それは一枚の画像から始まった (2)

以前のエントリで悪性黒色腫(疑い)の写真(アイキャッチ画像参照)を掲げたが、そこでは深さ方向の情報を得るために計測系の話に触れた。が、流行りの「AI による自動診断」に話を持っていってももちろんいい。
悪性黒色腫はプライマリーケア的には

symmetry 非対称性
order 輪郭がギザギザしている
olor 色むら
iameter 大きさ
volving 変化がある

でチェックするらしい。A〜E すべてなんとも定量化しやすそうな量ではないだろうか。

ところで大阪医科大学の西澤先生が、AI が陥りがちなバイアスについてまとめた記事を( facebook 上でだか)教えてくれた。

AIのバイアスのほんとうの問題は人間が気づかないバイアスだ

皮膚ガンを見つけるシステムのエピソードが興味深かった。

 

もっと真剣な例としては、最近発表された写真を見て皮膚がんを発見しようとするプロジェクトです。後になってわかったのは、皮膚科の医者はよく皮膚がんの写真の中に大きさを示すために定規を入れる習慣があるということです。逆に、このAIシステムに与えられる健康な皮膚の写真には定規は入っていませんでした。

システムにとっては定規は皮膚がんと健康な皮膚のサンプルの写真の間にある違いに過ぎませんが、それは皮膚の上に見られるしみよりも大きな違いとして認識されました。そこで、皮膚がんを検出するためにデザインされたシステムは、定規を検出するシステムとして出来上がってしまったのです。

 

要するに、皮膚ガン(MMもたぶん含んでいる)を検出するシステムを作ろうとして、結果的に定規を検出するシステムを作ってしまった、というオチです。確かに機械的に画像を学習させていくと、この条件だと、ニューラルネットは画像上の定規が示す特徴をガンのもっとも重要な指標とみなすでしょうね。

?『それは一枚の画像から始まった』機械学習・AI編 などもご参考に。

 

猪股弘明(皮膚科でも放射線科でもなく精神科医

日本精神神経学会2019@新潟

数年ぶりに日本精神神経学会で朱鷺メッセへ。
開催直前に地震があったのだが、現地入りしてみると、特に余震もなく、通常運行という感じ。

某シンポにも顔を出したが、この分野で業績を持っている私と川島先生がいないと正直盛り上がりにかけると思う。なお、川島先生には最終日にようやくお会いできた。

精神科医として駆け出しだった頃にお世話になった先生方にもお会いできて、近況などの情報交換や諸々の軽い打ち合わせ。まあ、こういう学会なんでしょう。

ECT関係に関してはポスター発表や一般演題にも可能な範囲で聴きにいく。コメントもいくつかさせてもらったが、概ね好評だったようだ。

私や川島先生が確立していった方法論は、意外に広まっていたなという印象も持った。


ECT の一種の変法に関して、もうちょっと詳しく、という声もあるので、学会でコメントしたことも踏まえて、追加。

まず、ECT 施行時に電極配置やパラメータ(パルス幅や周波数など)に注目したのは米国の Sackeim という人で、この人の仕事が有名で日本でもたびたび言及されている。結論としては、右片側性でパルス幅を短くした方が、副作用の低減・効果の点で有利だ、というのがこの人の主張。なのだが、これ、うつ病あたりのメンテナンスECTを強く意識したスタディで、薬剤のウオッシュアウトに確か2週間かけたりしている。
一般的に精神科で使われる薬剤は、痙攣閾値を上昇させる方向で働くので、これが血中から抜けてしまえば、最適パルス幅は(生理学的にも確かめられている) 0.3ms 前後の方が有効だ、という主張はそれ自体は間違っていないと思う。

ただ、ECT の積極的な適応は、統合失調症急性期で薬剤が効果がない場合などで、緊急的に行われることが多く、当然、2週間近くウオッシュアウトしている余裕などない。だから、Sackeim さんの業績をひいてパルス幅を短くしました、というのはエビデンスの使い方として何か間違っているような気がする。

また、その点を意識しすぎて、すべて長いパルス幅にするというのも、これまた違うように思う。某大学のグループが、(けっこうプロトコルを工夫してるものの) 0.5ms と 1.5ms の比較をやろうとしていたが、えーと、私も川島先生も「1.5ms の方がすべからくいい」みたいなことはこれまで一回も言ったことはない。通常の 0.5ms でけいれんが誘発されない場合は、長いパルス幅も考慮しましょう、ということを一貫して主張していると思う。

細かいことはともかく、ECTに関して意識的に取り組んでいる施設は、ほぼ、この点を意識して工夫している現状は今回の参加でわかった。これはちょっと嬉しい。

ECTはもう「ボタンを押すだけ」の治療ではなくなったのだ。

 

猪股弘明(日本精神神経学会会員)

 

それは一枚の画像から始まった

Orthanc という医療画像サーバーのメーリングリストに 「皮膚の .png 画像 ↓

ダイコム化できない!」という人がいたので、HorliX のプラグイン機能(Jpeg To DICOM plugin)を使ってダイコムファイルとして取り込んでみた。
ついでで HorliX で3D表示。

けっこうカッコよくないでしょうか?

これは擬似的に3次元化しているだけなので、医学的にはあまり意味はないんですが、とある計測装置で深さ情報を取得してこれができるとそれなりに意味があるかなと。
デルマ(皮膚科)のことはもうかなり忘れてますが。

個人的にはソフトよりも実計測の方が好きなんですよね。

猪股弘明(皮膚科でも病理医でもなく精神科医)


医療情報としては、ダイコムとして取り込んでお話はお終いになってしまうんでしょうが、医療はここから始まる。

この画像見たら、大抵の医師ならば

黒子(ほくろ)? それとも悪性黒色腫?

と思うはずだ。

悪性黒色腫は、色素細胞が悪性化(癌化)したもので、だから「ほくろの癌」などとも言われる。初期の段階で発見・適切な治療を行えば比較的予後は良いが、うっかり放置して癌がある程度の段階まで進行してしまうと5年生存率は 50 %をきるかなりタチの悪い癌なのだ。

一般的に癌の治療は、進行度によって異なる。初期の段階ならば部分的な切除ですむところが、進行して、例えばリンパ節に転移しているような場合には、当然、原発巣から遠く離れた部位までの手術を考えなければいけなくなる。「癌は早期発見が重要」と言われるゆえんだ。
ちなみに悪性黒色腫の場合の病期分類は以下のようになっている。

国立がん研究センターのサイトより

病期(ステージ)が IA, IB ならば部分切除ですむ(し、予後も良い)が、ステージ IV まで進行していた場合、手術に加え放射線治療や化学療法も組み合わせないといけない(し、奏功するとも限らない)。

また、病期を決めるにあたって腫瘍の厚さが重要な指標になっているのがわかるかと思う。「とある計測装置で深さ情報を取得してこれができるとそれなりに意味がある」と書いたのはこういった理由による。

 

覚醒剤精神病と精神科救急

ちょっと前のことだが、TVの人気番組『相棒』で覚醒剤依存症と思われる(かなりインパクトのある)キャラが出て話題になった。

話はこれで終わらず、依存症では高名な、さる精神科医の先生が「こんな依存症患者はみたことがない。依存症に対するスティグマを広げる。けしからん!」というような主張をして、これまた物議を醸した。

でも、この主張、私なんかからするとちょっと違和感を覚える。
覚醒剤を使用するとそれなりの頻度で覚醒剤精神病という統合失調症に似た病態に移行することが知られているからだ(この他にも、覚醒剤使用で誘発された統合失調症というのもあるが、話が専門的になりすぎるので割愛)。

日本精神科救急学会のHPでも、この転機の典型例が記載されている。

精神科救急の現場から 第11話 覚醒剤に手を出して

例のシャブなんとかさんは、おそらく脚本家さんがこういった素材をかなり調べてキャラ設定されたのではないかと推測する。演出もかなりリアルだったし、少なくとも興味本位で描こうとしたようには感じなかった。

周囲を見た限り、ある程度精神科救急の経験のある先生は、このシーンで即座に覚醒剤精神病のことを思い浮かべていたようだ。では、なぜ、同じ精神科医でこのような認識の差が出るのかといえば、こういったタイプの患者さんが地域的に偏在されているためだと思う。

少々、資料が古いが、警察官通報から措置入院(強制入院の一形態)に至った都道府県別の件数をグラフにしたものを下に掲げておく。

関東首都圏、特に東京都が飛び抜けて多いことがわかるかと思う。

この年は、1500件/年ほどあり、平均すると一日に 4,5 件はこの経路で入院となっている。疾患別の内訳までは記載されていないが、ベースに薬物依存症がある場合は少なくない。年間に数十件程度の地域では、この手のケースを経験してみようもないというのが本当のところではないだろうか。

でも、北陸、沖縄あたりは平和で良いですね。

 

猪股弘明(精神保健指定医

 

田端ナッシングからの・・・

ちょっと重めの話が続いたので、軽いネタ。

『君の名は』で一世を風靡した新海誠監督の次回作は『天気の子』だが、その舞台は、田端駅周辺だそうだ。

【緊急速報】新海誠監督最新作『天気の子』の舞台は田端だった…!

田端といえば、山手線ではかなり地味な駅として知られていて、以前に話題になった『山手メトロポリタンループライン』ネタでも

このように「田端ナッシング」という身も蓋もないネーミングとなっている。

実際、田端駅南口はこのような状態になっている。

(写真は google street view より)

「・・・・・」

だが、そこは「映像の魔術師」新海監督のこと、きっと叙情感あふれる胸がキュンキュンするような映画に仕上げてくれるに違いない。

聖地化されるかもしれないが、けっこう無理があるような・・・。