学会委員

諸々の事情で、再び、日本精神神経学会の ECT・rTMS等検討員会の委員になりました。
再び、というのは以前にもやっていたことがあるからで、このときは(2013 年頃)ECT のサイン波装置の廃止勧告や rTMS の保険収載などに関与した。
サイン波装置は、副作用が強い・生死に関わる有害事象が比較的多いといったことにくわえ、この頃、製造元がサポートを打ち切ることを決めたため、学会として使用を禁止する明確なメッセージを出す必要があったのだ。
メッセージを打ち出すのは簡単なのだが、課題としては、通常使用ではサイン波・パルス波装置のけいれん誘発性を単純比較するとサイン波装置に利点があったため、「パルス波装置出力最大でけいれんが誘発されない場合、どうするのか?」というアルゴリズム上の問題が発生した。

が、このとき、私はサイン波装置の代換手段として、パルス波装置(サイマトロンというやつですね)の設定を変えて使えば代用が効くでしょうというような提案をして、役を降りた。この問題は、そのうち成り行きで決まっていくだろうくらいに考えていたからだ。

 

ところが、今年6月の学会に久しぶりに参加してみると、これがいまいち決まってなかった。

この間にも方法論的な提案はなかったわけではない。

・前投薬的に薬物を使う(テオフィリンやカフェイン)
・麻酔薬を変更
・電極配置を変える
・パルスのパラメータを変える
・大出力の装置を承認してもらう

といった手段がこれまでのところ提案されている。他の学会、特に外科系のそれであれば、あっさり決まったのかもしれないが、まあ、なんていうんだろうか、精神科医の集団というのは、薬の使い方や精神療法の是非に関して議論するのは得意でも、この手の侵襲的な治療手段を決めるのは苦手な側面がある。そろそろ決めた方がいいのでは?という漠然とした雰囲気はあったのだが、はっきりとしたことは決まってなかったというのが実情であった。

他にも色々な事情があったようで、この夏、学会各種委員は全面的に入れ替えになり、結果として私にもお鉢が回ってきたという次第だ。

ECT のアルゴリズム以外にもやりたいことはあるので、前向きに取り組みたいと思っている。

 

猪股弘明(精神科医)

 

gifted -ギフティッド-

gifted は近年、持ち上げられる風潮にある。最近だと、NHKでも取り上げられていた。

知られざる天才 ”ギフテッド”の素顔

だが、ここで紹介されている人のなかにはいわゆる自閉症スペクトラム症の方がけっこういるような…。

児童思春期の病棟などでは IQ=130 くらいはけっこういる。(たいてい動作性IQが130を超えていても、言語性がね、ううむ)
では、そういった人が大成するかといえば必ずしもそんなことはなく、けっこうネックになるのは好奇心の対象が限定されてしまうこと。
例えば、ゲームに興味があるという患者さんはけっこういるが、「ゲームをつくるのは興味があるかな?」と誘導しようとしてもけっこう抵抗を示す。
社会的な評価を得るためには、自分の好奇心の対象がその分野のなかでどのような意味を持つか、より一般的な性質を持っているか、といった新規性や進歩性、有用性に関する検証は自分でおこなわければならない。そういったことを自覚して自分の能力をコントロールしながら知的な活動をおこなっていくのは、別の努力が必要なのだと思う。

 

猪股弘明(精神科医)

幻聴はお国によって違うんだそうで

この記事

Hallucinatory ‘voices’ shaped by local culture, Stanford anthropologist says

によると、統合失調症の幻聴は、文化によって差があるそうです。
・アメリカでは叱責するような感じ
・インドやアフリカはどことなく遊び心がある
そうです。
でも被害的になっている場合はどこでも「いきてる価値がない」くらいだと思うけど。

なお、山形の某神経内科の先生によると「側頭葉てんかんのpsychic seizureにも文化(宗教)の差があるんですよ」だそうです。facebook で教えてもらいました。

 

猪股弘明(精神科医)

 

エビデンスにはレベルがある

これも facebook のとあるグループに投稿したのだけど、けっこう評判がよかったようなので、修正して転載。


一般の人とある程度学問的訓練を受けた人で「エビデンス」に関する捉え方の差があると感じたので、ちょっと投稿します。
図(この記事ではアイキャッチ)はエビデンスにもレベルがあるってことを言っています。
医学で治療ガイドラインに反映されるような研究は、1a 1b クラスです。
例えば、ある治療法Aが従来法Bより優れていることを示したい場合、被験者集団をA治療群とB治療群にランダムに振り分け、結果を比較し、その差が統計学的に意味のあるものでなくてはいけません。これ「ランダムに振り分け」ってところがミソで、これでAとBの均質性を担保しているわけです。A集団とB集団には治療介入「前には」差がなかったので、Aの結果が良好だった場合、「A治療によって、●Xの効果が出た」という因果関係が言えるわけです。

ランダム割付を伴わない前向き比較研究の場合、2a に「格下げ」になっていますね。これは例えば被験者が自分がA治療を受けていると知っている場合、その効果が治療結果に反映する可能性があるため、信頼性が若干落ちるということを言っていると思います。

1b クラスの結果を得るためには相当の手間がかかるのはわかるかと思いますが、では、このようにして得られたエビデンスで実際の治療行為すべてを覆えるかというとそんなことはないと個人的には思います。

例えば、様々な研究から「うつの第一治療選択薬は SSRI」というエビデンスがありますが、実際の患者さんは「高齢者でベースに認知症があり、どうやらそれに関係して抑うつ状態がでているようだ」というエビデンス単純当てはめが効かないケースが多いからです。さらにこの患者さんが腎機能や肝代謝機能が悪く、エビデンスが示唆する至適量まで薬を投与できないときもしばしばあります。
この場合、意外に役に立ったりするのは、症例報告の類であったりします。文献を探していると、「腎機能低下のため抗うつ薬を少量投与、Cという漢方薬を併用したら、抑うつ状態が改善した」という症例報告を見つけるかもしれません(あくまで例えです)。この場合、エビデンスレベルは低くても(レベル5)、実際に担当している患者さんと条件が類似している場合、この治療法を試してみる価値があると思います。

EBM(Evidence-Based Medicine)は、確かに「科学的」ですし、尊重すべき考え方だと思いますが、実際の臨床はそれに収まりきれないものだというのは頭の隅に留めていておいて良いことだと思います。
それと、後ろ向き研究(=A群とB群をカルテ記載を元に比較するような研究)では、A群とB群の均質性が担保されているとは言いきれないため、「相関関係は言えても、因果関係は言えない」ことが多いです。
啓蒙医学雑誌ライターやマスコミの方が、ここらへんを曖昧にして話を「盛って」書いてしまう記事が(私の目には)けっこう多いように思います。
論文などをそれなりに正しく読むってのは、けっこう面倒だったりします。

具体的な例でより詳しく知りたい人は

論文メモ:Empirical assessment of published effect and power in the recent cognitive neuroscience and psychology literature (Szucs & Ioannidis, PLoS Biol, 2017)』  「六本木で働くデータサイエンティストのブログ」より

などをご参照ください。認知神経科学の分野の論文は「偽陽性」を「陽性」に含めて報告されているのでは?みたいなことが書かれています。ただし、一般の人だと、この記事はちょっと難し過ぎるかもしれません。

気をつけて欲しいのは、「エビデンスではあるのだけど、因果関係までは言いきれてないエビデンスレベル3・4あたりの研究をさも普遍的な真実であるかのように権威づけで宣伝などに使ってしまう」ような例です。
それがわかっていれば、アヤしげな民間療法に騙されることはぐっと減ると思います。

また、EBM 的には「専門家」の位置付けはそれほど高いものではないです。
専門家が集まって何か提言しようが、症例報告1本に及びません。
これは EBM の「権威に対する盲信より科学的客観的な事実・証拠を重視する」という基本精神を鑑みれば当然かと思います。
「世間的には有名で権威とされている教授が言ったから正しい」のではなく「客観的証拠があるから正しい」という考えを優先しているわけです。
 

猪股弘明 東京都医学総合研究所客員研究員

 

一例モノ

ECTに関する超絶マニアックな症例報告を某国研究者向けSNSに置いておいたら、100 回読まれたとか。
いわゆる一例モノなのだが、ガイドライン的な治療戦略がうまくいかなかった時、後ろ向き研究の類より一例モノの方が役に立ったりする。
個々の症例から出発して、一般的なところに抜けていく、というのが臨床の面白みの一つではないかと私なんかは思うのだが、世界に 100人くらいは同様の考え方をしてくれている人がいたようで嬉しい限り。

・・・などと言ってたら、いつの間にか 200 回読まれてた。

加速かかっている感じですね。

300回到達。

 

日本でどのように普及していったかは、『エゴサ -精神科・ECT 関係-』(ブログ「HorliX とか OpenOcean とか」)などもご参照ください。

 

 

猪股弘明 精神科医

東京都医学総合研究所客員研究員