原子力と奨学金

誰も書かないのでここで書いておくと、昔(バブル期)、原子力工学関係の大学院に進むとけっこう高額な奨学金がもらえた。大学院自体の難易度がそれほど高くないうえ奨学金ももらえるとあって、けっこう心が揺れたことを覚えている。確か当時月12万の支給で、あまりの高額ぶりに学生掲示板の前でフリーズしたくらいだ。

調べてみたら、今でも残っていた。
東電記念財団 奨学金給付
もちろん、出所は東電関係。ただ、現在の支給額は月5万で分野も原子力には限定しておらず、常識的な内容となっている。

バブル期はどこも人手不足で企業のヒモ付き奨学金は多かったのだが、あれだけは突出していたと記憶している。それとも12万というのは見間違いだったんだろうか? 当時の記憶が残っている方がいたら是非とも教えてください。

(追記)東電記念財団奨学生 勉強会&飲み会 これは2003年頃のページ。かなり、有意義で健全な使われ方をしている。ただ、原子力関係の同一の研究室の院生2人が同時に採用されていたりと若干疑問なところはある。

(追記2)こういうのもあった。日本原子力工学大学院博士課程奨学生 ただし、これは博士課程のみ。

 

サイン波かパルス波か?

ECTをかけるとき、サイン波を使うかパルス波(実際にはサイマトロンという名の装置)を使うかという問題がある。業界的には副作用の少ないパルス波を使ったほうがよいということで答えは出ているのだが、最近関心がもたれてきているのは、パルス波でけいれん波が誘発されなかったときどうするか?という問題である。
以前にも書いたが今のところ

パルス波(電気投与量最大)→不成功→サイン波

としている施設が多いようだ。
もう学会のプロシーディングが配布されているので書いてもいいと思うが、僕らのグループがこの問題の解決に糸口を与えた。結論を言うと

パルス波(電気投与量最大)→不成功→パルス幅変更→不成功→サイン波

とするとよいというもの。最終的な確認はまだなのですべての人に奨められるレベルには達していないが、今のところサイン波を使うことなく良好な結果が得られている。
手技的に簡単な割りに得られるところが大きく、私としてはお気に入りの発見の一つ。

 

猪股弘明(精神科)

(追記)…パルス波(デフォールト設定)とサイン波ではサイン波の方がけいれん誘発性が高い。が、認知症状(物忘れなど)が出やすいためサイン波は避けられる傾向がある。さらに、私がサイン波を嫌う理由は、認知症状に加え心血管系のイベントが多そうだという私自身の印象。実際、電気刺激直後は迷走神経が刺激され、いったん副交換神経優位の状態になる。が、すぐに交感神経優位となり、頻脈や血圧の上昇がおこる。要するに循環器系のバイタルが乱高下するのだ。これが身体にいいとはとても思えない。長年に渡りメジャーが処方されていて、かつ、心臓へたり気味なんて患者さんにサイン波でECTをかける度胸は私にはない。

(追記2)やっぱり…。
< 2004年 6月3日 毎日新聞>
上野原町の精神科病院、財団法人・三生会病院(山崎達二院長)で治療中の男性(当時51歳)が電気けいれん療法を受けた直後に死亡した問題で、東京都内に住む男性の遺族は2日、同法人を相手取り、慰謝料など約4000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
訴状によると、男性は統合失調症のため同病院で治療を受けていた。03年4月24日、男性が通院したところ、担当医ではなく、別の医師がこの日初めて男性を診察。同医師は担当医とは全く異なった「電気けいれん療法」を唐突に選択し、心電図など必要な術前検査を行わずに実施した。その後、男性は心肺停止状態となり、心臓マッサージと人工呼吸を30分続けたが、急性心筋こうそくで死亡した。男性は心筋こうそくの持病があり、病院側も知っていたという。遺族は「医師は術前の検査・診断義務を怠った」と主張。「電気療法の危険性など十分な説明もなかった」と訴えている。
同法人は「詳細を把握していないため、コメントすることが出来ない」としている。

(追記3)…パルス幅変更できれいに治療できた症例をここに公開しておきましたので詳細はそちらを参考にしてください。

(追記3-1)…その後、上の文献で示された方法論は、論文、学会、先輩からの口伝?などで広まっているようです

修正型電気けいれん療法により精神症状の改善がみられた薬物抵抗性のレビー小体型認知症の1例』( Dimentia Japan, 西田岳史・近江翼・松永秀典)

電気けいれん療法における刺激パラメータ調節の可能性』(川島啓嗣・諏訪太郎・村井俊哉・吉岡隆一)

などをお読みください。
もっと基礎的なことも知りたい人は、ここもご覧ください。

(追記4)…学会のプロシーディングがいつになっても web 公開されないので、じれてパブーで公開しました。(現在は無料配付中)

advanced ECT techniques

こちらでもダウンロードできます。

(追記5)その後、学会レベルで「サイン波装置の原則使用禁止」が決められました。原則、もう、使っちゃダメ。

 

ECT Q & A + α

Q1 ECTの適応は?
A1 薬剤抵抗性のうつや統合失調症など。疼痛性障害にも効果があるとがんばっているグループもあるが、当方は経験なし。

 

Q2 必ずよくなるのか?
A2 うつだと8割程度の人がよくなるといわれている。

このあとよくでてくる質問は、「効かなかった場合、どうするのか?」というものだ。もちろん効かない場合もある。しかし、効かないケースはそもそもECTの適応ではなかったという場合が多い。

例えば、うつの場合、薬剤に反応しない人が2〜3割いるといわれている。この人たちが全員ECTにまわるとしたら、100人に4〜6人は効かない計算になる。実感としても納得できる数値だ。

問題はこの「効かない」うつの人たちが、きれいなうつ、いわゆる内因性のうつや適応障害がこじれたようなうつかといえば、ほとんどの場合違う
具体的には、神経症性のうつだったり、ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状を本人がうつだと強く主張していたり、というケースだ。

どうしてこのようなことがおこってしまうのか?

現在のうつの診断基準が操作主義であるため、神経症性のうつも人格障害に付随してでてくるうつも内因性のうつもひっくるめて「うつ」と一括りにされてしまっているからだろう。

今は消えてしまった診断名であるがゆえエビデンスを示しようがないのだが、ECTの事情通の間では「神経症性のうつにECTは逆効果」という認識はあると思う。
そういった人にECTをかけても効きようがないではないかというのが私の推測だ。

 

猪股弘明(精神科医)

 

エンドポイント

原発関係の記事を書くとアクセス数が増えるのだが、最近は「ブラジル・ガラパリ」の検索で訪れる人が多いようだ。
前の記事では、内部被曝や環境放射線の健康に対する影響を評価するには今まで得られた疫学データだけでは不十分ではないかと指摘したかった。例えば、今、「健康」という言葉を使ったが、これまで行われた疫学調査では「健康」の指標として「癌の発生率」だとか「平均余命」だとか「流産の割合」を設定している(エンドポイントなどという)。最も重要な事項をエンドポイントに設定するのは当然だが、これが「健康」全体の指標となるかといえばかなり疑問だ。
前回、紹介した疫学調査は「これら高自然放射線地域の住民の末梢血リンパ球染色体異常は対照地域と比べて増えていた。しかし、健康への影響は認められなかった」などとあたかも健康全般への影響がないかのようにアナウンスされているが、実際のエンドポイントは「先天性異常」、「流産」など妊娠・出産に関する事項のみである。「抹消血リンパ球に染色体異常があるのだから、免疫能が落ちている、例えば、ある種の感染症にかかりやすいのではないか」ということに関しては何も教えてくれない。「何となく体調が悪い」とか「倦怠感がする」といったことももちろんエンドポイントとしては設定されていない。結論を過度に一般化しているといえば言いすぎか。
これらのエビデンスに基づいて「ただちに健康に影響はない」といったりするのは、ちょっとどうかと思う。少なくとも私は体調を崩したくないので被曝はしたくない。可能な限り避けたいと思っている。

ブラジル・ガラパリと研究デザイン

ビタミン飲料業界におけるレモン並みに「自然高放射線地域」として引き合いに出されるブラジル・ガラパリ地方であるが、その健康への影響を調べた資料がネット上で手に入る。

http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-02-07-03

話は一見するとわかりやすい。

A「ガラパリの住民202人とその対照地域の住民147人についての調査結果によると、(抹消血リンパ球の)染色体異常(欠失、2動原体、リング)の頻度はガラパリと対照地域とでは有意に異なっており、検査細胞数中の染色体異常の割合(%)は対照地域の0.98%に対して1.30%とガラパリの方が高くなっている」

B「しかしながら、エスピリト・サント州の夫婦8000組とその妊娠終結(生・死・流産)44,000回について、産児の性比、先天性異常、流産、死産、乳児死亡、生殖能(受胎率、出産率)を調べた結果によると、対照群と比較して、「良い」影響も「悪い」影響も認められなかった」

ということで、C「染色体異常は生じるが、妊娠出産に関しては問題なし」と解釈できそうだが、たぶんそういう結論にはならない。

なぜなら、A と B では母集団が違うから。(なお、ガラパリはエスピリト・サント州にある)

C をいうためには染色体異常を調べたガラパリの集団の夫婦と妊娠終結を調べなくてはならないはずだが、どういうわけかこの研究デザインでは妊娠出産に関しては母集団を広げてしまっている。私の感覚ではこれはおかしい。例えとしては不完全だが「××川周辺では確かに水俣病類似の症状を示す患者が有意に多いが、××川のある○○県全体と他の地域では差はない。だから、××川周辺は安全だ」っていってるようなもんでしょ。特定の「濃い」地域を全体に還元しちゃえば、そりゃ薄まるよね。あと、便宜的に「妊娠出産」と書いたが、実は妊娠に関しては、このデータは何もいってない。妊娠終結44,000回がデータだから、妊娠のしやすさなんてことはこのデータからはわからない。

つっこみどころ満載のこの研究デザインであるが、C が仮にいえたにしても D「だからガラパリ程度に放射線量が上がっても健康(少なくとも出産に関しては)には被害はない」とはいえないはずだ。

この手の研究は統計的な均質性、つまり比較対象には質的な差はないという前提から出発しているが、実際のデータはバイアスがつきものでこれを評価する必要がある。すぐに思いつくのは「ガラパリでは長年に渡る放射線被曝の影響を低減するために既に選択圧がかかっており、放射線耐性を持った個体(例えばDNA修復を助ける特定の酵素の活性が高い個体)が有意に多い」というもの。

このバイアスの影響を打ち消すためには「他地域に住む人をガラパリに連れていき、その集団とネイティブのガラパリの人たちと比較する」ことが一案だが、しかしこれは福島で今おこっていることに限りなく近い。

一部の識者から「避難指示の範囲を拡大しないのは人体実験をしているようなもの」という指摘があるが、それは以上のような理由からだろう。