医工連携−失敗から学ぶ?編−

流行の医工連携だが、メーカー側にも問題あるんじゃないかみたいなことをこの前書いた。日本の医療機器メーカーは意外に開発意欲がないみたいなことは以前から指摘されているが、その具体例みたいなものだ。これもよく指摘されていることだが、大学の研究者も「難しいことをいっている割に、役に立たない」と批判されている。これも私は実体験がある。

かつて私はECTの物理的なシミュレーションにこっていた(今でもこっているわけだが)。精神科医として駆け出しだった頃、とある日本の工学系の先生の書いた論文を見つけ、ナイーブだった私はそこで披露されたモデルにすっかり魅了された。
そのモデルは、

頭部を構成する各組織の誘電率をεiとし、ポテンシャルをφとして
εi∇・∇φ=0‥(1)
を有限要素法などでまず解いて各節点でのφを求め、次にこの結果と組織の導電率σiを用いて
j=σi∇φ‥(2)
で各要素に流れる電流密度j を求める

というものだった。従来のモデルで取り込まれていなかった誘電性を考慮し、方程式自体も正しそうだ(実際、(1)も(2)も単独であれば条件によっては正しい式だ)。なにより工学系の査読つき雑誌に載っている。というわけで、(今から考えると恥ずかしい限りだが)これは何か意味のあるモデルに違いないと思いこんでしまったのだ。
そのうち、自分で実験したりシミュレーションしたりするようになりこちらの経験値が増えてくると、このモデルが救いようもないモデルに見えてきた。すぐにわかる傷は、

① 外部から交流(でもなんでもいいのだが時間的に変化する波形)をかけた場合、人体であっても電圧と電流の位相はずれるが、
このモデルでは決してずれない
② 電位勾配を誘電性がつくり、その勾配の中を電流が走る、という構成になっているため、電流保存則が成り立たない

だろう。実測と合わないのは致命的にまずい。慣れた人なら「(1)式は静電場の式なので正しいわけがない」で一発アウトだろう。冷静になってみると、誘電率を使っているくせに変位電流がでてこないとか色々と変な点があることに気がつく。「救いようがない」と書いたのはそういう意味だ。

なんでこんなことがおこってしまうのだろう? 一つには、工学というのは、分野によっては、すぐに応用が求められるため、完全に根拠を示さなくても「可能性としてあり」なら査読に通ってしまうという風潮があるからではないかと思う(そうではないまっとうな工学分野の方が大半でしょうが)。また、インパクトファクター至上主義の影響のため、外部から少々の批判があっても関係者がごり押しでとにかく掲載を目指してしまい自分の仕事を冷静に振り返ることができにくくなっているからかもしれない。

医療機器に関して国の審査基準が厳しいのではという意見は数多いが、背景状況を考えると仕方がないのではと思うところがある。もっとも現場の医師は、工学系の人を「よくわからない数式を追っかけまわしている人」くらいの認識だと思うが。けっこう健全な考え方かもしれない。

原子力と奨学金

誰も書かないのでここで書いておくと、昔(バブル期)、原子力工学関係の大学院に進むとけっこう高額な奨学金がもらえた。大学院自体の難易度がそれほど高くないうえ奨学金ももらえるとあって、けっこう心が揺れたことを覚えている。確か当時月12万の支給で、あまりの高額ぶりに学生掲示板の前でフリーズしたくらいだ。

調べてみたら、今でも残っていた。
東電記念財団 奨学金給付
もちろん、出所は東電関係。ただ、現在の支給額は月5万で分野も原子力には限定しておらず、常識的な内容となっている。

バブル期はどこも人手不足で企業のヒモ付き奨学金は多かったのだが、あれだけは突出していたと記憶している。それとも12万というのは見間違いだったんだろうか? 当時の記憶が残っている方がいたら是非とも教えてください。

(追記)東電記念財団奨学生 勉強会&飲み会 これは2003年頃のページ。かなり、有意義で健全な使われ方をしている。ただ、原子力関係の同一の研究室の院生2人が同時に採用されていたりと若干疑問なところはある。

(追記2)こういうのもあった。日本原子力工学大学院博士課程奨学生 ただし、これは博士課程のみ。

 

サイン波かパルス波か?

ECTをかけるとき、サイン波を使うかパルス波を使うかという問題がある。業界的には副作用の少ないパルス波を使ったほうがよいということで答えは出ているのだが、最近関心がもたれてきているのは、パルス波でけいれん波が誘発されなかったときどうするか?という問題である。
以前にも書いたが今のところ

パルス波(電気投与量最大)→不成功→サイン波

としている施設が多いようだ。
もう学会のプロシーディングが配布されているので書いてもいいと思うが、僕らのグループがこの問題の解決に糸口を与えた。結論を言うと

パルス波(電気投与量最大)→不成功→パルス幅変更→不成功→サイン波

とするとよいというもの。最終的な確認はまだなのですべての人に奨められるレベルには達していないが、今のところサイン波を使うことなく良好な結果が得られている。
手技的に簡単な割りに得られるところが大きく、私としてはお気に入りの発見の一つ。

(追記)…パルス波(デフォールト設定)とサイン波ではサイン波の方がけいれん誘発性が高い。が、認知症状(物忘れなど)が出やすいためサイン波は避けられる傾向がある。私がサイン波を嫌う理由は、認知症状に加え心血管系のイベントが多そうだという私自身の印象。長年に渡りメジャーが処方されていて、かつ、心臓へたり気味なんて患者さんにサイン波でECTをかける度胸は私にはない。

(追記2)やっぱり…。
< 2004年 6月3日 毎日新聞>
上野原町の精神科病院、財団法人・三生会病院(山崎達二院長)で治療中の男性(当時51歳)が電気けいれん療法を受けた直後に死亡した問題で、東京都内に住む男性の遺族は2日、同法人を相手取り、慰謝料など約4000万円の損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。
訴状によると、男性は統合失調症のため同病院で治療を受けていた。03年4月24日、男性が通院したところ、担当医ではなく、別の医師がこの日初めて男性を診察。同医師は担当医とは全く異なった「電気けいれん療法」を唐突に選択し、心電図など必要な術前検査を行わずに実施した。その後、男性は心肺停止状態となり、心臓マッサージと人工呼吸を30分続けたが、急性心筋こうそくで死亡した。男性は心筋こうそくの持病があり、病院側も知っていたという。遺族は「医師は術前の検査・診断義務を怠った」と主張。「電気療法の危険性など十分な説明もなかった」と訴えている。
同法人は「詳細を把握していないため、コメントすることが出来ない」としている。

(追記3)…パルス幅変更できれいに治療できた症例をここに公開しておきましたので詳細はそちらを参考にしてください。

(追記4)…学会のプロシーディングがいつになっても web 公開されないので、じれてパブーで公開しました。

advanced ECT techniques

 

 

Q & A + α

Q1 ECTの適応は?
A1 薬剤抵抗性のうつや統合失調症など。疼痛性障害にも効果があるとがんばっているグループもあるが、当方は経験なし。
Q2 必ずよくなるのか?
A2 うつだと8割程度の人がよくなるといわれている。

このあとよくでてくる質問は、「効かなかった場合、どうするのか?」というものだ。もちろん効かない場合もある。しかし、効かないケースはそもそもECTの適応ではなかったという場合が多い。
例えば、うつの場合、薬剤に反応しない人が2〜3割いるといわれている。この人たちが全員ECTにまわるとしたら、100人に4〜6人は効かない計算になる。実感としても納得できる数値だ。
問題はこの「効かない」うつの人たちが、きれいなうつ、いわゆる内因性のうつや適応障害がこじれたようなうつかといえば、ほとんどの場合違う。具体的には、神経症性のうつだったり、ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状を本人がうつだと強く主張していたり、というケースだ。
どうしてこのようなことがおこってしまうのか?
現在のうつの診断基準が操作主義であるため、神経症性のうつも人格障害に付随してでてくるうつも内因性のうつもひっくるめて「うつ」と一括りにされてしまっているからだ。今は消えてしまった診断名であるがゆえエビデンスを示しようがないのだが、ECTの事情通の間では「神経症性のうつにECTは逆効果」という認識はあると思う。
そういった人にECTをかけても効きようがないではないかというのが私の推論だ。

 

エンドポイント

原発関係の記事を書くとアクセス数が増えるのだが、最近は「ブラジル・ガラパリ」の検索で訪れる人が多いようだ。
前の記事では、内部被曝や環境放射線の健康に対する影響を評価するには今まで得られた疫学データだけでは不十分ではないかと指摘したかった。例えば、今、「健康」という言葉を使ったが、これまで行われた疫学調査では「健康」の指標として「癌の発生率」だとか「平均余命」だとか「流産の割合」を設定している(エンドポイントなどという)。最も重要な事項をエンドポイントに設定するのは当然だが、これが「健康」全体の指標となるかといえばかなり疑問だ。
前回、紹介した疫学調査は「これら高自然放射線地域の住民の末梢血リンパ球染色体異常は対照地域と比べて増えていた。しかし、健康への影響は認められなかった」などとあたかも健康全般への影響がないかのようにアナウンスされているが、実際のエンドポイントは「先天性異常」、「流産」など妊娠・出産に関する事項のみである。「抹消血リンパ球に染色体異常があるのだから、免疫能が落ちている、例えば、ある種の感染症にかかりやすいのではないか」ということに関しては何も教えてくれない。「何となく体調が悪い」とか「倦怠感がする」といったことももちろんエンドポイントとしては設定されていない。結論を過度に一般化しているといえば言いすぎか。
これらのエビデンスに基づいて「ただちに健康に影響はない」といったりするのは、ちょっとどうかと思う。少なくとも私は体調を崩したくないので被曝はしたくない。可能な限り避けたいと思っている。