前回の「スピン」がけっこうキモでしょうか。
ここから、画像を構成するところまでいければいいいのですが。
以前に説明したように水素の原子核(ほとんどの場合、陽子1個)には磁石としての性質があります。
身体と同方向に強い磁場をかけるとこの小さな磁石の大半は、かけられた磁場と同じ方向に向きをそろえます。ですが、このとき、もう一つの状態、つまりかけられた磁場と反対向きの状態も取ることができます。ちょうど棒磁石のN極とS極が反転したような状態です。エネルギー的に不利になるので、通常はこういうことはあまりおこらないのですが。
ですが、このとき、この二つの状態のエネルギー差に対応したエネルギーを外部から与えられとしたら、どうなるでしょう?
答えは、もう一つの状態に移行する、です。なお、このとき、原子の中心にいる原子核にエネルギーを与える方法は、「飛び道具」の電磁波くらいしかありません。棒でつっつくとかはできませんから(笑)。
電磁波のエネルギーを吸収した原子核はいったん高いエネルギー状態(磁場とは反対向き)に移行しますが、やはり不安定なので、やがて元の状態に戻っていきます。このとき、電磁波を放出します。(下の図では、高エネルギー状態を赤く表示しました)
ところで身体の大部分は水でできています。水は分子式で書けば H2O でしたね。放出された電磁波の一つ一つはわずかなエネルギーしか持ちませんが、ありがたいことに水分子の水素(H)が身体に大量に存在するおかげで、この電磁波を検出することができるのです。
このとき、この電磁波が身体のどこから飛んできたか(位置情報)がわかれば、それは身体の水素原子核(プロトンという)の分布を反映していることになります。
MRIの画像の基本の一つは、このプロトン密度を強調した画像です。水分含有量が多い脳脊髄液では高信号(普通は白く表示する)になり、あまり水分を含んでいない骨組織(の固い部分)などでは低信号(黒く描画される)になります。
これが、MRIで組織ごとにコントラストに差が出る基本的な仕組みです。形態を知る上では非常に重要な情報になります。
なお、このとき外部から与える電磁波はMHzくらいで、ラジオ波という言い方をします。FM放送が使っている周波数帯を思い出せば、この呼称は納得できるでしょう。
ラジオ波をかけると言っても原子核中の水素を「あたためる」だけのものなので、X線のように遺伝子本体(DNA)に影響はあたえるものではありません。MRIは「核」磁気共鳴がその原理ですが、日本では「核」という言葉に悪いイメージが伴うことが多かったので、今でも「磁気共鳴」と説明されていることが多いようです。もちろんラジオ周波数程度では、核分裂したり、核融合したりということはおこりません。
急性期脳出血(矢印)のMRI画像(沖縄県医師会報からの引用)
ラジオ周波数のかけ方によって、プロトン密度以外の情報も取得することができます。T1強調、T2強調、…いろいろあります。上のMRIの画像を見てください。脳出血をするとその部位の水分子や周囲の状況が変わるので、MRIの撮像方法によってコントラストが変わってきます。MRIは病気の診断にも応用できるのです。
アイキャッチ画像は、
Lionheart, W. R. B. (2015). An MRI DICOM data set of the head of a normal male human aged 52 [Data set]. Zenodo. http://doi.org/10.5281/zenodo.16956
を、HorliX という医療画像ビューアで表示させたものです。
左が T1 強調画像、右が T2 強調画像です。同じ患者さんでも、ラジオ周波数のかけ方や信号の取得の仕方によって画像のコントラストが変わるのがわかるかと思います。
監修:猪股弘明(精神科医師)