中学理科で学ぶ肝臓の構造と機能

大海薬子
さて、今日は何の話をしようかしら…..

そうだ! 困ったときは、受験ネタ

nomad 先生、中学理科の知識を使って、例えば、大学受験の生物の問題を解く、みたいな話ができるでしょうか?

これで教育ママさんたちの心もがっちりキャッチ!

nomad
どこかの進学塾のパンフレットに載ってそうな企画ですね。

やってみましょう。ですが、着地点が大学受験では面白くないので、中学理科の肝臓の話から出発してもっと意外なところに着地してみせます。

 

臨床で使う知識はなるべくコンパクトに頭にしまっておく方がいい!というわけで中学の理科レベルの知識から出発して肝臓の構造と機能に迫っていきたいと思います。

 

中学の理科ででてきそうな血液循環の模式図ですね。『みなみの香草屋』さんからお借りしてきました。

ちなみに「➂もっとも養分を多く含む血液が流れている血管」の答えは g で門脈といいます。肝臓は通常の臓器と同様、動脈によっても栄養供給を受けていてそれが f で肝動脈といいます。肝臓が門脈と肝動脈によって二重に栄養されているのは、臨床的にも重要で肝臓がんに対する治療(肝動脈塞栓術)に応用されています。e は肝静脈。

肝臓の機能の一つとしてあるのが胆汁の産生で、胆管を経て腸管(十二指腸)内に排泄されます。上図を活かすならこんな感じでしょうか。

肝臓には、四本の管が接続されているので解剖学的把握がちょっとばかりややこしいわけです。

もうちょっと立体構造を意識するとこんな感じになります。(元画像はここ

胆嚢・肝管・総胆管とありますが、まとめて胆管系という理解でいいと思います。解剖学的には、胆管(系)・門脈・肝動脈は三本が束になって肝臓に接続されているわけです。

ところで肝臓がその機能を実現する上での最小構造は肝小葉です。肝小葉の模式図は以下のようになっています。(元画像はここ

スケールがミクロになっても胆管・門脈・肝動脈は三本組のままになっていることに注意してください。もちろんここに行き着くまでには何回か分岐してますが。

肝臓の機能は「解毒・代謝」ですが、その機能を担っているのは肝細胞です。栄養分リッチな門脈血・肝動脈血は上図では類洞を通って中心静脈へ注ぎ込みます(中心静脈は寄り集まって肝静脈になります)。そしてこの類洞を通っている間に門脈・肝動脈は栄養分を肝細胞に引き渡しているわけです。また代謝された物質の一部を速やかに(毛細)胆管へ排出することができます。

要するに肝臓はミクロでもマクロの構造をかなり維持していて、そのおかげでシンプルな構造ながらもその機能を実現しています。

ここらへんの構造と機能の関係は、解剖学・組織学を学ぶときに感動するものの一つではないでしょうか。まさに「人体の神秘」という感じですね。

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ



むくみ

大海薬子
今日は、病態生理のお話をします。

この分野を苦手にしている薬剤師さんは多いのではないでしょうか?

でも、これを克服しないと患者さんが納得するような説明をその場でできないのではないかと思います。

ちょっとややこしいですが、いっしょに勉強していきましょう!

 

在宅など患者さんに近い位置で仕事をしていると患者さんやその家族が疑問に思っていることを訊ねられることが多い。
高血圧だとか糖尿病などは、患者さん自体が外来の主治医の先生からレクチャーを受けている場合が多いので、質問を受ける頻度は意外に多くない。
多いのは、疾患と目に見える症状との関連性がぱっと見わかりにくい病態に関するものだ。その一つに「むくみ」というものがある。

そこで、今回は「むくみ」に関して取り上げたい。なので、ちょっと専門家向けでしょうか。

「むくみ」は、医学用語では「浮腫」という。wiki では
「細胞組織の液体(細胞質間液)と血液の浸透圧バランスが崩れ、細胞組織に水分が溜まって腫れる」状態
と定義されているが、これで具体的なイメージが湧けばいいのだが、なかなかそうもいかないでしょう。ちょっとイメージを図にしてみました。

血液の液体成分(血しょう)は、心臓から送り出された後、
①動脈→②組織(間質)→③静脈・リンパ管
の順に灌流し、再び心臓に戻ってくる。この流れが何らかの事情で阻害され、液体成分が②に留まっていると、組織はぱんぱんに膨れる、つまり「浮腫」の状態になる、という理屈です。

次に、どういう場合にこの流れが阻害されるか?考えてみましょう。

一番、わかりやすいのは、①→②の流量が増大する場合でしょうか。
具体的には、炎症がおこって①動脈の血管透過性が亢進している状態や低栄養状態で血管内の浸透圧が低下し水分が過剰に組織に移行する状態がこれにあたります。

また、深部静脈血栓症などで③静脈・リンパ管が物理的・機械的に閉塞した状態も灌流がうまくいかず浮腫をひきおこします。

わかりにくいのは、心不全で足がむくむ場合(下腿浮腫)でしょうか。これは右心不全では、静脈がうっ滞し静脈血圧が上昇し、結果として②→③の流れが阻害されるためです。

以上、かなり図式的に浮腫に関して軽くまとめてみました。

ところで、「浮腫」からこのような病態をぱっとイメージできる医療関係者は医師や看護師をのぞいて、そう多くない、というのが私の印象です。
あくまで経験的な推測ですが。
理由はいろいろあると思うのですが、

・臨床的な訓練が不十分
・臨床生理に慣れていない(解剖用語や浸透圧だとかの物理化学的な概念が乱れ飛ぶので統合して理解することが難しい)

というのが背景にあるのかなと思います。

まずは、臨床で必要とされる概念を使える形で理解し、患者さんの症状と結び付けて考えられるようにする、というところから始めるのがよいのではないかと私は思います。

 

大海薬子

 

* * * * * *

ところで、某所で話題になったのはこの動画。

浮腫で困っているおばあちゃん宅を薬剤師さんが訪問し、その評価を行なっているところを切り取った動画のようです。
一見すると、それっぽい雰囲気でサービスしているように見えます。
なのですが、これを視聴した多くの医師は「これは診察になっていない」とあまり評価していませんでした。
どこかわかりますか?

薬剤師に必要な基本的臨床医学を研究・実行する会』(facebook内グループ)では、こういった質疑応答がほどほどに(笑)活発に議論されています。
ご興味のある方はどうぞ、ご参加を。
元は薬剤師・医師限定だったのですが、現在は看護師さんなどの医療関係者もOKにしています。
ただし、人数が増えすぎてきたため、現在(2021/8 〜)は、入会時にある程度のチェックはしています。それほど厳しいものではないですが、本当に医療関係者なのかネット上で資格・経歴が確認できる程度の準備はしておいてください。
そこまでではない人(医療系の資格は持っているが、家族介護などで一時的に現場から離れていた人など)や医療に興味のある一般の方は『医療を考える(仮)』(同じくfacebook内宮ループ)の方が適しているでしょうか。
こちらは軽めの時事ネタなどを取り上げていく予定です。

ちなみに私がこれに関して述べたコメントは以下の通りです。

じゃあ、訪問薬剤師さんが現場で何を優先して見なきゃいけないかって話なんだけど、ちょっと考えてました。
聞くところによると、現場では訪問薬剤と訪問看護とで患者の取り合いになっていると聞いてます。だから、訪問看護と同じようなことをするのは得策ではなさそう。
やはり、差別化を図る上では、薬剤師のストレングスポイントである「薬」にフォーカスするのが有効ではないでしょうか。
このケースは「20年前の子宮癌のオペでリンパ郭清して、それ以来、浮腫が出現。(おそらく心不全が進行して)増悪傾向にあった。そこで2週間前より主治医が(たぶんお試し的に)ルプラックを開始した」って状況だと思います。
だから、これ主治医の側からすると「ルプラックの効果はどの程度で、それが適当なチョイスなのか?」ってのが気になるところなんですよ、たぶん。
その点を重視するなら、患部はもちろん水分の in-out (厳密なものは無理なので水分の摂取状況をさりげなく聞いておくとか)や腹水の貯留(お腹チラ見する程度でもいいんです)をチェックする・・なんかが優先して観察すべき項目になるでしょうか。
そこまで意図が明確なら、事前に医師とそこらへんをすり合わせてもいいですよね。
なんかしら改善点がありそうなんですよ、この動画。

 

猪股弘明(医師)




 

薬剤師、現場に出る -手が震える。さて、何て言う?-

大海薬子
再度、登場しました。大人の事情です。察してください。

では、改めて自己紹介。

大海薬子(おおうみくすりこ)と申します。

大海薬局という調剤薬局を経営しています。

大海薬局では、在宅訪問に力を入れています。

今になって振り返ると恥ずかしいところもあるのですが、今日は、私がまだ在宅訪問に慣れていなかった頃のお話をします。

 

大海薬局では、『地域密着』という目標の具現化として「在宅訪問」に取り組んでいる。「在宅訪問」は、医科・歯科・看護の領域では既に定着した感があるが、薬科領域はまだまだ立ち遅れている印象がある。原因は様々だろうが、その一つに、現場の知識・経験が足りないという臨床力の不備が挙げられると思う。さらにその原因として卒前・卒後の薬学教育にいささか問題がある‥‥と思うのだが、それはまた稿を改めて。

臨床力の不備は、患者さん宅にお伺いしても、状況を適切に評価することができないといった形であらわれる。例えば、患者さんが、いつもとは違うご様子であっても、それを上手く言葉で言い表すことができないのだ。

もどかしい (´・ω・)

これでは、他の在宅医療職の方々とコミュニケーションを取ることもできない。なんとかしなくていけない。私の場合は、わからないことが出てきた場合、質問するなり自分で調べるなりして、その都度その都度、知識を補充するようにしている。

例えば、こんな風に。


在宅患者Aさんは、以前から向精神薬が処方されていた。あるときから軽微な手の震えを訴えるようになった。その震えは奇妙なものだった。両前腕が数ミリだろうか規則的に小刻みに震えているのだ。ぱっと見ではわからない。指先に注目すると、ぷるぷるしていることがわかる。本人に聞いても意識して動かしているわけではないという。「日常生活には支障はないが、なんだか気持ち悪い」ともいった。私は、よくわからないながらも(拙い表現であったろうが)主治医にこの震えのことを報告した。主治医は、「ああ、ジスキネジアね」といって向精神薬を変更した。まもなく震えは消え、半年後、震えの症状を聞いたところ、本人はすっかり震えのことなど忘れていた。

ジスキネジア?

なんだろうか。調べてみると、ジスキネジアは錐体外路障害の一つに分類されていた。

錐体外路とは錐体路(大脳皮質の運動野)以外の運動を制御している経路のことを指す。簡単に言えば、大脳を経由しない(人間の意識にのぼらない)運動の調節などをつかさどる経路のことだ。この神経経路は、ドーパミンが深く関与していることがわかっている。一方、多くの向精神薬は、ドーパミンによる神経伝達をブロックすることでその作用を発揮する。この患者さんの震えは、向精神薬がドーパミン受容体をブロックするためにおこった副作用であった。錐体外路障害は、この震え(ジスキネジア)以外にも様々な種類があるが、向精神薬を投与した場合、かなりの頻度であらわれる副作用だという。

ああ、あの震えは「ジスキネジア」と言えばよかったのか‥‥ (-_-;)

錐体路障害は時間が経つとかなり回復が見られる。それに対し、錐体外路障害は一度損傷すると回復が見られない。錐体路障害は錐体外路によって代償されるが、逆は起こらない。錐体外路障害が固定化しないためには、早期発見による適切な処置が重要である。

主治医は、長年の経験から、向精神薬の投与で副作用が出ることを知っている。だから、報告を受けて速やかに原因と思われる向精神薬を変更したのだろう。原因薬剤の変更が迅速であったため、症状は消退しすみやかな回復が見られたと思われる。

医師は、2週間~4週間おきに在宅患者宅を往診する。多くの副作用は、ここで主治医によってチェックされる。しかし、往診の合い間に発現する副作用もある。A さんのジスキネジアはそうであった。観察者が多ければ多いほど、見落としは減り、症状の早期発見につながるはずだ。在宅訪問に関わる者として、役に立つ観察者の一人でありたいと思う。

『向精神薬が処方されている在宅患者の場合、錐体外路症状に注意!』

この症例から得られる教訓はそれだ。臨床力を身に着けるためには、こういった経験の積み重ねが必要なのだろう。


 

にほんブログ村 病気ブログ 薬・薬剤師へ

アルコール依存症患者では視床枕の体積減少がみられる

前回、アルコール依存症の症例提示のところで、MRI の画像が出てきたので、さらにこれを使って研究っぽいことをしてみましょう。

前回の画像は、これです。

一見してわかるように、蝶々の羽根のような黒い部分(脳室という)の下部が萎縮していることが推測されます。もうちょっと医学の知識のある方なら、海馬や皮質の異常にも気がつくかもしれません。

研究をするとなると、「なんとなく」縮んでいるという表現ではダメで、定量的に表す必要があります。

開発されたばかりの HorliX というソフトを使って、これをなんとか定量的に表現し、研究っぽい結論まで導きたいと思います。

このままだと、比較しにくいので、画像を2枚の Jpeg ファイルに分けて HorliX に取り込みます。

患者ID 00010 が Alchorlic さん。(アルコール依存症患者さん)

患者ID 00011 が Control さん。(比較対照用コントロール)

としました。

次に、比較対象部位を決めましょう。本当は、中枢の全部位を切り分け、コントロールとアルコール依存症患者で比較しなければいけないんでしょうが、

  • 見た目的に脳室下部が目立つ
  • ウェルニッケ患者では脳室〜中脳水道付近に異常が見られることが従来研究からわかっている

ことから、視床枕(ししょうちん)付近に限定します。

HorliX で 2Dビューアを立ち上げ、ROI (Rezion Of Interest: 関心領域)ツールを使って視床枕付近を囲みます。

HorliX は、囲んだ面積をピクセル数で計算してくれるので、ここから、アルコール依存症患者さんの視床枕体積相当量がわかります。本当に体積を求めたいときは、視床枕が写っている全てのスライスでこの計算をしなくてはいけませんが、元がネット上で拾ってきた1枚の2次元 jpeg 画像ですから、ここでは、この程度で我慢しましょう(というか、これ以上できない)。

次に、コントロールで、同様の処理をしてアルコール依存症患者さんのそれと直接比較する….といきたいところですが、人には個体差があるため、視床枕体積相当量を直接比較するのではなく

視床枕体積相当量/頭蓋内体積相当量

で比較しないといけない(はず)です。

この点を意識して作業。

視床枕体積相当量/頭蓋内体積相当量

= 501.340(blue) + 294.958(orange)/34170.891(grape)

= 2.33034 [%]

 

視床枕体積相当量/頭蓋内体積相当量

= 575.167(yellow)+412.031(green)/32634.848(orange)

= 3.02498[%]

で、

3.02498 – 2.33034 = 0.69464

となり、少なくともこの患者さんでは、健常な人に比べ 0.69%程度視床枕の体積が減少している、ことがいえるかと思います。既往歴がアルコール依存症のみの場合には 、他の疾患による可能性がぐっと減るので、

結論:アルコール依存症患者では視床枕体積の減少がみられる

ことが推測されます。n = 1 ですが。(実際の研究では統計処理が必要。頭蓋内に占める視床枕の体積の個体差(の標準偏差)が 0.69 以上だった場合、もちろんこんなことはいえない)

 

今回は、かなり遊び的な要素が強いですが、例えば、同様の手法を使って、「躁うつ病患者では、○×という部位が減少し、それが罹患期間に比例している」というような結論が得られると学会ではちょっとした騒ぎになるわけです。なぜなら、器質的な変化がないとされてきた精神疾患に、器質的変化が見つかり、場合によっては診断に利用できる可能性が浮上してくるからです。

医師がおこなう臨床研究の一端が伝わったでしょうか?

画像処理協力: 猪股弘明先生(フェイザー合同会社 医師:精神科 学士:物理)

 

【Webで】薬剤師現場に出る -アルコール依存症と歩行困難-【添削】

今回は、けっこう新しめの投稿のリライトをします。

私の生徒さん(のようなもの)が書いたブログ記事を私が修正するとこんな感じになります。


70代男性、独居。以前アルコール依存症で入院されたことがある。その際、足が悪くなり当薬局に在宅の依頼をされた(なお、患者様の特定を避けるため、個人情報は適宜変更しています)。

訪問を何回か重ね打ち解けてきた頃、こういう質問があった。

患者
実は、私は若い頃、アルコール依存症だった。

そのせいで脳が萎縮している。

足が悪くなったのはその脳の萎縮のせいだと思うが、本当かどうか教えて欲しい

(あれ、脳の萎縮で機能障害でたっけ?)

(歩行障害だけ出るものなんだろうか?)

(あれ? あれ?)

………

……

 

即答できなかったので、勉強したことを書きます。

(訪問は本当に勉強になります。「患者様から学ばせてもらう」とはこういうことだったのかと日々痛感しています)

 

TOKIO のナントカさんではないですが、アルコール依存症は、治療が難しい疾患で、その原因の一つに、患者さん本人の治療への意欲が維持しにくいという点があげられる。

患者さんのモチベーションを維持するために治療現場では、様々な工夫がなされている。例えば、医療関係者からのアドバイス。

よく、こんな図がひきあいに出される。


参照: A Spiritual Evolutuion

 

左が健常者の頭部 MRI 写真、右が同年代のアルコール患者さんの MRI 写真。一見してわかるように、アルコール患者さんでは、脳室が拡大しており、それは、脳が委縮したことを意味している。

要するに「お酒ばっかり飲んでいると、脳がこんな風になっちゃうよ」と患者さんの不安を煽って治療につなげようという考え方だ。このとき

  • ここまで萎縮が進むのはかなり長期にわたる飲酒歴が必要
  • 萎縮があっても必ずしも機能が損なわれるということはない

ということは(あえて)あまり強調しない。イメージによるインパクトを期待しているわけだ。これはそれなりに効果があり、たとえ治療から脱落しても、「飲酒→脳の萎縮」は患者さんの記憶にかなり強く刷り込まれる。

冒頭の質問に戻ると、この患者さんは、過去にこのような治療歴があり、この手のイメージが強く残っていたがゆえこの質問に至ったと思われる。

こういった治療手法(=患者さんの不安を煽るような手法)が現在ではもはや時代遅れになりつつあるという事情と患者さんが既に依存症を脱しているという状況を鑑み、私はなるべく正確な情報をお伝えした方がよいのではないかと思った。

主治医に患者様の質問を聞いたところ、歩行困難は、ウェルニッケによる疑いが強いという。

ウェルニッケ(この場合は、ウェルニッケ-コルサコフ症候群)とは、大量飲酒によるチアミン、ビタミンB1の吸収阻害により脳がダメージを受けることによって引き起こされる症候群で、急性期のウェルニッケ脳症と慢性期の(ウェルニッケ)コルサコフ症候群からなる。

①ウェルニッケ脳症:精神錯乱、筋肉の動きの調和が乱れる、眼を動かす神経が麻痺する、などの症状が出現。

②コルサコフ症候群:ウェルニッケ脳症が慢性化すると起こる。記憶喪失を含む記憶や学習障害、歩行困難などの症状が出現。作話が特徴的。

なお、ウェルニッケ(コルサコフ)と略称されるのは、ウェルニッケ脳症を経由しないコルサコフ症候群もあるからだ。

確かに、処方薬にはビタミン剤が含まれていた。だが、ウェルニッケの可能性があることには気がつかなかった。私も、どこかで「脳の萎縮→機能障害」という単純な発想にひきづられていたのだ。ウェルニッケにしても大学の薬学教育では習わないし、習ったとしても現場に出る頃には忘れている。歩行障害の遠因は、アルコール依存症にあることは間違いないが、その直接の原因は、脳の萎縮によるものではなく、ウェルニッケ-コルサコフ症候群によるものである可能性が高かったのだ。

さて、次回、訪問時、これをどう説明しよう?


ちなみに、元記事はこんな感じでした。


70代男性、独居。以前アルコール依存症で入院されたことがある。その際、足が悪くなり当薬局に在宅の依頼をされた(なお、患者様の特定を避けるため、個人情報は適宜変更しております。)。

(質問)アルコール依存症で脳が萎縮して足が悪くなったのではないかと思う。足が悪くなったのは脳の萎縮が原因か調べてほしい。

(私)アルツハイマー型認知症(以後、認知症という。)も脳が萎縮するが、それが原因で足が悪くなった例は聞いたことがない。認知症で徘徊が問題になるくらいだから、脳の委縮だけで足が悪くなるとは考えにくい。

認知症は、神経繊維変化の出現により、物忘れをひきおこす。アルコール依存症も神経の変性によって不随意運動等が引き起こされる。

アルコール依存症の末梢神経障害は、アルコールの過剰な摂取で食事のバランスが崩れたことによる栄養素の欠乏が主な原因と思われる。今回の患者様の歩行困難は、大脳の萎縮によるものか、栄養から来るものかわからなかったが、主治医が、ビタミン剤を処方していることからビタミン欠乏による神経障害と考えられる。

と、ここまで予習をして主治医に患者様の質問を聞いたところ、歩行困難は、ウェルニッケの疑いという回答が返ってきた。

ウェルニッケ(=ウェルニッケーコルサコフ症候群)とは、チアミン、ビタミンB1の欠如による脳のダメージによって引き起こされる病態で、急性期のウェルニッケ脳症と慢性期のコルサコフ症候群からなる。

①ウェルニッケ脳症:精神錯乱、筋肉の動きの調和が乱れる、眼を動かす神経の麻痺

②コルサコフ症候群:ウェルニッケ脳症が慢性化すると起こる。記憶喪失を含む記憶や学習障害、歩行困難など。

詳しくはこちら(↓)のHP参照。

久里浜医療センター

参考までに小脳が萎縮するアルコール性小脳失調症もある。小脳は、バランスをコントロールする部位である。歩行困難、身体の胴の震え、腕や足のぎくしゃくした動き、ろれつが回らない、眼振(眼球が無意識に動くこと)を含む症状が出る。

次回訪問時、主治医の診断を踏まえ、栄養素の欠乏による疾患であることを説明したいと思う。

引用:こちらからの翻訳


これでも、そんなに悪くないと思います。ただ、以下の観点から修正しました。

・時事ネタと絡める

・「脳の萎縮」=「歩行障害」ではない例として、認知症を挙げているが、本筋からはそれるので削除。

・患者さんが質問したとき患者さんが頭に浮かんでいたことを推測し、適切な図を引用する

・アルコール依存症の治療法の歴史を軽めに触れ、自分なりの評価を盛り込む

・久里浜の引用もちょっとおかしなところがあるので、ウェルニッケを経由しないコルサコフについて言及

・現状の薬剤師卒前教育に関する問題点を軽く触れる

・次回に期待を持たせる

・アイコン、アイキャッチなどを追加

でしょうか。