某所でm-ECT講習会が開催されたのでインストラクターとして参加してきた。
ECT自体一般の人からは色眼鏡でみられる治療法だけど、関与する人(麻酔科医、オペ室看護師、ECTを専門とする精神科医)からは(誤解をおそれずにいうと)「m-ECTの使い方が下手だから」批判されることが多い。
私自身、適当な代換治療法があればm-ECTは使わない方がいいと思っているが、使わざるを得ない以上は可能な限り安全な手法で施行すべきだと思っている。
こういう企画はどんどんやった方がいいと思う。

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某所でm-ECT講習会が開催されたのでインストラクターとして参加してきた。
ECT自体一般の人からは色眼鏡でみられる治療法だけど、関与する人(麻酔科医、オペ室看護師、ECTを専門とする精神科医)からは(誤解をおそれずにいうと)「m-ECTの使い方が下手だから」批判されることが多い。
私自身、適当な代換治療法があればm-ECTは使わない方がいいと思っているが、使わざるを得ない以上は可能な限り安全な手法で施行すべきだと思っている。
こういう企画はどんどんやった方がいいと思う。
そろそろ ECT に関する Long Brief Pulse Method も普及してきたようで提案者とはなによりだ。
これは、その後、猪股(元物理屋)・針間(精神病理)・糸川(分子生物学)という関係者からは「ありえない」と言われる著者の組み合わせで査読付きの英文誌に発表された。
もともとは豊島病院で不完全なかたちでおこなわれていて、僕らがもう少し洗練させて提案。今では広島の竹林先生なんかもやっている(私が把握していない所でもおこなわれていると思う)。麻酔科の雑誌にも arXiv に書いたやつが引用されたりしてこれも嬉しい。
ところで臨床的にかなり有効と思われるこの方法であるが、これからすぐに広く普及するかといえばたぶんそうはならないと思う。ガイドラインの問題があるからだ。日本では国立武蔵病院のガイドラインが標準的でほとんどの施設がこれに右習いしている。そこでは
「サイマトロンで電気量 100% で不発時→サイン波の利用」
と明記されている。だから、たいていの精神科医は設定を変更することは発想として持っていないはずだ。
なら、あなたたちのやっているアルゴリズムは、標準アルゴリズムから逸脱しているのかといわれそうだが、これは半分あたっていて半分は間違っている。確かに日本の国立武蔵が(何の根拠もエビデンスも示さずに決めた)アルゴリズムからは逸脱しているが、その大元となった APA(米国精神医学会)のアルゴリズムには「パルス幅は 0.5msec 固定」などとは一言も書かれていないからだ。
短パルス刺激を用いるに際してまだ解決されていない問題は、適切なパルス幅に関することである。
(APAタスクフォースレポート:p91)
とこれがまだ未解決の問題であることをはっきりと言い切っている。そこでは超短パルス波の使用に関しての言及もある。基礎的な研究に目を転じると、軸索の変性、薬剤の暴露、刺激部位などなどによってニューロンの発火最適パルス幅が(主に長い側に)変化することがそれこそ山のように報告されている。
日本で「0.5ms固定」になってしまったのは、たぶん、本邦にサイマトロンを導入した世代が、普及することを優先して細かい技法上の選択肢を無視・単純化して伝えたせいであろう。
なお、われわれも長パルス波をのべつまくなしに使っているわけではなく、「通常の設定(0.5ms)でけいれん波が誘発されないとき」に限定して使っている。長いパルス幅を使うと高電圧に持続的に暴露される時間は増えるわけだから、副作用のリスクが増大する可能性がある。が、この副作用の評価はまだまだ不十分なので全例に使うわけにはいかないのだ。また、導入に際しては病院幹部の許可を取っているし、日本精神神経学会でも関係者でこの方法に関して検討をすませている。もちろん、単独で治療の責任の負えない初期研修医と後期研修医にはこの方法は教えていない。
少し前にNHKの番組でTMS( Transcranial Magnetic Stimulation 経頭蓋的磁気刺激)が取り上げられたせいか外来などでこれに関する問い合わせがちらほらあった。その番組は見逃したのだが、かなりかたよったつくり方だったようで、まるで夢のような治療であるかのように紹介されていたという話だ。
最近はTMSはマークしていなかったので、知らない間にこの分野の治療法が飛躍的な進化を遂げたのかと気になってさきほど PubMed などを調べたが、やはりそんなことはなかった。むしろ重症ではTMSはECTほど効果がないことを示す報告の方が眼につく。
Repetitive transcranial magnetic stimulation versus electroconvulsive therapy for the treatment of major depressive disorder, a randomized controlled clinical trial. Keshtkar M et al; J ECT: 2011; 310-314
前にも述べたと思うが、そもそもECTを使うのはうつが極まって食事をとるのもままならない患者さんや希死念慮が激しくてなかなかコントロールできないケースなどだ。うつだと中等症くらいまでなら、投薬+環境調整でなんとかなってしまう。現行だとTMSは今ひとつ使い道がはっきりしない。(妊娠を希望されていて薬を飲みたくない女性患者の方や癌末期で薬の服用すら難しい患者さんにはかなり有効な方法だと思うが、なぜかこちらの方の努力は一般には取り上げられないし、本格的にやっている施設も少ない)
(追記)…現状だとTMSやDCSは、ニューロリハビリかなあ。
猪股弘明(精神科医)
ネット上でもちらほら話題になりつつあるが、学術出版大手のエルゼビアのビジネスモデルに対して一部の学者が抗議の声を上げ始めた。口火を切ったのはフィールズ賞受賞者のガワーズ氏で、ブログに抗議の意図を掲載した。その後もこの流れは徐々に普及し始めているようで、出版・査読のボイコットを表明するサイトも立ち上がった。
私はプロの学者ではないのでどちらかといえば対岸の火事のように見ているが、これはけっこう意味のある運動ではないかと思っている。研究らしきことを始めればすぐにわかるが、商業学術出版を使うと文献の調達にけっこう費用がかかる。レビュアーが引用しろといっているから、ネットなどで落とすと一本 3000円くらいする。で、こういったものが書いている論文に必須かといえば、そうでもなかったりする。むしろ、クオリティが低くてがっかりすることの方が多い。(なので私は古典的な著作権を委譲するタイプのジャーナルに投稿するのを止めてしまった)
PLoS などのオープンアクセスが出始めた時点でこの手の雑誌は衰退する運命にあったのではないだろうか。
私はといえば、arXiv (究極のオープンアクセスでしょ、これ)やパブーなどの取り組みに注目している。というかこれくらいの発表媒体があれば、私などは十分こと足りる。
パブーは一時期(2019 春頃)閉鎖説も出ていたようですが、別会社が事業を引き継いだようです。よかったですね。
猪股弘明(東京都立松沢病院)
かつてはかなり物議を醸していたECTであるが、日本では見た目の問題などどちらかというと情緒的な批判が多かったように思う。アメリカの場合、もっと踏み込んだ批判をする人々がいる。

Doctors of Deception: What They Don’t Want You to Know About Shock Treatment
この本は、実際に ECT 治療を受けた患者さんが書いたもので、アマゾンでの評価も高いようだ。実際、これまで素朴に疑問に思ってきたことをけっこう明らかにしてくれている。例えば
・世界的に Sackeim がこの業界の権威とされているが、医師免許を持っていない(元々は心理学者)。アメリカでは ECT だけ施行するとか可能なのかと思っていたが、やっぱりダメらしい。また、キャリアの初期に ECT のデバイスメーカーのコンサルタントをやっていたことも明らかにされている。著者はこういったことに対してはっきりと批判している。
・ ECT の研究が盛んな精神科(West Forest, Duke や Columbia など各大学)はメーカーから多額の寄付金を受けていること。また、(これは著者の憶測だと思うが)ネガティブなデータを隠す傾向があること。
などなど。
猪股弘明(松沢病院精神科)