学会発表2011春シーズン

ECTに関してちょっと興味深い症例があったので、医用工学系学会と医学系学会の演題発表に投稿しておいたら、まずは医用工学系から採択の通知がきた。

ECTに関するかなり細かい話なので一般に近い聴衆の興味をひくかどうかわからないところもあるが、脳の働きや医療機器に興味のある人だったら興味深く聞いてもらえるんじゃないかと思う。精神科とサイエンティフィックな脳科学との接点というと、MRIなどを使った画像解析やTMSなどを用いた神経心理学的な実験などがあるんだが、そんなに話を大袈裟にしなくても現在普通に行われているECT治療でもやり方や見方を変えれば面白い話題は出てくるよって話です。もちろん臨床にも役に立ちます。

 

猪股弘明(都立松沢病院)

 

発作全般化仮説

では、臨床的には頻用されているECTではあるが、なぜ効くのか?となると突然話がおかしくなってくる。
今のところ、なぜ効くのか明確な理由はわかっていないからだ。
ただ、ある程度の作用メカニズムは提案されていて、その最有力候補は発作全般化仮説という。

 

電気的ショック
→発作焦点の生成
→発作波の成長
→発作波の伝播
→発作波収束
→生物学的プロセス(BDNFやセロトニンの分泌↑)?
→鎮静・抗うつ作用の発現

 

特に、発作波が脳全体に伝播することが効果発現に必須と考えられている。これはよくわかる考え方で、臨床的にもけいれんがしっかり30から60秒ほどかかるとその後の経過も良い場合が多い。
少なくとも単なる電気刺激とは違うメカニズムが働いていることは確かそうだ。

(追記)最近は「生物学的プロセス」が重要だと考えられるようになってきた。というのは電気ショック後より効果が出始めるまで一週間程度かかるから。電気的刺激だけでよくなるなら、けいれん直後より回復するはずだがそうはならない。

ECT とは?

現在のところ精神科医としてはECTが研究テーマなのでこのお話をします。

ECTとは ElectroConvulsive Therapy の略で、日本語では電気けいれん療法と呼ばれている。

もともとは、「てんかん患者は統合失調症になりにくい」という経験論に基づいて発想された治療法(が、その後、この考え方は否定されている)。
人間の頭部に電気を通電するとけいれんが誘発されるが、けいれん誘発後しばらくするとうつがよくなったり、精神運動興奮がおさまったりする。
治療目的のみで使われているなら問題はなかったのだが、米国でも日本でも精神障害者の懲罰目的で使われていた精神医療の黒歴史とも言える時代が一時期あり、その反省から長らくその使用がタブー視されていた。
『カッコーの巣の上で』でジャックニコルソンがかけられていたので、それを通じてここら辺の経緯をご存知の方もいるかもしれません。

 

ところが適正に使用されれば、抗うつ薬や抗精神病薬より効果があることがわかりはじめ、近年は再評価され標準的な治療法に組み込まれている。

 

猪股弘明(精神科医)