サプリメントとかいうやつ

いわゆる「身体に良さそうな」保健機能食品に調べると

「特定保険用食品」・「栄養機能食品」・「機能性表示食品」

という表記が目につきますが、ぱっと見では、区別がつかないでしょう。まとめなどが

「機能性表示食品」 「トクホ」や「栄養機能食品」とどこが違うの?

日本医師会サイト 健康の森 より

に説明されていますので、興味のある方はご一読の程を。

 

表は上記サイトより。

トクホはそれなりの審査踏んでいることがわかるかと思います。
この中で問題になるのは、機能性表示食品かなあと思います。開発企業による届出性ですから、はっきりいって効能はピンキリでしょう。
私も何回か立ち合いに入ったことありますが、大抵の場合、そんなに厳密に試験が行われているわけではなく、一般的には過剰な期待は禁物かと思います。

 

猪股弘明(医師)

 

iPS からの・・・神経系細胞分化誘導

最近、話題になった科学上のトピックでこんなのがあった。

実験室で培養の「ミニ脳」に神経活動、人の脳に類似 米研究

ただ、こういうのは、紹介記事が話をちょっと「盛る」傾向があるので、できれば原著にあたりたい。

原著の方がちょっと前までフルテキストで読めたのだが、現在(2019/09/28)は有料記事になってしまったようだ。こういうのは、さっーとでもいいから読んで、その時点で自分なりに把握しておくのが得策のようだ。

すごく大雑把に要約すると

(1) 確かに構造的には中枢神経類似の「ミニ脳」はできている
(2) 発振現象や脳波のような電気活動は計測されたが、それがヒトにおけるそれと同一メカニズムであるかまでは言いきれていない(と思う)

あと、どういうわけかわからないが、培養してから 10 ヶ月を過ぎたあたりから、元の(神経系の)前駆細胞の存在比率が増えてきて、培養がそれ以降うまくいかないようだ。また、iPS → 神経系の分化プロトコルをつくったのは、このチームではなく、別のチームです。

(1) に関してもう少し詳しく言うと、紹介記事の綺麗な写真にもあるように、ある種の立体構造はできている。顕微鏡的にはシナプス結合なんかも確認されている。分化の面でいえば

・興奮的に振る舞うグルタメート神経細胞
・抑制的に振る舞うGABA神経細胞
・グリア

あたりにもしっかり分化されているようです。ただ、ドパミン作動性神経細胞やセロトニン作動性神経細胞あたりはできてないので、これが、即、疾患モデルに使われるようになるかというとそんなことはないでしょう。

(2) に関してですが、著者たちが主張したいのは『興奮性ニューロンと抑制性ニューロンがあるので神経回路的に発振していてもおかしくはない』というようなことだと思います。ストーリーとしてははなはだ魅惑的ですね。なんですが、ここからの実験結果が、若干、アヤしくなる。

個々の細胞のパッチクランプをやったという記載はあるんだけど、figure がない。電位計測も空間分解能が粗すぎて個々のニューロンの神経活動が追えていない。6month で薬理学的に阻害して電気活動止まった、といっているんだけど、じゃあなんでそれをミニ脳らしくなっている(=分化マーカーが完全に発現している) 10month でやらなかったのか?というツッコミは入れたくなる。

紹介記事でも「ヒトの脳に類似」(同一とは言っていない)という記載にとどまるのはこのためかなと。

これだけだと、「ある種の化学物質が培養液内を拡散して電気活動がおこっている、場合によっては発振している」ことが否定しきれないんですよ。

ただし、テーマ的にはかなり攻めているし、手間暇もかかっている、業界に一石を投じる内容かとは思います。


こっからの連想で、そういえば、以前、iPS から網膜(正確には網膜色素上皮細胞だが)を分化させて実際に治験まで持っていったことあったよなあと思い、文献収集。

あった、これだ。

Autologous Induced Stem-Cell–Derived Retinal Cells for Macular Degeneration

NEJM という立派なジャーナルに掲載されているし、過去の報道などでは成功と喧伝されていたので、さぞや立派な結果だったのだろう、と予想して読んだら・・・。

まず、症例として報告されたのは 2 例のみ。そのうちの 1 例は、培養中に遺伝子異常が出たとかで移植見送り。

もう 1 例は、移植も実施され、1 年間後にも生着はしているのでこの点は素晴らしいと思うのだが、肝心の視力は「良くも悪くもなかった」ということで、治療という意味ではあまり望ましい結果とはいえなかったようだ。

また、論文中にある OCT の画像の解釈に関して別のグループから「血管新生がおこっているのではないか?」という疑問が投げかけられている

問題となった Fig S10
Fig S10 のキャプション

まあ異議を唱えられたら、アンギオの生データで説明するくらいの対応が必要だと思うが、残念ながらこれはなされていない。


たまたまなのだが、iPS から神経系への分化誘導に関するペーパーを短期間に 2本読んだので、一つのエントリにまとめてみました。

感想ですが、iPS → 神経系 では、確かに構造的には分化誘導はできるようだが、それだけでは肝腎要の「機能の獲得」までできるかというと必ずしもそんなことはないようです。
例えば、ヒトの脳では、ある程度、脳の形ができたとしても、この後、(1) 髄鞘化→ (2) 神経細胞間の連結 → (3) 刈り込み(余剰な連結を「刈り」取っていくわけですね)という風にして、なんと完成までに20年はかかる(蛇足だが、これゆえ統合失調症は若年者発症が多いと推測されている)。
また、視力系に関しては、生まれたばかりの赤ちゃんの視力はおよそ 0.01〜0.02で、物の形がぼんやりと分かる程度。生後2~3カ月かけて、ようやく固視・追視(物をじっと見つめる・目で追う)ができる程度まで熟成していく。網膜上皮細胞〜視細胞〜視神経〜大脳視神経投射部位にこれといった異常がなくても、これくらいの期間がかかってしまうわけです。
悪くなった部分を置き換えた程度で、機能獲得のための後プロセスが自然におこるというのはちょっと考えにくいかなあと思います。
何かあともう一工夫必要なんでしょうね。


などと言っていたら、iPS の総本山 CiRA で先行きに不安を感じさせる事態が進行しているようだ。

iPS研究に迫る「死の谷」

”事業として成立する前に研究開発費が枯渇する「死の谷」が迫っている”
だそうである。

実用化可能なところから優先的に課題を進めていく、といったアプローチがもうちょっとあってもよかったかもしれませんね。

 

猪股弘明
ここら辺の話題・質疑応答は facebook

 

学会委員

諸々の事情で、再び、日本精神神経学会の ECT・rTMS等検討員会の委員になりました。
再び、というのは以前にもやっていたことがあるからで、このときは(2013 年頃)ECT のサイン波装置の廃止勧告や rTMS の保険収載などに関与した。
サイン波装置は、副作用が強い・生死に関わる有害事象が比較的多いといったことにくわえ、この頃、製造元がサポートを打ち切ることを決めたため、学会として使用を禁止する明確なメッセージを出す必要がったのだ。
メッセージを打ち出すのは簡単なのだが、課題としては、通常使用ではサイン波・パルス波装置のけいれん誘発性を単純比較するとサイン波装置に利点があったため、「パルス波装置出力最大でけいれんが誘発されない場合、どうするのか?」というアルゴリズム上の問題が発生する。

が、このとき、私はサイン波装置の代換手段として、パルス波装置(サイマトロンというやつですね)の設定を変えて使えば代用が効くでしょうというような提案をして、役を降りた。この問題は、そのうち成り行きで決まっていくだろうくらいに考えていたからだ。

ところが、この前の学会に久しぶりに参加してみると、これがいまいち決まってなかった。

この間にも方法論的な提案はなかったわけではない。

・前投薬的に薬物を使う(テオフィリンやカフェイン)
・麻酔薬を変更
・電極配置を変える
・パルスのパラメータを変える
・大出力の装置を承認してもらう

といった手段が提案されている。他の学会、特に外科系のそれであれば、あっさり決まったのかもしれないが、まあ、なんていうんだろうか、精神科医の集団というのは、薬の使い方や精神療法の是非に関して議論するのは得意でも、この手の侵襲的な治療手段を決めるのは苦手な側面がある。そろそろ決めた方がいいのでは?という漠然とした雰囲気はあったのだが、はっきりとしたことは決まってなかったというのが実情であった。

他にも色々な事情があったようで、この夏、学会各種委員は全面的に入れ替えになり、結果として私にもお鉢が回ってきたという次第だ。

ECT のアルゴリズム以外にもやりたいことはあるので、前向きに取り組みたいと思っている。

 

猪股弘明

 

エビデンスにはレベルがある

これも facebook のとあるグループに投稿したのだけど、けっこう評判がよかったようなので、修正して転載。


一般の人とある程度学問的訓練を受けた人で「エビデンス」に関する捉え方の差があると感じたので、ちょっと投稿します。
図(この記事ではアイキャッチ)はエビデンスにもレベルがあるってことを言っています。
医学で治療ガイドラインに反映されるような研究は、1a 1b クラスです。
例えば、ある治療法Aが従来法Bより優れていることを示したい場合、被験者集団をA治療群とB治療群にランダムに振り分け、結果を比較し、その差が統計学的に意味のあるものでなくてはいけません。これ「ランダムに振り分け」ってところがミソで、これでAとBの均質性を担保しているわけです。A集団とB集団には治療介入「前には」差がなかったので、Aの結果が良好だった場合、「A治療によって、●Xの効果が出た」という因果関係が言えるわけです。

ランダム割付を伴わない前向き比較研究の場合、2a に「格下げ」になっていますね。これは例えば被験者が自分がA治療を受けていると知っている場合、その効果が治療結果に反映する可能性があるため、信頼性が若干落ちるということを言っていると思います。

1b クラスの結果を得るためには相当の手間がかかるのはわかるかと思いますが、では、このようにして得られたエビデンスで実際の治療行為すべてを覆えるかというとそんなことはないと個人的には思います。

例えば、様々な研究から「うつの第一治療選択薬は SSRI」というエビデンスがありますが、実際の患者さんは「高齢者でベースに認知症があり、どうやらそれに関係して抑うつ状態がでているようだ」というエビデンス単純当てはめが効かないケースが多いからです。さらにこの患者さんが腎機能や肝代謝機能が悪く、エビデンスが示唆する至適量まで薬を投与できないときもしばしばあります。
この場合、意外に役に立ったりするのは、症例報告の類であったりします。文献を探していると、「腎機能低下のため抗うつ薬を少量投与、Cという漢方薬を併用したら、抑うつ状態が改善した」という症例報告を見つけるかもしれません(あくまで例えです)。この場合、エビデンスレベルは低くても(レベル5)、実際に担当している患者さんと条件が類似している場合、この治療法を試してみる価値があると思います。

EBM(Evidence-Based Medicine)は、確かに「科学的」ですし、尊重すべき考え方だと思いますが、実際の臨床はそれに収まりきれないものだというのは頭の隅に留めていておいて良いことだと思います。
それと、後ろ向き研究(=A群とB群をカルテ記載を元に比較するような研究)では、A群とB群の均質性が担保されているとは言いきれないため、「相関関係は言えても、因果関係は言えない」ことが多いです。
啓蒙医学雑誌ライターやマスコミの方が、ここらへんを曖昧にして話を「盛って」書いてしまう記事が(私の目には)けっこう多いように思います。
論文などをそれなりに正しく読むってのは、けっこう面倒だったりします。

より詳しく知りたい人は

論文メモ:Empirical assessment of published effect and power in the recent cognitive neuroscience and psychology literature (Szucs & Ioannidis, PLoS Biol, 2017)』  「六本木で働くデータサイエンティストのブログ」より

などをご参照ください。認知神経科学の分野の論文は「偽陽性」を「陽性」に含めて報告されているのでは?みたいなことが書かれています。ただし、一般の人だと、この記事はちょっと難し過ぎるかもしれません。

気をつけて欲しいのは、「エビデンスではあるのだけど、因果関係までは言いきれてないエビデンスレベル3・4あたりの研究をさも普遍的な真実であるかのように権威づけで宣伝などに使ってしまう」ような例です。
それがわかっていれば、アヤしげな民間療法に騙されることはぐっと減ると思います。

猪股弘明 東京都医学総合研究所客員研究員

 

一例モノ

ECTに関する超絶マニアックな症例報告を某国研究者向けSNSに置いておいたら、100 回読まれたとか。
いわゆる一例モノなのだが、ガイドライン的な治療戦略がうまくいかなかった時、後ろ向き研究の類より一例モノの方が役に立ったりする。
個々の症例から出発して、一般的なところに抜けていく、というのが臨床の面白みの一つではないかと私なんかは思うのだが、世界に 100人くらいは同様の考え方をしてくれている人がいたようで嬉しい限り。

猪股弘明 精神科医

東京都医学総合研究所客員研究員