MRI とは?ーその3ー

nomad
MRIシリーズ第3弾。
前回の「スピン」がけっこうキモでしょうか。
ここから、画像を構成するところまでいければいいいのですが。

 

以前に説明したように水素の原子核(ほとんどの場合、陽子1個)には磁石としての性質があります。
身体と同方向に強い磁場をかけるとこの小さな磁石の大半は、かけられた磁場と同じ方向に向きをそろえます。ですが、このとき、もう一つの状態、つまりかけられた磁場と反対向きの状態も取ることができます。ちょうど棒磁石のN極とS極が反転したような状態です。エネルギー的に不利になるので、通常はこういうことはあまりおこらないのですが。

ですが、このとき、この二つの状態のエネルギー差に対応したエネルギーを外部から与えられとしたら、どうなるでしょう?

答えは、もう一つの状態に移行する、です。なお、このとき、原子の中心にいる原子核にエネルギーを与える方法は、「飛び道具」の電磁波くらいしかありません。棒でつっつくとかはできませんから(笑)。

電磁波のエネルギーを吸収した原子核はいったん高いエネルギー状態(磁場とは反対向き)に移行しますが、やはり不安定なので、やがて元の状態に戻っていきます。このとき、電磁波を放出します。(下の図では、高エネルギー状態を赤く表示しました)

 

ところで身体の大部分は水でできています。水は分子式で書けば H2O でしたね。放出された電磁波の一つ一つはわずかなエネルギーしか持ちませんが、ありがたいことに水分子の水素(H)が身体に大量に存在するおかげで、この電磁波を検出することができるのです。

このとき、この電磁波が身体のどこから飛んできたか(位置情報)がわかれば、それは身体の水素原子核(プロトンという)の分布を反映していることになります。

MRIの画像の基本の一つは、このプロトン密度を強調した画像です。水分含有量が多い脳脊髄液では高信号(普通は白く表示する)になり、あまり水分を含んでいない骨組織(の固い部分)などでは低信号(黒く描画される)になります。

これが、MRIで組織ごとにコントラストに差が出る基本的な仕組みです。形態を知る上では非常に重要な情報になります。
なお、このとき外部から与える電磁波はMHzくらいで、ラジオ波という言い方をします。FM放送が使っている周波数帯を思い出せば、この呼称は納得できるでしょう。

ラジオ波をかけると言っても原子核中の水素を「あたためる」だけのものなので、X線のように遺伝子本体(DNA)に影響はあたえるものではありません。MRIは「核」磁気共鳴がその原理ですが、日本では「核」という言葉に悪いイメージが伴うことが多かったので、今でも「磁気共鳴」と説明されていることが多いようです。もちろんラジオ周波数程度では、核分裂したり、核融合したりということはおこりません。

 

急性期脳出血(矢印)のMRI画像(沖縄県医師会報からの引用)

ラジオ周波数のかけ方によって、プロトン密度以外の情報も取得することができます。T1強調、T2強調、…いろいろあります。上のMRIの画像を見てください。脳出血をするとその部位の水分子や周囲の状況が変わるので、MRIの撮像方法によってコントラストが変わってきます。MRIは病気の診断にも応用できるのです。

薬子
そうか、MRIって形態だけでなく、診断にも使えるんですね。これまで何回も説明されてもピンときませんでしたが、これで少しはわかったように思います。

 


アイキャッチ画像は、
Lionheart, W. R. B. (2015). An MRI DICOM data set of the head of a normal male human aged 52 [Data set]. Zenodo. http://doi.org/10.5281/zenodo.16956
を、HorliX という医療画像ビューアで表示させたものです。
左が T1 強調画像、右が T2 強調画像です。同じ患者さんでも、ラジオ周波数のかけ方や信号の取得の仕方によって画像のコントラストが変わるのがわかるかと思います。

 

監修:猪股弘明(精神科医師)

 

 

MRI とは?-その2-

nomad
MRI の測定原理上のキモはスピンだと思いますが、まー、これがちゃんと理解しようとすると難解。
あくまで「医療者」としての理解ということでいいと思います。

 

体内の水分子は静止していれば、原子核中の陽子はプラスの電荷をもったただの球状物体すなわちボールのようなものです。しかし、自分自身がある軸を中心に回転していると考えると、回転軸を中心として円形電流が流れているようなものですから、磁場が発生します。円状に流れる電流回路に磁場が生じるのは高校物理でも習いますね。

 

それをより大きな外部磁場中に入れると陽子の回転軸は外部磁場と平行か反平行かの2つの状態を取ります。

 

 

薬子
陽子が回転すると磁石のようにN極、S極の方向ができる。それをより強力な磁場の中に入れると上向き、下向きの2つに分かれるっということでいいでしょうか?

 

それでいいと思います。普段は陽子の向きはバラバラですが、MRI 装置中の強い磁場の中に入ると上向きと下向きに分かれます。

あれこれ言ってきましたが、上向きか下向きの二つしかない状態を作り出すってのがミソです。この状態にしてから、電磁波を外部から与えて、意味のある情報を取り出そうってのが、基本的な測定原理です。
その3に続きます。

 


補足説明】歴史的にいうと、それまで点状電荷と考えられていた(=静止した点状電荷では磁場に反応しようがない)電子に磁場に反応する性質がまず見つかり、その説明のために上記のような説明が考えられました。ある軸を中心にそれ自体がくるくる回っている(自転している)と考えると都合が良いためこの性質は「スピン」と名付けられました。

その後、原子核にもスピンという性質があることがわかり、この現象に基づく測定法 NMR (Nuclear Magnetic Resonance 核磁気共鳴法)が確立され、主に化学的な分析などに使われていました。この方法を人体のイメージングに応用したものが MRI (Magnetic Resonance Imaging) です。

猪股弘明(理学士: 物理、医師: 精神科)

 

 

MRIとは?-その1-

薬子
あの・・・
nomad
なんでそ?
薬子
医療画像のうち CT の仕組みはなんとなく理解できるのですが・・・
nomad
CT は、レントゲンを(患者さんを軸に)ぐるっと回して撮った「影絵」から、画像を再構成しているようなものですね
薬子
MRI (Magnetic Resonance Imaging)の仕組みがわかりません(キッパリ)
nomad
あー、あれは難しい。
医師でもぼやっとしか理解できていないと思う。
大学時代、理学部で NMR (Nuclear Magnetic Resonance 核磁気共鳴)スペクトロスコピーやっている先輩が持っていた教科書見て、基本概念から理解するのは無理!と思った。
ただ、臨床現場では、検査時などに患者さんに説明する必要があるので、「患者さん解説用」の最低限の理解は必要だと思う。ちょっとやりましょうか。

 

私たちの体のほとんどは実は水分でできています。

水分、水、化学記号で書けば H2O ですね。酸素原子一つに水素原子が二つ結合した化合物です。
ほとんどの水素は、陽子1個の原子核と電子1個からなります。

水素の中の陽子は、ちょうどコマのようにくるくる回っていると考えられています。電気的な性質を持った物体が回転するので周囲に磁場がつくられ、結果として自ら磁石のようにふるまうようになります。MRI 画像の基本であるプロトン(ここでは陽子と思っていただいてけっこうです)密度強調画像では、外部から電磁場を与えることで体の中のこの小さな磁石の密度をみています。

 

nomad
なのだが、次回、もうちょっと突っ込んだ説明を試みます

 

 

つづく