サプリメントとかいうやつ

いわゆる「身体に良さそうな」保健機能食品に調べると

「特定保険用食品」・「栄養機能食品」・「機能性表示食品」

という表記が目につきますが、ぱっと見では、区別がつかないでしょう。まとめなどが

「機能性表示食品」 「トクホ」や「栄養機能食品」とどこが違うの?

日本医師会サイト 健康の森 より

に説明されていますので、興味のある方はご一読の程を。

 

表は上記サイトより。

トクホはそれなりの審査踏んでいることがわかるかと思います。
この中で問題になるのは、機能性表示食品かなあと思います。開発企業による届出性ですから、はっきりいって効能はピンキリでしょう。
私も何回か立ち合いに入ったことありますが、大抵の場合、そんなに厳密に試験が行われているわけではなく、一般的には過剰な期待は禁物かと思います。

 

猪股弘明(医師)


なお、関連法規は「食品表示法」・「食品衛生法」あたり。
こういう法律の解釈については、言いたいことは山ほどあるんだが、それはおいおい。

エビデンスにはレベルがある

これも facebook のとあるグループに投稿したのだけど、けっこう評判がよかったようなので、修正して転載。


一般の人とある程度学問的訓練を受けた人で「エビデンス」に関する捉え方の差があると感じたので、ちょっと投稿します。
図(この記事ではアイキャッチ)はエビデンスにもレベルがあるってことを言っています。
医学で治療ガイドラインに反映されるような研究は、1a 1b クラスです。
例えば、ある治療法Aが従来法Bより優れていることを示したい場合、被験者集団をA治療群とB治療群にランダムに振り分け、結果を比較し、その差が統計学的に意味のあるものでなくてはいけません。これ「ランダムに振り分け」ってところがミソで、これでAとBの均質性を担保しているわけです。A集団とB集団には治療介入「前には」差がなかったので、Aの結果が良好だった場合、「A治療によって、●Xの効果が出た」という因果関係が言えるわけです。

ランダム割付を伴わない前向き比較研究の場合、2a に「格下げ」になっていますね。これは例えば被験者が自分がA治療を受けていると知っている場合、その効果が治療結果に反映する可能性があるため、信頼性が若干落ちるということを言っていると思います。

1b クラスの結果を得るためには相当の手間がかかるのはわかるかと思いますが、では、このようにして得られたエビデンスで実際の治療行為すべてを覆えるかというとそんなことはないと個人的には思います。

例えば、様々な研究から「うつの第一治療選択薬は SSRI」というエビデンスがありますが、実際の患者さんは「高齢者でベースに認知症があり、どうやらそれに関係して抑うつ状態がでているようだ」というエビデンス単純当てはめが効かないケースが多いからです。さらにこの患者さんが腎機能や肝代謝機能が悪く、エビデンスが示唆する至適量まで薬を投与できないときもしばしばあります。
この場合、意外に役に立ったりするのは、症例報告の類であったりします。文献を探していると、「腎機能低下のため抗うつ薬を少量投与、Cという漢方薬を併用したら、抑うつ状態が改善した」という症例報告を見つけるかもしれません(あくまで例えです)。この場合、エビデンスレベルは低くても(レベル5)、実際に担当している患者さんと条件が類似している場合、この治療法を試してみる価値があると思います。

EBM(Evidence-Based Medicine)は、確かに「科学的」ですし、尊重すべき考え方だと思いますが、実際の臨床はそれに収まりきれないものだというのは頭の隅に留めていておいて良いことだと思います。
それと、後ろ向き研究(=A群とB群をカルテ記載を元に比較するような研究)では、A群とB群の均質性が担保されているとは言いきれないため、「相関関係は言えても、因果関係は言えない」ことが多いです。
啓蒙医学雑誌ライターやマスコミの方が、ここらへんを曖昧にして話を「盛って」書いてしまう記事が(私の目には)けっこう多いように思います。
論文などをそれなりに正しく読むってのは、けっこう面倒だったりします。

具体的な例でより詳しく知りたい人は

論文メモ:Empirical assessment of published effect and power in the recent cognitive neuroscience and psychology literature (Szucs & Ioannidis, PLoS Biol, 2017)』  「六本木で働くデータサイエンティストのブログ」より

などをご参照ください。認知神経科学の分野の論文は「偽陽性」を「陽性」に含めて報告されているのでは?みたいなことが書かれています。ただし、一般の人だと、この記事はちょっと難し過ぎるかもしれません。

気をつけて欲しいのは、「エビデンスではあるのだけど、因果関係までは言いきれてないエビデンスレベル3・4あたりの研究をさも普遍的な真実であるかのように権威づけで宣伝などに使ってしまう」ような例です。
それがわかっていれば、アヤしげな民間療法に騙されることはぐっと減ると思います。

また、EBM 的には「専門家」の位置付けはそれほど高いものではないです。
専門家が集まって何か提言しようが、症例報告1本に及びません。
これは EBM の「権威に対する盲信より科学的客観的な事実・証拠を重視する」という基本精神を鑑みれば当然かと思います。
「世間的には有名で権威とされている教授が言ったから正しい」のではなく「客観的証拠があるから正しい」という考えを優先しているわけです。
 

猪股弘明 東京都医学総合研究所客員研究員

 

日本精神神経学会2019@新潟

数年ぶりに日本精神神経学会で朱鷺メッセへ。
開催直前に地震があったのだが、現地入りしてみると、特に余震もなく、通常運行という感じ。

某シンポにも顔を出したが、この分野で業績を持っている私と川島先生がいないと正直盛り上がりにかけると思う。なお、川島先生には最終日にようやくお会いできた。

精神科医として駆け出しだった頃にお世話になった先生方にもお会いできて、近況などの情報交換や諸々の軽い打ち合わせ。まあ、こういう学会なんでしょう。

ECT関係に関してはポスター発表や一般演題にも可能な範囲で聴きにいく。コメントもいくつかさせてもらったが、概ね好評だったようだ。

私や川島先生が確立していった方法論は、意外に広まっていたなという印象も持った。


ECT の一種の変法に関して、もうちょっと詳しく、という声もあるので、学会でコメントしたことも踏まえて、追加。

まず、ECT 施行時に電極配置やパラメータ(パルス幅や周波数など)に注目したのは米国の Sackeim という人で、この人の仕事が有名で日本でもたびたび言及されている。結論としては、右片側性でパルス幅を短くした方が、副作用の低減・効果の点で有利だ、というのがこの人の主張。なのだが、これ、うつ病あたりのメンテナンスECTを強く意識したスタディで、薬剤のウオッシュアウトに確か2週間かけたりしている。
一般的に精神科で使われる薬剤は、痙攣閾値を上昇させる方向で働くので、これが血中から抜けてしまえば、最適パルス幅は(生理学的にも確かめられている) 0.3ms 前後の方が有効だ、という主張はそれ自体は間違っていないと思う。

ただ、ECT の積極的な適応は、統合失調症急性期で薬剤が効果がない場合などで、緊急的に行われることが多く、当然、2週間近くウオッシュアウトしている余裕などない。だから、Sackeim さんの業績をひいてパルス幅を短くしました、というのはエビデンスの使い方として何か間違っているような気がする。

また、その点を意識しすぎて、すべて長いパルス幅にするというのも、これまた違うように思う。某大学のグループが、(けっこうプロトコルを工夫してるものの) 0.5ms と 1.5ms の比較をやろうとしていたが、えーと、私も川島先生も「1.5ms の方がすべからくいい」みたいなことはこれまで一回も言ったことはない。通常の 0.5ms でけいれんが誘発されない場合は、長いパルス幅も考慮しましょう、ということを一貫して主張していると思う。

細かいことはともかく、ECTに関して意識的に取り組んでいる施設は、ほぼ、この点を意識して工夫している現状は今回の参加でわかった。これはちょっと嬉しい。

ECTはもう「ボタンを押すだけ」の治療ではなくなったのだ。

 

猪股弘明(日本精神神経学会会員)

 

EBM と単剤化神話

某SNS で EBM に関してのトピックがあった。この話題に関しては日頃から思うところがあったので、コメントをつけたのだが、けっこう評判がよかったようなのでここに再掲(若干、修整あり)してみよう。

以下は「 EBM なんて単純ですよ」という発言に対しての私のコメント。

『EBM が「単純」? ところが精神科領域だとそうでもないんです。

A「2種以上の精神科薬を処方されている患者集団」

B「単剤で治療されている患者集団」

AとBの治療効果と副作用を比較したら、治療効果はBの方が高く副作用はAの方が大きかったというエビデンスが出て、そこから「単剤化治療」が錦の御旗のように掲げられるようになったわけです。

似たようなタイプの薬を大量に重ねる多剤併用大量療法が抑制されたという意味でこのネガキャンは意義があったと思うのですが、これであおりをくったのが「この患者さんは不安焦燥が強いようだから、この薬を加剤」というように丁寧に診察して投薬をしていた医師です。

近年になって(特に)うつ病患者さんを対象に

C「SSRI or SNRI + 別のタイプの抗うつ薬で治療されている患者集団」・・・(※1)

を対象に設定し、BとCを比較するスタディがおこなわれるようになりましたが、結果は驚くべきものでした。(少なくとも)治療効果はCの方が高かったのです。(副作用に関しては今まさに調べられている最中)

私が「均質性の仮定」とか「隠れたパラメータ」うんぬんといったのはこれを踏まえてのことです。
初期のスタディでは、(包含関係でいえばC⊂Aですから)私の言い方では「均質性の仮定」が崩れている( or 過剰な一般化のバイアスがかかっている)ので信用ならないともいえるし、薬の種類と数という「隠れたパラメータ」を無視している点で臨床的なエビデンスとしては不十分なデザインであったといえるでしょう。

これで丁寧な投薬をしていた医師は救われたわけですが、逆に困った立場に立たされたのは製薬会社です。今までは「うちの**は単剤で十分に効果があるんです」でよかったのが、今度は「で、**とどの薬剤の組み合わせが一番効果があるの?」と突っ込まれる立場になってしまったわけです。

もちろん「単剤化」自体がビッグファーマの影響だったんじゃないの?という批判もなされています。
どうです。そんなに「単純」ではないでしょう?

(※1) SNRI + NaSSA (サインバルタ+リフレックス)は「カリフォルニアロケット」としてそれなりに普及してきたが、これ以外の組み合わせでもほとんどの場合、併用療法は単剤治療を上回るという報告が多い。』

なんで、いちいちこんなことを書いたかというと、ここらへんの状況がマスコミに変な伝わってしまい、いまだに「単剤化」神話を「単純」に信じているような記事が目につくからだ。
例えば、某新聞の『精神医療ルネッサンス』。

> 統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、
>セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の
>多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向け
>られている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により
>深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。

担当の佐藤記者には何の恨みもないのだが(一回、取材を受けたが、実に熱心で人あたりの良いベテラン記者さんです。ただ、精神科医療に関する知識は???)、中途半端な勉強ぶりがかえってロジックの弱点になっちゃているような感じがする。この考え方だと「古典的なタイプの抗うつ薬単剤(トリプタノール、アナフラニール)」はよくて「睡眠剤+カリフォルニアロケット+抗不安薬」が多剤併用療法で批判の対象になってしまいますね。

 

猪股弘明(精神科医)