物理を「使う」 -高校物理ローレンツ力から反粒子・パリティ保存則・PETなどまで –

ちょっと前に某所で教科書に掲載されている以下の図の荷電粒子の回転方向は反対ではないか?とえらくこだわっている人がいて違和感を持った。


違和感を感じたのは、以下のような理由で私からしたら「どっちだっていい」と思ったからだ。

静磁場 B の中で、速度 v で移動する電荷 q の粒子は高校物理でも出てくるように以下のようなローレンツ力が働く。

F = q ( v x B )

だから、q の正負によってローレンツ力の向きは正反対になる。

この教科書の図は q<0 の場合。
q>0 の時には確かに正しくない。らせん運動をするのだが、その回転方向は逆になる。

でも、ある程度、物理的センスのある人だったら、注目するのはそこではなく「質量が同一で電荷が正反対なら運動エネルギーは一緒になる(回転半径は変わらない)」点だと思う(おそらく出題意図もそれ)。

これは何を意味しているかというと「仮に反粒子(質量は同一で電荷が逆)があれば、磁場に置かれた時にその回転方向から両者は識別できる」ということだ。
実際、電子 e- の反粒子である陽電子 e+ はこのような経緯で発見されている。
陽電子の存在を予言したディラックも凄いが(SFでこのネタはよく出てきますね、ホント)、実験的に検証したアンダーソンたちも凄いですね。

医療関係者ならば、電子-陽電子対消滅は PET でお馴染み(PET の原理考えた人も相当凄い)。
(PET って何ぞや?って人は『わかりやすいPETの話』なぞを参照のほどを)

さらにセンスのある人だったら「ローレンツ力は右手系でも左手系でも同じように振る舞う(パリティが保存されている)」あたりまで推測するのではないかと思う。
(より踏み込んだ議論は『電磁気学とパリティ』などをご参考に)

ここらへんまでくると私も数式的には追いかけられないのだが、一本の数式からでも色んなことが語れるものだなと思います。

高校の物理の先生もこんな感じの話をしてくれたら、物理離れは止まるような気もするのだが、そう思うのは私だけかな。

 

猪股弘明(精神科医, 理学士)

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