ECTの施行形態

そろそろ細かいところにはいっていきます。

現代に復活したECTであるが、それなりの歴史を有しているため実施形態も単一ではない。ポイントは
・原法と修正型
・サイン波とパルス波
の違いを把握しておくこと。たまに「サイン波=原法、パルス波=修正型」と勘違いしている人がいる。

 

◎原法と修正型
ECTが敬遠されてきた理由の一つに「けいれんによる強い筋収縮のため骨折などの副作用がおこる」というのがある。これを防ぐには予め筋弛緩剤を投与、全身性のけいれんがおこらないようにすればいい。というわけで筋弛緩をかけた状態でECTを施行する修正型電気けいれん療法(m-ECT)が生まれた(また、意識が覚醒しているのに体も動かせずに頭部に通電されるというのは恐怖以外の何者でもないので、麻酔薬を使って意識レベルも低下させる)。この経緯から、従来の筋弛緩をかけない方法を原法と呼ぶようになった。

◎サイン波とパルス波
ECT成立当時、簡便さから家庭用交流電圧をスライダックで降圧して使っていた(というが、もちろん見たことはない)。従ってこのときの電気波形は、50 ないしは 60Hz の定電圧サイン波のみとなる。しかし、サイン波ではけいれんを引き起こす閾値までの電気刺激が無効となってしまうため、信号が鋭く立ち上がる方形波(パルス波)が使われるようになった。現在、パルス波の方が主流となっている。

 

一つは筋弛緩をかけるかどうか、もう一つは刺激波形として何を使うかということであり、両者は本質的に違う次元の話である。理屈の上では 2×2=4 の4種類の実施形態があることになる。
つまり

1. 修正型 パルス波
2. 修正型 サイン波
3. 原法  パルス波
4. 原法  サイン波

の4通り。
このうち 3 の原法×パルス波はまずおこなわれないが、2. の修正型×サイン波は臨床上使われることがあった(modified sine wave ECT などという)。これは、パルス波ではけいれんが誘発されない場合、サイン波に切り替えるとけいれんが誘発されることが多いという臨床的事実に基づき、けいれん閾値が高い人に施行されていたからである。

だが、2010年代に入って、パルス波の電気的なパラメータ(パルス幅・刺激時間・周波数)を調節することで、けいれん誘発困難例でもけいれんを誘発させることができることが次第にわかるようになってきた。現在(2020)はサイン波は「不要」と考えられている。

 

猪股弘明(精神科医師)

 

ECT とは?

現在のところ精神科医としてはECTが研究テーマなのでこのお話をします。

ECTとは ElectroConvulsive Therapy の略で、日本語では電気けいれん療法と呼ばれている。

もともとは、「てんかん患者は統合失調症になりにくい」という経験論に基づいて発想された治療法(が、その後、この考え方は否定されている)。
人間の頭部に電気を通電するとけいれんが誘発されるが、けいれん誘発後しばらくするとうつがよくなったり、精神運動興奮がおさまったりする。
治療目的のみで使われているなら問題はなかったのだが、米国でも日本でも精神障害者の懲罰目的で使われていた精神医療の黒歴史とも言える時代が一時期あり、その反省から長らくその使用がタブー視されていた。
『カッコーの巣の上で』でジャックニコルソンがかけられていたので、それを通じてここら辺の経緯をご存知の方もいるかもしれません。

 

ところが適正に使用されれば、抗うつ薬や抗精神病薬より効果があることがわかりはじめ、近年は再評価され標準的な治療法に組み込まれている。

 

猪股弘明(精神科医)

 

AED

国内AEDの半分に故障の恐れ 日本光電の10万台

医療機器製造販売会社、日本光電工業(本社・東京都新宿区)は 20日、同社が販売した自動体外式除細動器(AED)の一部に心電図を解析できない不具合があったと発表した。同じ部品を使う機種は全国に約10万7千台あり、今月下旬にも点検を始めて故障が見つかれば修理する。厚生労働省によると、国内で設置済みのAEDは約21万台で、点検対象は約半数に上る。

 同社によると、点検対象のAEDは米国製で、商品名は「カルジオライフ」。型式は「AED―9100」「同9200」「同9231」「同1200」の4種類で、国内外で約30万台が販売されている。心電図解析は心臓に電気ショックを与える前に必要な検査で、これまでに2件の不具合があったという。うち1件は奈良県で4月、80代の女性に使用した際のトラブル。女性はその後、死亡したが、AEDの不具合と死亡の因果関係は不明という。

というニュースが目を引いた。
というのもサイマトロンの発売元が光電メディカルという日本光電の子会社だからだ。エレクトロニクス立国と言われる割には日本は医療機器分野、特に人体に侵襲を加える医療機器への開発意欲は低い。医療機器というのはつくりっぱなしというわけにはいかず、今回のニュースのように何か問題がおこった際には迅速な対応が求められ、当然、承認も慎重ならざるをえず、結果としてメーカー・行政ともにこの分野には及び腰となっているからだ。必然的に海外で承認済みのものが国内で使われることになる。

困るのは、そのせいで仕様が国内で明らかにされず装置自体がブラックボックスとなってしまう傾向があるということだ。このニュースをダシにしていってしまうとシミュレーションをやる際、パルスの電流制御の方法を知りたくて光電メディカル経由で開発元に訊いたことがあるのだが、案の定、なしのつぶてであった。電流制御はサイマトロンのキモとなる技術でそうやすやすと明らかにしたくないんだろうが、自分たちが何やってるかわからないというのは私のような人間にはかなり気持ちの悪い事態で、今回のようなことがあったりするとなおのことなんとかならないかと思ってしまう。

今回の件は、あちこちで流れたニュースを総合すると装置を自己診断するソフトが機能しなかったためそれをとりかえる、ということですみそうだ。が、そもそも心電図解析のアルゴリズムに致命的なバグがある(ある種のVT・Vfを正常ととってしまうなど)、という可能性も考えられ、その場合にはアルゴリズムくらいは公開されていないと事例解析にならないと思うのだ。

■追記
もうちょっと詳しく調べないとわからないのだが、現行の心電図解析のアルゴリズムはかなり簡略なものが採用されており事実某社の製品では

機種により解析アルゴリズムには違いが持たされており、同じECGが入力された場合に製品Aでショック指示が出たとしても、製品Bではショック指示が出ないことや、またその逆も考えられます。

と表記してある。
やはりこれアルゴリズム自体の検討もやった方がいいんではないかと思う。循環器内科医はBLSの講習もいいのだが、こういう仕事もすべきだと思うよ。

 

猪股弘明(医師)

 

医学部受験における「展開」の発見

医学部受験に関して医学部生時代に書いた文章を発掘したので、修正・加筆して掲載。


センター終わったようですね。受験者のみなさま、おつかれさまでした。私はテスト終了後の、あの心地よい疲労感が好きでした。

で、今年の結果をちらちら見聞きして気づいたのですが、今年は医学部志望者は(800 点満点で)700 点オーバーの人が多そうですね。私が受験した年は、問題が難しかったせいか、はっきりいってバラけてました。こういう速い展開だと一次重視の大学では「前残り」で決まってしまうケースが多いと思います(出遅れた古馬がいくら追い込んでも新馬の壁に阻まれてなかなかカワせない)。同様の理屈で、たいていの大学の後期も「前残り」で「ボーダーに並んだ場合どちらかといえば現役を取る」ことから「再受験不利」ではないかと思います(センターで30馬身くらいチギってたら話は別)。

どこかで、去年のデータを持ち出して、センター8割以下の人でもけっこう受かっている、という話をしていましたが、去年と今年の単純比較は、上のような理由でちょっとヤめといた方がイイと思いました。これは私見ですが、去年後期で再受験生が(しかもとんでもない位置から)けっこう受かってますが、あれは馬場が悪くペースも上がらず、結果、バラけた展開となった去年だったから、という気がします。

というわけで「今年はなるべく前期で決める」「はっきりいって後期はアテにならん」というのを頭のスミに留めておくといいと思います。

ただし、前期・後期に関わらず2次重視の大学は、あんま関係ないでしょう。好位につけていれば(今年の場合680前後か?)、ボーダーの数点など気にする必要はないと思います(それより問題との相性の方がよっぽど重要)。

ところで、大川慶二郎の競馬評論への最大の貢献は「展開」の発見であり、これは大学入試というレースにも通じるところがあると思うのだがどうだろう?

実際私はセンター初日の数1Aの試験の最中けっこう苦しかった(誰だって苦しい)のだが、「この難易度ならここを乗りきってしまえば差をつけられる」と他馬の動きを気にしていた。で、周りの受験生の表情と自分の手応えから志望大学のボーダーを予想し、例年よりボーダーが落ちるという確信のもと、二日目は、国語の選択肢の切り方を安全の方に振るなどギャンブルは避けた。試験は、もちろん自分との闘いであるが、選抜試験という意味合いでは馬場や他出走馬との兼ね合いで勝負が決まる相対的な競争である。はやくいえば、ハナ差でもゴール板にはやく飛び込めば勝ちなのである。しかも一番でなくていい。随分、泥臭い捉え方かもしれないが。


「受験前の心構え」みたいな話はよくあるのだが、テストを受けている時の心の持ちように関して述べた話はあまりなく、初出時、けっこう好評でした。

 

猪股弘明(横市大医卒 精神科医)

よろしくお願いします

古くは、中学生くらいの頃から、日記をつけたりつけなかったりをしていたのだが(そうは言っても大学生あたりまではほぼ三日坊主)、1回目の大学後半〜社会人なりたての頃くらいから、自分が掘り下げるべき領域は物理系と生物・医学系の境界領域あたりにあるなあと思い始め、実際、その後、現実的にもそうなったしまった感があるので、ここでは、その視点から過去に書いた記事などをまとめています。

biophysical psychiatry というタイトルで以前『はてな』でブログをやっていたんですが、けっこうしっくりきている感じもするので、こちらでは、

biophysical psychiatry +

というタイトルでいきます。

 

猪股弘明(医師・理学士)