ECT とリスク

ECT のこととなるとリスクの話は避けて通れない。
よく「死亡事故は1万件に1回」と言われているが、こういった統計的な数値を知りたくて以前に(というか今も)カルテなどを参考に調べたことがある。
公立の基幹病院クラスだと総施行件数は 500〜2000 件/年 だが、私の調べた病院では、ほぼ 1000件であった。この病院で死亡事故は過去10年間で 1件、これに近い重篤な事態(数分以上の心肺停止など)は 4件で、1万件に1回という数値はおおざっぱには正しいように思う。興味深かったのは、死亡もしくはそれに近い事故はすべてサイン波使用例でおこっていたことで、この事実を認識して以降、私はなるべくサイン波を使わないようにしている。逆にいうとサイマトロンはそれなりに安全で、日本では 2002年から臨床に供されているので、施行件数の多い施設でも数万回以内で、この程度の範囲内であれば目立った事故はおこっていないはずだ。あと10年くらいしたら、もうちょっと具体的な数字がわかると思う。
ところで ECT はよく投薬療法と比較されるが、投薬療法のうち死亡にまで至るような重篤な副作用は悪性症候群だろう。ECT と薬では施行形態が違うので単純比較はできないが、1日の服用を「1回」とするなら、1回あたりのリスクは薬の方がうんと低いだろう。ただ、実際には、ECT の施行頻度は多い人でも数ヶ月に何回かおこなう程度なので、常識的に使っている限りは、時間的な頻度としては ECT に由来する事故はそう多くないはずだ。(悪性症候群で運び込まれてくる患者さんの方が目立つ)
こういったことを考慮すると、ECT は「適応をよく考え、むやみやたらには使わない。ただし、必要なときは使用を躊躇せず、下手なかけかた(=かけそこない、無効刺激)をせずに思い切りよくすぱっとかける」のが正しい使い方ではないかと思う。ECT がよく外科的なオペのように扱われるのはこういった事情が背後にあるからだろう。

猪股弘明

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