護職員さん、ナイスプレー

実際に訪問したら、患者さんけろっとしてました。

簡単に言えば、ステロイドの用量調整に気をとられすぎ、疼痛コントロールが盲点になってしまっていたわけですね。リウマチ性の疾患といえば、(新しい生物学的製剤が出てきたとはいえ)ステロイドはまだまだメインの治療薬といえる。だから、この領域の疾患では、治療面ではステロイドの用量調整が問題点のすべてだと思いがちだ。だが、実際には、ステロイドの導入時なども含めて薬剤調整時に疼痛コントロールが不良になることがしばしばあるし、この症例はまさしくそれであった。

また、この手の問題は、在宅医療に固有の問題のようにも思う(ちと大げさか)。例えば、これが病院であれば、最寄りの医師が『疼痛時:ロキソニン(60) 1 錠 タケプロン(15) 1 C 経口投与』と指示を出すだけでとりあえずは解決する問題だ。ところが在宅では、主な観察者は家族や介護職員になる。病状の評価や報告はどうしても、医療者のそれとは変わってくる。上の例では、結果的に介護職員さんのファインプレーで問題は早期解決をみたが、治療環境が変わると問題点も変わってくるのだなということがよくわかった。今回、私が市販の併用薬確認を怠り、倍量のステロイドを提案してしまったが、今後は、同様な場面では、非ステロイド系抗炎症薬の使用も考慮していきたい。

 


いちおう一般の方向けにもうちょっと説明しておくと…。

プレドニゾロンは、ステロイド系の抗炎症薬で、抗リウマチ薬・生物学製剤とともに関節リウマチの治療に使われる。治療が奏功すれば、結果として、リウマチに伴う痛みも消失する。

イブプロフェンは、非ステロイド系の抗炎症薬で、即効性があり(半減期は1.8時間)、一時的に強い痛みを取ることができる。

今回、ステロイドの用法が変更されたこと(分2から分1)、用量が減量されたこと(3錠/日から6錠/日)で、ステロイドの効果が減弱し、痛みが強まったと考えられます。

なお、ステロイドは少量でも長期投与すると、感染症、骨粗しょう症などを引き起こす可能性があることが知られている。ステロイド 2.5mg/日でも骨折リスクが1.5倍に増えるという報告もある。主治医は副作用を鑑み、早期減量を行ったわけですね。

ちなみに、ステロイド・非ステロイド系抗炎症薬の副作用は以下の通りです。

ステロイド:最も強力な抗炎症薬であるが、副作用が強い。ステロイドの副作用は軽いものとしてはムーンフェイス、中心性肥満、痤瘡(にきび)、白血球増多、多毛などがあり、特に注意が必要な副作用としては感染症、骨粗鬆症、骨折、動脈硬化病変(心筋梗塞、脳梗塞など)、ステロイド性糖尿病、消化管潰瘍、白内障、緑内障、高血圧症、脂質異常症、副腎機能低下、精神症状などがある。

非ステロイド系抗炎症薬:副作用として、消化管出血、消化管潰瘍があり、特にステロイド薬もしくは少量のアスピリン(商品名:バイアスピリン®など)との併用で頻度が増すことが知られている。他にも腎機能障害や心血管障害のリスクが報告されている。

 

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薬剤師、現場に出る -〇〇を主訴とする膠原病-

薬子
さて、お待ちかね、在宅が気になる薬剤師さんから人気の「現場に出る」シリーズ。

……なんですが、今回、訪問に伺う患者様は、リウマチ関連性疾患。

私、この疾患が昔から苦手で。

nomad
それは無理もない。

医師でも実際に患者さんを担当するまでは、苦手な人が多いように思う。

その原因の一つは、一見、曖昧に見える診断基準。

でも、これは疾患が疾患だけに仕方のないことなんだ。

「○×菌が見つかったから、△□性肺炎」というように原因と結果が1対1に対応しているわけではない。だから、一見、ぼやっとした操作的診断基準を使わざるをえないが、臨床的にはそちらの方が都合がいいんだ。

この背景を知っているだけでも理解が早くなるかもしれないよ。

 

今回、訪問に伺う患者様は、50 歳代の女性。病名はついているが、いわゆる膠原病。肩と大腿の痛みが強いため通院困難となり、治療薬であるステロイドを届けるため当薬局の出番となった。

で、膠原病なんですが、これが昔から苦手。。。

まず、疾患分類からしてわかりにくい。膠原病の代表的疾患である関節リウマチにしても、あるときはリウマチ性疾患、あるときは膠原病、またあるときは自己免疫性疾患に分類される。

また、診断もわかりにくい。同じような訴えをしていても、検査値の微妙な違いで診断名が変わったり、別の疾患が合併したりする。

さらに、せっかく診断が決まってもかなりの頻度でステロイドが治療薬のメインになり、「ステロイドが効いたのだから、診断は〇×」というふうに理解することができない。

要するに、患者さん個々の病態が把握しにくく、言ってみれば「患者さんの区別がつきにくい」のだ。

これではいけない、というわけで勉強。

まず、分類・診断の曖昧さだが、これは歴史的に見ると致し方ないことがわかる。この分野の疾患の多くは、その原因として自己免疫系の異常が想定されるようになったが、このような理解がされるためには、現代的な生物学の発展を待たねばならなかったし、現代でもその解明が完全になされているわけではないので、臨床的な分類のベースは経験的なものに頼らざるをえない。また、自己免疫が関与しているというのは、例えば、悪さをする抗原抗体複合物が、関節に沈着すれば関節痛、筋肉に堆積すれば筋肉痛、血管壁に固着すれば血管炎として出現する、という症状の多彩さにつながる。症状が多彩である以上、臨床的な診断は操作的診断の方が都合が良いのだ。

つまり、「検査でこれこれが見つかったから、診断はこれ」という世界観よりは、「検査値がこれこれだから 1 点、大関節に疼痛があるから 2 点、症状が 6 ヶ月前からあるから 1 点で、計 5 点。なのでかくかくと診断してよい」という世界観の方が都合が良い領域なのだ。

そこまで理解したうえで患者さん個々の病態の把握に向かう。検査値やら難しい疾患概念の微妙な差異やらはひとまず置いて、個々の患者さんの顔と名前を「主訴+大雑把な分類」で結びつけておいた方が実用上は便利なように思う。誤解を恐れずに言えば、診断名は経過とともに変わる可能性があるので、こう覚えておいた方がぱっと思い出しやすい。「関節リウマチと診断されている A さん」よりは「両肩部、両大腿部痛を訴えリウマチ性疾患を疑われている A さん」の方が、曖昧のようでいてより本質に近い感じがする。

で、件の A さんだが、両肩部痛、両大腿部痛から考えて、リウマチ性多発筋痛症・線維筋痛症・多発性筋炎あたりがあやしい(診断ではなく、訓練のための勝手読みです)。もちろん合併している可能性もある。

ちなみにリウマチ性多発筋痛症の診断基準の一つは ↓ です。慶応大学病院の HP からお借りしてきました。

 

症状の詳細はそちらの方を覗いてほしいが、ここでは「症状が比較的に短期(2 週間程度)に完成する」、「予後は良く、ステロイドが著効すれば、数か月~数年で症状改善し、ステロイドからの離脱も見込める」といった点に特に注目したい。

もし、Aさんが関節リウマチでなく、リウマチ性多発筋痛症だった場合、うまくいけば、めでたしめでたしで終わる可能性もあるわけで、その点も踏まえて訪問時の情報収集は重要だなと思う

何を聞けばいいだろうか?

・痛みはいつ始まったのか

・常時痛むのか?それとも起床時のみなのか?

・両肩痛とあるが、痛みは関節なのか?筋肉なのか?

・その他の関節(例えば、手指の関節)に痛みはあるか?

などなど。

長くても数年で訪問の必要性がなくなってしまうのと、今後、ある程度の長期にわたって訪問が必要になってくるのでは、諸々の準備・覚悟が違ってくる。だからこういった「予習」が必要なのだ。

今回は、予習はバッチリなような気がする。さて、出かけるか。

 

薬子
……と比較的、気持ちに余裕を持ってAさん宅に訪問したのですが、臨床はそんなに生易しくない。

やはりというべきか、事件が起こりました。

続きます。

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組み合わせと最適化と IT

nomad
今日は、これまでに勉強した糖尿病に関して、やや advanced な話をします。

 

糖尿病に限らず、治療薬の幅が増えるのはよいことだと思う。なぜなら、異なる治療薬を組み合わせることで、さらに良い効果が期待できるからだ。いわゆる併用療法というやつだ。糖尿病治療薬においては、いくつかの疫学的研究から実際の処方トレンドも変わってきていることがわかっている。具体的には、2 型糖尿病患者では SU 剤単剤療法が減り、DPP-4 阻害薬の使用率が増えている。これはわかる考え方だ。低血糖のリスクがつきまとう SU 剤のみを使うよりは、比較的安全な DPP-4 阻害薬をどこかで組み合わせた方がよいという判断によるものだろう。

次に問題となるのは、増えた選択肢の中から「どの薬を選び出し、どういった比率で投与するか」という最適化の問題だ。日本で使える経口糖尿病薬は 7 種類。単純に 2 剤選び出しただけでも 7C2 = 21 通りの組み合わせがある。これにインスリン製剤と GPL-1 受容体作動薬の注射剤 2 剤を足すと組み合わせ数は 36 通りに増える。さらに、これらを単剤での標準投与量の半分にして 0.5:0.5 で単純に投与すればよいかというとそういうわけにはいかないだろう。組み合わせの相性という因子の他に肝機能・腎機能による投与量調整も必要になってくるであろうからだ。

これに関連して(?)、興味深いニュースがあった。

日立製作所:電子カルテ解析を機械学習で、糖尿病治療の90日後の効果を高精度に予測

ビッグデータから、予後を機械学習で予測。。。流行りですね。

ですが、この手の研究結果は、吟味して受け止める必要があると思っている。

もちろん、これは素晴らしい研究なのかもしれないが、これだけではなんともいえない。まず、「HbA1c値を低減できる確率を、患者ごと、薬の種類ごとに予測可能なモデルを構築しました」とあるが、上述の通り糖尿病治療薬のトレンドは併用療法に移ってきている。単剤療法での予測が臨床的にみてどれほどの価値を持つのかという疑問がある。

次に、これは、単一大学機関でおこなわれる研究デザインにみられる共通の弱点だと思うのだが、「単一機関のカルテデータベースではすべての病歴・処方歴が集積しているわけではない」という問題点が挙げられる。例えば、虚血性心不全の発症リスクのある患者に SU 剤を極量まで投与するのは、かなり勇気の要る行為で、糖尿病治療を担当する主治医は投与量調整(減量)をおこなうと思うのだが、大学以外の診療所などで心臓病の治療がフォローされていた場合、こういった情報は解析対象の大学データベースには何ら反映されていない可能性がある。

さらに、カルテベースの解析につきまとう問題点として「保険病名の落とし穴」というものもある。例えば、 SGLT2 阻害薬は、1 型糖尿病患者に対する適応はないが、主治医がどうしても試してみたいと考えた場合、投与される可能性はある。この場合、主治医は、保険適応を通すためにカルテ上の病名に 2型糖尿病をそっと追加する。つまり、本来解析対象ではない患者が解析対象に混入されるのだ。今回は医師のチェックもはいっているようなので大丈夫だとは思うが、大規模病院向けの電子カルテシステムの開発を盛んにおこなっているとは思えない日立がこういった臨床上のニュアンスを汲み取れるのか、若干の不安は感じる。

目についた医療関係のニュースということ今回はこの報道記事を取り上げたが、特に日立やユタ大学に対して悪意があるわけではない。できれば正式な結果もみてみたいところなので、ぜひとも、オープンアクセスな媒体で公開してほしいと思う。