簡単に言うと・・
レントゲンや CT などの医療画像は、近年、デジタル化が進み、画像情報は患者さんの情報とともに最終的には電子的なファイルの形で出力・記録されます。このとき、そのフォーマットにメーカー間で差異があると、システムを組んだ際に、
・汎用のビューアで読めない
・統一された形式でサーバなどに長期保存できない
・そもそも各種計測装置と保存用サーバやビューア間の情報交換ができない
などの問題が生じます。この問題を解消する一つの方法は、記録形式や情報交換方法に統一された規格を定めることです。DICOM は、その規格の一つで、現在、事実上の国際的な標準規格になっています。
DICOM は、Digital Imaging and COmmunications in Medicine の略で「ダイコム」と読みます。
歴史的には、1980年代から北米の放射線学会と医療機器メーカーを中心に標準化が進められ、1993 年に DICOM として最初の規格が制定・公開されました。その後も、何度か改訂がなされ、規格自体は
で、公開されています。
なお、HorliX は、この規格に従って医療画像をPC(実際には Mac ですが)ディスプレイ上に描画するソフトウェア(DICOM Viewer)です。
医療現場での DICOM の意義と問題点
実際に上記サイトを訪れ、規格書に目を通すとわかるかと思いますが、規格自体が膨大です。
抽象的なモデルが提示された後、突如として具体的なデータ形式が延々と記載されていくなど、構成もなかなか理解しにくいものとなっています。
医療現場では、この特徴 ━規格自体の複雑さ・理解しにくさ━ がデメリットになっている側面もあります。
例えば、ある医療用の測定装置があったとして、ここから出力させるデータを病院基幹システムに取り込ませるには、ダイコム規格に従ってネットワーク機能や情報保存機能をソフト的に実装する必要があります。しかし、中小規模の医療機器メーカーにはこれが負担になるようで、臨床現場にはデータがダイコム化されていない医療機器も多数存在します。また、ニッチな分野では、数社あるいは単独一社で(たいていの場合ダイコムより簡易な)独自規格を決めている場合もあります。これらの場合、装置から出力された記録をいったん紙にプリント出力させたものをスキャナーで取り込むなどしなくてはいけません。ちょっと不便ですね。
逆に、単純レントゲンや単純CTなど撮像技術がほぼ確立されている計測装置(ダイコムの世界ではしばしばモダリティ modality と呼称されます)では、ほぼすべての装置がダイコム規格に従っているため、画像情報以外の医療情報(例えば、電子カルテ上に表現されているような情報。その一つに HL 7 という規格があります)との統合・連携がしやすいというメリットがあります。
具体的には、医療情報のほぼすべての分野を統合するための IHE (Integrating the Healthcare Enterprise)という規格が提案されています。参考までに日本IHE協会のサイトを挙げておきます。
現在、世界的にみても医療情報の2次利用・AI 技術の導入が盛んになってきています。ビッグデータの解析結果に基づく新たな知見や自動診断システムの保険適用などはしばしば新聞などにも取り上げられているのでご存知の方も多いでしょう。IHE 自体は、予約システムなどの医療機関のワークフローも包含するようなかなり広範囲な規格です。ですが、医療の中心課題はやはり診断・治療の精度でしょう。医師は画像所見や自身が記載した診療記録などから診断や治療方針を決めている場合が多いため、DICOM 規格に基づく医療画像情報と HL 7 に基づく医療文字情報が連携されるだけでも、この分野、特に診断や治療を支援するシステムの構築といった分野の整備・今後の発展に繋がります。
DICOM に限らず、医療情報を標準的な規格で記録しておくことは、この観点からも意味のあることだといえるでしょう。
(適宜加筆改訂予定)
猪股弘明
PHAZOR 合同会社(PHAZOR, LLC)
医師・理学士