覚醒剤精神病と精神科救急

ちょっと前のことだが、TVの人気番組『相棒』で覚醒剤依存症と思われる(かなりインパクトのある)キャラが出て話題になった。

話はこれで終わらず、依存症では高名な、さる精神科医の先生が「こんな依存症患者はみたことがない。依存症に対するスティグマを広げる。けしからん!」というような主張をして、これまた物議を醸した。

でも、この主張、私なんかからするとちょっと違和感を覚える。
覚醒剤を使用するとそれなりの頻度で覚醒剤精神病という統合失調症に似た病態に移行することが知られているからだ(この他にも、覚醒剤使用で誘発された統合失調症というのもあるが、話が専門的になりすぎるので割愛)。

日本精神科救急学会のHPでも、この転機の典型例が記載されている。

精神科救急の現場から 第11話 覚醒剤に手を出して

例のシャブなんとかさんは、おそらく脚本家さんがこういった素材をかなり調べてキャラ設定されたのではないかと推測する。演出もかなりリアルだったし、少なくとも興味本位で描こうとしたようには感じなかった。

周囲を見た限り、ある程度精神科救急の経験のある先生は、このシーンで即座に覚醒剤精神病のことを思い浮かべていたようだ。では、なぜ、同じ精神科医でこのような認識の差が出るのかといえば、こういったタイプの患者さんが地域的に偏在されているためだと思う。

少々、資料が古いが、警察官通報から措置入院(強制入院の一形態)に至った都道府県別の件数をグラフにしたものを下に掲げておく。

関東首都圏、特に東京都が飛び抜けて多いことがわかるかと思う。

この年は、1500件/年ほどあり、平均すると一日に 4,5 件はこの経路で入院となっている。疾患別の内訳までは記載されていないが、ベースに薬物依存症がある場合は少なくない。年間に数十件程度の地域では、この手のケースを経験してみようもないというのが本当のところではないだろうか。

でも、北陸、沖縄あたりは平和で良いですね。

 

猪股弘明(精神保健指定医

 

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