ネット版 症例発表における倫理指針

薬剤師、現場に出る』シリーズ

アルコール依存症患者では視床枕の体積減少がみられる

の影響か、医療・介護関係者の方々から、

「患者さん・利用者さんとのエピソードをブログやホームページに読み物として載せたいが、倫理的にどのような点に配慮したらいいか?」

という質問や

「開業しているが、臨床研究を始めたい。従うべき倫理基準は何か?」

というような質問を受けた。

いや、私は、バリバリの研究者でもなければ、その道の専門家ではないのだが…と思うのだが、今までの経験や調べた範囲内で有益と思われる情報をまとめる。

 

まず、後者はクリアカットなので、こちらから。

一言で言えば「所属学会の規定に従ってください」ということになる。たいていの主だった学会はこの手の倫理規定を制定し、公表しているのでそれに従う。

軽く検索をかけたのだが、例えば、消化器外科学会であれば『学会発表・論文投稿における倫理指針について』というページが公開されている。(消化器外科を挙げたのは、単に検索順位が上位だったからで他意はない)
たぶん、倫理委員会ウンヌンを気にされている先生が多いと思うが、

 

Q1:当院には倫理審査会がありません.学会発表はできませんか?
A:観察研究の倫理審査を行う倫理審査委員会やそれに準じた諮問委員会を常設していない施設からの本学会への研究発表や論文投稿については,できるだけ抄録登録時や投稿時に,関連の大学病院や医師会での倫理審査を受けてください

 

とのことなので、地元の医師会などに相談されるとよいと思う。気の利いた医師会ならば、常設はされてなくても、地元の弁護士さんや教育関係者などを集めて即席で審査会をつくってくれると思う。形式的になりがちな大学病院倫理委員会を通すより、こちらの方が話を吟味して聞いてくれそうで良いように思うのだが、どうだろう。

症例報告に関しては倫理委員会の承認すら不要のようだ。プライバシーに配慮して内容をまとめれば良いと思われる(ただし、症例 9 例以上は観察研究扱いになるようですね)。
なお、査読誌などに投稿する場合には、患者さんの書面同意が必要になると思うので、これぞと思われる症例にであったら、あらかじめ同意を取っておくと投稿時に患者さんの所在を探しまわる、というようなことがなくなるのでよいと思う。

 

問題は前者で、おそらく基準は存在しない。

私の場合は、「テクニカルには医師系学会の基準に従い、コンテンツに関しては『読み物』として割り切って本筋に関係ない余計な情報はどんどん捨てる」という書き方に徹している。

つまり、表記上のテクニックとしては、

【患者】秋葉太郎、35歳→ ×

「患者 A さん、30代」などとする

平成 30 年 7 月 6 日→×

たいてい話を始めたい日(初回訪問日など)があると思うので、その日を基準に X 日、X + 1日…などと表記する。

束大大学付属病院→×

A 病院、などとする

として、とにかく患者さんの特定に繋がりそうな情報はどんどん匿名化する。

また、患者さん・利用者さんとのエピソードを書きたいという場合、学術目的というよりは、「エピソードを通してその施設の特色を表現したい」とか「そのエピソードで得た学びを共有したい」ということだと思うので、内容を「症例報告風読み物」に寄せる。

これは学会発表ではないので、例えば、検査値が丸ごと記載されてなくとも、

会場最前列に陣取ったお年を召した大御所から「その時の○○の数値はいくつだったの? 覚えてない? それ、治療方針を決める上で最も重要な値だよ。君、患者さんのこと把握してんの」と突っ込まれ、発表者はおろおろ、指導医が大慌てでフォローに入る、という学会地方会で毎回のように繰り返される微笑ましいワンシーン

になるようなことはない。安心してほしい。むしろ、その執筆意図から考えて、ストーリーに関係ないものは積極的に捨てるべきだと思う。

患者さん・利用者さんの同意に関しては、「決まり」という意味では書面同意を取るのが安全なのだろうが、堅苦しい。医療機関ブログにはコミュニケーション・ツールとしての一面もあるため「ブログ面白いですね。今度、私のことも書いてくださいよ」と自然と自発的同意が取れるような関係になっているのが理想的と思われる。

 

以上、倫理関係に関して述べてみました。

回答になっているでしょうかね。

(追記)医療ジャーナリスト(兼医師)の中山佑次郎氏より「年齢、性別などを変えており、『これは私の話かも』と思っても当てはまりません」という記載を加えておくのもよいのではないかという提案を受けた。なるほど、これなら被害的になり注察妄想を持つ傾向のある患者さんに対しても「自分のことじゃない」という安心感を与えますね。良い工夫のように思います。

 

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薬剤師、現場に出る -白昼の死角-

薬子
前回の患者さんの話の続きです。つまり

『50 歳代の女性。病名はついているが、いわゆる膠原病。肩と大腿の痛みが強いため通院困難となり、治療薬であるステロイドを届けるため当薬局の出番となった』(薬剤師、現場に出る -〇〇を主訴とする膠原病

という患者さんがいて、訪問前に予習が必要!みたいな話を前回までしました。

 

では、それで準備は万全だったかというと、やはりというべきか、全然、そんなことはなかった。

訪問前の経過をもうちょっと詳しく書く。

X月1日:背部痛を訴え A 病院受診。プレドニゾロン5mg、4錠/日、分2、21日分が処方された。

X月4日:痛みが治まらず再度受診。プレドニゾロン5mg、2錠/日、分2、16日分が追加され6錠/日。増量奏功し、その後、背部痛は消失。

X月20日:A 病院外来日。診察の結果、経過良好と判断され プレドニゾロン5mg、3錠/日、分1、21日分に処方変更(半量に減量)。

このとき、処方されたプレドニゾロンをお届けするために当薬局の出番となったのだった。何の問題もないようだが…。

訪問日:起床時より背部痛再燃。訪問していた介護担当職員が、 A 病院と当薬局にその旨を連絡。私は、医師にプレドニゾロン5mg、6錠/日、分2に戻してはどうかと処方提案。追加処方がなされた。

余裕、余裕と思ってたら、患者さん、突然痛みを訴え始めたわけです。

「痛がっている」といっても、目の前に患者さんがいるわけでもないので、どう痛いかわからない。

訪問前にその報告を聞いて、一瞬、うろたえましたが、そこはこれまでの精進の賜物、「基礎疾患はリウマチ関連であることに間違いはない。メインの処方薬はステロイド。だから」となんとか考えを推し進め、プレドニゾロンの減量で病勢が悪化したと判断し、ならば、再度増量するのが良いのでは?と考えたわけです。

少しは、成長できたかな>私

これでも間違えではなかったと思うのですが、実は、他にももっと良い正解がありました。

同日午後、訪問。ご家族が以前に購入されていた市販薬のイブプロフェンを介護担当職員が患者に服用させ、痛みは既に治まっていたことが判明。A病院担当医師と協議の結果、疼痛時の屯用薬としてあらためて(医科用)イブプロフェン錠が処方された。

介護職員さん、ナイスプレー

実際に訪問したら、患者さんけろっとしてました。

簡単に言えば、ステロイドの用量調整に気をとられすぎ、疼痛コントロールが盲点になってしまっていたわけですね。リウマチ性の疾患といえば、(新しい生物学的製剤が出てきたとはいえ)ステロイドはまだまだメインの治療薬といえる。だから、この領域の疾患では、治療面ではステロイドの用量調整が問題点のすべてだと思いがちだ。だが、実際には、ステロイドの導入時なども含めて薬剤調整時に疼痛コントロールが不良になることがしばしばあるし、この症例はまさしくそれであった。

また、この手の問題は、在宅医療に固有の問題のようにも思う(ちと大げさか)。例えば、これが病院であれば、最寄りの医師が『疼痛時:ロキソニン(60) 1 錠 タケプロン(15) 1 C 経口投与』と指示を出すだけでとりあえずは解決する問題だ。ところが在宅では、主な観察者は家族や介護職員になる。病状の評価や報告はどうしても、医療者のそれとは変わってくる。上の例では、結果的に介護職員さんのファインプレーで問題は早期解決をみたが、治療環境が変わると問題点も変わってくるのだなということがよくわかった。今回、私が市販の併用薬確認を怠り、倍量のステロイドを提案してしまったが、今後は、同様な場面では、非ステロイド系抗炎症薬の使用も考慮していきたい。

 


いちおう一般の方向けにもうちょっと説明しておくと…。

プレドニゾロンは、ステロイド系の抗炎症薬で、抗リウマチ薬・生物学製剤とともに関節リウマチの治療に使われる。治療が奏功すれば、結果として、リウマチに伴う痛みも消失する。

イブプロフェンは、非ステロイド系の抗炎症薬で、即効性があり(半減期は1.8時間)、一時的に強い痛みを取ることができる。

今回、ステロイドの用法が変更されたこと(分2から分1)、用量が減量されたこと(3錠/日から6錠/日)で、ステロイドの効果が減弱し、痛みが強まったと考えられます。

なお、ステロイドは少量でも長期投与すると、感染症、骨粗しょう症などを引き起こす可能性があることが知られている。ステロイド 2.5mg/日でも骨折リスクが1.5倍に増えるという報告もある。主治医は副作用を鑑み、早期減量を行ったわけですね。

ちなみに、ステロイド・非ステロイド系抗炎症薬の副作用は以下の通りです。

ステロイド:最も強力な抗炎症薬であるが、副作用が強い。ステロイドの副作用は軽いものとしてはムーンフェイス、中心性肥満、痤瘡(にきび)、白血球増多、多毛などがあり、特に注意が必要な副作用としては感染症、骨粗鬆症、骨折、動脈硬化病変(心筋梗塞、脳梗塞など)、ステロイド性糖尿病、消化管潰瘍、白内障、緑内障、高血圧症、脂質異常症、副腎機能低下、精神症状などがある。

非ステロイド系抗炎症薬:副作用として、消化管出血、消化管潰瘍があり、特にステロイド薬もしくは少量のアスピリン(商品名:バイアスピリン®など)との併用で頻度が増すことが知られている。他にも腎機能障害や心血管障害のリスクが報告されている。

 

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組み合わせと最適化と IT

nomad
今日は、これまでに勉強した糖尿病に関して、やや advanced な話をします。

 

糖尿病に限らず、治療薬の幅が増えるのはよいことだと思う。なぜなら、異なる治療薬を組み合わせることで、さらに良い効果が期待できるからだ。いわゆる併用療法というやつだ。糖尿病治療薬においては、いくつかの疫学的研究から実際の処方トレンドも変わってきていることがわかっている。具体的には、2 型糖尿病患者では SU 剤単剤療法が減り、DPP-4 阻害薬の使用率が増えている。これはわかる考え方だ。低血糖のリスクがつきまとう SU 剤のみを使うよりは、比較的安全な DPP-4 阻害薬をどこかで組み合わせた方がよいという判断によるものだろう。

次に問題となるのは、増えた選択肢の中から「どの薬を選び出し、どういった比率で投与するか」という最適化の問題だ。日本で使える経口糖尿病薬は 7 種類。単純に 2 剤選び出しただけでも 7C2 = 21 通りの組み合わせがある。これにインスリン製剤と GPL-1 受容体作動薬の注射剤 2 剤を足すと組み合わせ数は 36 通りに増える。さらに、これらを単剤での標準投与量の半分にして 0.5:0.5 で単純に投与すればよいかというとそういうわけにはいかないだろう。組み合わせの相性という因子の他に肝機能・腎機能による投与量調整も必要になってくるであろうからだ。

これに関連して(?)、興味深いニュースがあった。

日立製作所:電子カルテ解析を機械学習で、糖尿病治療の90日後の効果を高精度に予測

ビッグデータから、予後を機械学習で予測。。。流行りですね。

ですが、この手の研究結果は、吟味して受け止める必要があると思っている。

もちろん、これは素晴らしい研究なのかもしれないが、これだけではなんともいえない。まず、「HbA1c値を低減できる確率を、患者ごと、薬の種類ごとに予測可能なモデルを構築しました」とあるが、上述の通り糖尿病治療薬のトレンドは併用療法に移ってきている。単剤療法での予測が臨床的にみてどれほどの価値を持つのかという疑問がある。

次に、これは、単一大学機関でおこなわれる研究デザインにみられる共通の弱点だと思うのだが、「単一機関のカルテデータベースではすべての病歴・処方歴が集積しているわけではない」という問題点が挙げられる。例えば、虚血性心不全の発症リスクのある患者に SU 剤を極量まで投与するのは、かなり勇気の要る行為で、糖尿病治療を担当する主治医は投与量調整(減量)をおこなうと思うのだが、大学以外の診療所などで心臓病の治療がフォローされていた場合、こういった情報は解析対象の大学データベースには何ら反映されていない可能性がある。

さらに、カルテベースの解析につきまとう問題点として「保険病名の落とし穴」というものもある。例えば、 SGLT2 阻害薬は、1 型糖尿病患者に対する適応はないが、主治医がどうしても試してみたいと考えた場合、投与される可能性はある。この場合、主治医は、保険適応を通すためにカルテ上の病名に 2型糖尿病をそっと追加する。つまり、本来解析対象ではない患者が解析対象に混入されるのだ。今回は医師のチェックもはいっているようなので大丈夫だとは思うが、大規模病院向けの電子カルテシステムの開発を盛んにおこなっているとは思えない日立がこういった臨床上のニュアンスを汲み取れるのか、若干の不安は感じる。

目についた医療関係のニュースということ今回はこの報道記事を取り上げたが、特に日立やユタ大学に対して悪意があるわけではない。できれば正式な結果もみてみたいところなので、ぜひとも、オープンアクセスな媒体で公開してほしいと思う。



「新しい」糖尿病治療薬

大海薬子
糖尿病シリーズ第三弾。ようやくひとまとまりでしょうか。
ようやく最近の薬と結びつきます。
これが書きたかった。

 

一般的に言って、糖尿病の治療は、運動療法・食事療法・薬物療法の三つである。薬物療法にのみ目がいきがちであるが、「2 型」糖尿病が生活習慣と関係していることから考えて運動療法や食事療法の重要さも認識しておきたい。

しかし、薬剤師として知識をブラッシュアップさせておく必要があるのは、やはり薬物療法だ。特に、最近になって糖尿病治療薬は様変わりしている。従来にない機序に基づく薬が市場に投入されるようになった。これはなんとしてもついていかなくてはならない(信じられないかもしれないは、数年前までは、インスリン製剤の他には、メインを張る糖尿病治療薬は SU 剤やビグアナイド製剤くらいしかなかったのだ)。

機序に意識して、糖尿病治療薬をまとめる。

インスリン‥‥糖尿病ではインスリンが産生されないか不足しているので、インスリンそのものを生体外から補充する。考え方は、わかりやすい。

スルホニルウレア‥‥ SU 剤と表記されることが多い。2 型糖尿病では、膵臓でのインスリン産生能が残されているので、β 細胞を刺激してインスリン分泌を促す。グリメピリドなど。

ビグアナイド‥‥肝臓に作用して糖新生を抑制する。インスリン分泌云々には関係しないので 1 型糖尿病にも使える。食欲抑制効果もあるので肥満を持つ患者に良い適応になる。乳酸アシドーシスに注意が必要。メトホルミン、ブホルミンなど。

ここまでは、古くからある薬だ。インスリンそのものを外部から補充する、残されていたインスリンをこそぎ出す、インスリンとは関係なく肝臓での糖の産生を抑える、とその機序もわかりやすい。この他にもチアゾリジンや α グルコシターゼ阻害薬、グリニドがあるが、ここではその説明は割愛。

時代がくだると糖尿病関係の創薬は目のつけどころがより戦略的になる。

一般的に、糖を経口投与すると経静脈投与時よりも大きなインスリン作用が現れる。この経験的事実から、消化管に由来する何らかのインスリン分泌促進因子の存在が仮定されていた。このような作用を持つ化学物質のうち、特に消化管ホルモンをインクレチンと呼んでいた。インクレチンが 2 型糖尿病治療薬に転用できることは容易に想像できる。

GLP-1 受容体作動薬‥‥GLP-1 は 1980 年にアメリカ毒トカゲの唾液から同定されたインクレチンの一つである。インスリン分泌促進作用の他、胃内容物排出遅延作用もある。リラグルチド(商品名ビクトーザ)、デュラグラチド(商品名トルリシティアテオス)など。GLP-1 はペプチドのため当然経口投与はできない(インスリンと同様に皮下注)。GLP-1 にヒト抗体を結合し腎での排泄を遅延させたものがデュラグラチドである。

DPP-4 阻害薬‥‥生体内では GLP-1 は DPP-4 という酵素により急速に(半減期 1 ~ 2 分)分解される。DPP-4 の活性を阻害すれば、GLP-1 の分解が抑制され、結果としてインスリンの分泌が促進される。シタグリプチン(ジャヌビア®)など。

上記二つはインクレチン関連薬ともいわれる。ところで糖尿病患者では尿糖がみられることは前にも触れた。このとき、血液中の糖は、単純に濾し出されるわけではなく、いったん濾し出された後、SGLT2 というトランスポーターで能動的に血液に戻されている。SGLT2 を阻害すれば、血液中の余剰な糖は尿中に排泄されるため、結果として高血糖改善につながる。

SGLT2 阻害薬‥‥機序は上述の通り。腎臓に作用する点はユニーク。本邦では 2014 年に発売された新薬。インスリン云々は機序に関係しないため、 1 型糖尿病にも使える可能性がある。が、評価はまだまだこれからというところだろう。

GLP-1 受容体作動薬であるエキセナチド(バイエッタ®)が日本で発売されたのが、2010 年。糖尿病治療薬を取り巻く情況は、ここ十年で大きく様変わりしたものだ。

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