ウマ娘と Unity と物理法則

ちょっとした話題になっているウマ娘だが、少なくとも win 版は Unity というプラットフォームで開発されているようだ。
ウマ娘を win にインストールするとユーザーホーム直下に umamusume というディリクトリがつくられる。ここに Unityxxx というファイルが含まれているので推測できる。
試しに先ほど Unity をインストしてみた。これからちょっと触ってみようと思う。
なんかレーシングゲームのひな型はすでにあるような・・・。

日本人は Unity のような枠組みをつくるのは下手でも、それ使ってコンテンツつくるのは上手だなとは思う。
アイキャッチのスクショの左がウマ娘、右が Unity の画面。
ちなみにウマ娘はアグネスタキオンw

あと、気になったのは、ヲタ気味の人がつくっている「考察」動画の類で、私もプレイするときに参考程度にチラ見したが、ちょっと物足りないかな。

例えば、ある物体が等加速度運動をしている場合、時刻 t でのその速度 v は、初速度を v0、加速度を a とすると
v = v0 + a * t
で与えられる。

実際には推進力は変わるなどして等加速度運動しているわけではないだろうが、どこかにこのような基本方程式というものがある、という視点がないとちょっと物足りない。

というか、ないとゲーム自体がつくれないでしょ。

 

(追記)『ウマ娘』はリリース以降、ほとんど勢いが衰えない感じで 2021 年が終わろうとしている。
いやはや、すごいですね。
まさか、ここまでのコンテンツになるとは。

ところで私も嗜む程度にはやっていたのだが、若い人に言わせると「(育成方針や戦略が)全然ダメ」だそうだ(笑)。

私の場合、リアルタイムで見ていたライスシャワーが(ゲームとして)完走すればいいくらいのモチベーションでやっていた。
だから、サポートカードガチャにはあまり興味がなかった。
演出も地味だしね。

スピード・ゴールドシチーやスタミナ・サトノダイヤモンドなどを使っていたのだが、これがダメらしい。

「いったんアプリ削除して最初からやり直した方がいい」レベルだそうで、大して課金もしていなかったので、それに従ったら、いやあ、強いウマ娘が育成できるようになりました。

コツは、インストールした初期の頃、大量に配られるジュエル(石)を可能な限りサポートガチャに回すことだそうだ。

この方針に従ったら確かに無課金でサポートカード天井までいけた。
運よく SSR マヤノトップガンがピックアップされていたので、3凸達成。

この状態でキタサンブラックをフレンド枠で借りてくると、ステータス伸びる伸びる(笑)。

こういうのは若い人は本当に得意ですね。

 

微細構造定数とリーマン予想と物理学帝国主義

ちょっと前に各種 SNS の数学クラスタと物理クラスタで騒ぎになっていたのだが、アティヤというお爺ちゃん数学者が、微細構造定数を計算で導出、そのボーナス(おまけ)でリーマン予想を解いたというニュースが流れた。
当直明け虚脱状態から脱しつつあるので、軽く調べるとアティヤさん自身が書いた解説記事が
The_Riemann_Hypothesis
に落ちていた。
目を通すと、トッド関数を導入し背理法を用いてリーマン予想を解いたとかいうことが書かれていたのだが、ダメだ、よくわからん。
わからないし、こちらには実のところあまり興味がない。学生の頃から周囲が「宇宙ガー」とか「素粒子命」とか言っているなか、ホジキン・ハクスリー方程式とか各種測定装置の原理や技術とかにマニアックな関心を寄せていた私が惹かれるのは、微細構造定数の方だ。
こちらの詳細は、
M.F.Atiyah The Fine Structure Constant. submitted to Proc.Roy. Soc A 2018
に投稿中とのこと。なんだ、それじゃ、真偽のほどはまだよくわからないね。
 
なんで微細構造定数が気になるかというと、生体の物性値も組織ごとにある程度は調べられていて、誘電率や導電率なども計測されている。そのときの生体の誘電率 ε(CSF), ε(skin),…etc は真空の誘電率との比を用いて定義され、その真空の誘電率と微細構造定数が軽く(本質的に?)関係しているから。
 
医学でも電気・磁気の力を用いた治療があるが、その力を支配する原理は実用的には(量子的な効果を考えなくてよければ)マクスウェルの方程式で完全に記述される。
例えば、脳灰白質(gray matter)に電場 E をかけたとすれば、
 ε(gray matter)∇・E = ρ
となる。組織をある程度巨視的・均一的にみて、細胞の膜構造などを無視できるとすれば ρ = 0 とおけて(もちろんこれは静電場のみで成り立つ間違った仮定なのだが、ここでは最も簡単な場合の一例として提示)
 ε(gray matter)∇・E = 0
と何ともシンプルな式になる。他の方程式と絡むので適切に交流的に取り扱うのはかなり面倒(だし、間違った理論も山ほど提出されているように思う)だが、やってやれないことはない。
そして物理屋さんたちは理論化・モデル化がある程度完成すれば、数値計算(シミュレーション)に持ち込むことができることを知っている。
最近の CPU の性能はパワフルだ。実用的な時間内に数値解をはじき出してくれるし、解が求まりさえすればそれを HorliX は「美しく」表示してくれる。
 
ところで、こういった訳の分からない開発・研究をさせたとき物理学出身者、特に実験物理屋さんほど最適な人種はいないのではないだろうか?

物理学科は数学科ほどではないにせよ

 就 職 に は 極 め て 不 利 だ が

理論の構築から、実現手段の設計・制作、応用まで割と広範囲にカバーできる。
オープンソースの世界でもオールラウンダータイプの物理屋さんが加わっていると、そのプロジェクトは上手くまわるように思う。
物理出身者は他分野に進出してもその方法論を押し通そうとするのでよく「物理学帝国主義」と皮肉られることがあるが、でも何の有効な方法論も持たずに漫然と作業しているのとどっちがいいだろう?
少なくとも私は精神科にきて初めて ECT を見たとき、「これを何らかの方法で評価しないのは患者さんに虐待しているのと一緒」と思ったけどね。
時代遅れと思われるかもしれないが、私は内心「物理学帝国主義」にはちょっとした誇りを持っているのだ。それに「帝国主義」とはいうものの他分野でその方法論がそのまま使えるほど現実は単純にはできていないと思う。他分野で個々の興味深い問題に取り組むうちにそれが元の理論の自然な拡張になることもあるのではないかと最近では思うようになった。
こういった営為はなかなか周囲に理解してもらえないが、私が「なんかこの人面白いな」と思う人は、なぜかこの手の変わった試みも一緒になって面白がってくれる。
元上司の H 先生や O 先生もそうだったし、最近ではご存知 S 先生も HorliX の熱烈な信者?になってくれている。
HorliX がほぼ宣伝ゼロで世界で売れたのは、このタイプの人々が世界にもいたからだと思う。
有難いことだ。
猪股弘明(フェイザー合同会社)

 

 

医工連携−失敗から学ぶ?編−

流行の医工連携だが、メーカー側にも問題あるんじゃないかみたいなことをこの前書いた。日本の医療機器メーカーは意外に開発意欲がないみたいなことは以前から指摘されているが、その具体例みたいなものだ。これもよく指摘されていることだが、大学の研究者も「難しいことをいっている割に、役に立たない」と批判されている。これも私は実体験がある。

かつて私はECTの物理的なシミュレーションにこっていた(今でもこっているわけだが)。精神科医として駆け出しだった頃、とある日本の工学系の先生の書いた論文を見つけ、ナイーブだった私はそこで披露されたモデルにすっかり魅了された。
そのモデルは、

頭部を構成する各組織の誘電率をεiとし、ポテンシャルをφとして

εi∇・∇φ=0‥(1)

を有限要素法などでまず解いて各節点でのφを求め、次にこの結果と組織の導電率σiを用いて

j=σi∇φ‥(2)

で各要素に流れる電流密度j を求める

というものだった。従来のモデルで取り込まれていなかった誘電性を考慮し、方程式自体も正しそうだ(実際、(1)も(2)も単独であれば条件によっては正しい式だ)。なにより工学系の査読つき雑誌に載っている。というわけで、(今から考えると恥ずかしい限りだが)これは何か意味のあるモデルに違いないと思いこんでしまったのだ。
そのうち、自分で実験したりシミュレーションしたりするようになりこちらの経験値が増えてくると、このモデルが救いようもないモデルに見えてきた。すぐにわかる傷は、

① 外部から交流(でもなんでもいいのだが時間的に変化する波形)をかけた場合、人体であっても電圧と電流の位相はずれるが、このモデルでは決してずれない

② 電位勾配を誘電性がつくり、その勾配の中を電流が走る、という構成になっているため、電流保存則が成り立たない

だろう。実測と合わないのは致命的にまずい。慣れた人なら「(1)式は静電場の式なので正しいわけがない」で一発アウトだろう。冷静になってみると、誘電率を使っているくせに変位電流がでてこないとか色々と変な点があることに気がつく。「救いようがない」と書いたのはそういう意味だ。

なんでこんなことがおこってしまうのだろう? 一つには、工学というのは、分野によっては、すぐに応用が求められるため、完全に根拠を示さなくても「可能性としてあり」なら査読に通ってしまうという風潮があるからではないかと思う(そうではないまっとうな工学分野の方が大半でしょうが)。また、インパクトファクター至上主義の影響のため、外部から少々の批判があっても関係者がごり押しでとにかく掲載を目指してしまい自分の仕事を冷静に振り返ることができにくくなっているからかもしれない。

医療機器に関して国の審査基準が厳しいのではという意見は数多いが、背景状況を考えると仕方がないのではと思うところがある。もっとも現場の医師は、工学系の人を「よくわからない数式を追っかけまわしている人」くらいの認識だと思うが。けっこう健全な考え方かもしれない。

 

猪股弘明 医師:精神科 理学士:物理
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AED

国内AEDの半分に故障の恐れ 日本光電の10万台

医療機器製造販売会社、日本光電工業(本社・東京都新宿区)は 20日、同社が販売した自動体外式除細動器(AED)の一部に心電図を解析できない不具合があったと発表した。同じ部品を使う機種は全国に約10万7千台あり、今月下旬にも点検を始めて故障が見つかれば修理する。厚生労働省によると、国内で設置済みのAEDは約21万台で、点検対象は約半数に上る。

 同社によると、点検対象のAEDは米国製で、商品名は「カルジオライフ」。型式は「AED―9100」「同9200」「同9231」「同1200」の4種類で、国内外で約30万台が販売されている。心電図解析は心臓に電気ショックを与える前に必要な検査で、これまでに2件の不具合があったという。うち1件は奈良県で4月、80代の女性に使用した際のトラブル。女性はその後、死亡したが、AEDの不具合と死亡の因果関係は不明という。

というニュースが目を引いた。
というのもサイマトロンの発売元が光電メディカルという日本光電の子会社だからだ。エレクトロニクス立国と言われる割には日本は医療機器分野、特に人体に侵襲を加える医療機器への開発意欲は低い。医療機器というのはつくりっぱなしというわけにはいかず、今回のニュースのように何か問題がおこった際には迅速な対応が求められ、当然、承認も慎重ならざるをえず、結果としてメーカー・行政ともにこの分野には及び腰となっているからだ。必然的に海外で承認済みのものが国内で使われることになる。

困るのは、そのせいで仕様が国内で明らかにされず装置自体がブラックボックスとなってしまう傾向があるということだ。このニュースをダシにしていってしまうとシミュレーションをやる際、パルスの電流制御の方法を知りたくて光電メディカル経由で開発元に訊いたことがあるのだが、案の定、なしのつぶてであった。電流制御はサイマトロンのキモとなる技術でそうやすやすと明らかにしたくないんだろうが、自分たちが何やってるかわからないというのは私のような人間にはかなり気持ちの悪い事態で、今回のようなことがあったりするとなおのことなんとかならないかと思ってしまう。

今回の件は、あちこちで流れたニュースを総合すると装置を自己診断するソフトが機能しなかったためそれをとりかえる、ということですみそうだ。が、そもそも心電図解析のアルゴリズムに致命的なバグがある(ある種のVT・Vfを正常ととってしまうなど)、という可能性も考えられ、その場合にはアルゴリズムくらいは公開されていないと事例解析にならないと思うのだ。

■追記
もうちょっと詳しく調べないとわからないのだが、現行の心電図解析のアルゴリズムはかなり簡略なものが採用されており事実某社の製品では

機種により解析アルゴリズムには違いが持たされており、同じECGが入力された場合に製品Aでショック指示が出たとしても、製品Bではショック指示が出ないことや、またその逆も考えられます。

と表記してある。
やはりこれアルゴリズム自体の検討もやった方がいいんではないかと思う。循環器内科医はBLSの講習もいいのだが、こういう仕事もすべきだと思うよ。

 

猪股弘明(医師)