実質、『iPSからの・・・神経系細胞誘導』の続き。
その最後の方で「事業として成立する前に研究開発費が枯渇する「死の谷」が迫っている」という趣旨の報道記事を紹介したのだが、その後、これは現実的な問題になって、
『iPS研究予算「いきなりゼロは理不尽」 京大・山中氏支援継続を政府に求める』
という事態になっているようです。
ただ、この手の記事は、ある程度ミスリードを誘うようなところがあって、SNS などでは「予算ゼロで研究が止まったりしたら大変だ、早速研究所に寄付した!」みたいな反応がでていた。
いや、そういうことではないような・・・ (- -;)
まず、これは山中先生関連の(主に備蓄事業を対象とした)「大型予算」がゼロになるだけであって、iPS 関連の予算がゼロになるわけではない。国からの科学関係の予算分配としては、科研費が有名だが、例年11月くらいに申請が行われ、審査に通れば、翌年6月くらいから交付される。科研費にはグレードがあって、基盤Sであれば、5年で2億の予算がつく。1人で申請も可能だから、これ単独でも当たれば1年で4千万使える。このクラスに申請する人は、大学の教授職についている人が多いし、所属組織にはある程度実験装備も整っている場合が多いから、そのような環境なら研究費だけで4千万というのは、かなり使い勝手がある。
また、科研費申請できるような研究機関であれば、複数人の研究者を抱えているのがほとんどだから、複数あたれば、組織としての「基礎」研究としては、かなり余裕がでると思う。
さらに、臨床的な実用化が視野に入っていれば、AMED という機関からの予算配分も期待できる。1案件あたりの予算としては、AMED は大型のものが多い。
実績のある方々が数多く在籍しているわけだから、これらの予算が取れないということは現実的には考えにくい。
だから、「ゼロになる」という強調の仕方は、ちょっとどうなんだろと思う。
研究活動は縮小するかもしれないが、会社が不意に倒産するように事業がピタッと止まるというようなことはありえないはずだ。
また、研究フェイズの上でも、いったん、枠組みを再考した方がいいように個人的には思う。iPS に関しては、幹細胞への初期化や各種組織への分化誘導、生体への導入あたりまでの技術確立は文句なしに素晴らしいと思う。が、そのレベルから実際に人体に生着させ、機能を獲得するというのは研究テーマとしては別の話になってくるのではないだろうか?(ここらへんは前の記事を読んでください)
状況が膠着したら、一つの考え方に縛られるより、打開のために異なるアイディアを持ってそうな複数の人に予算を分配して機会を与えるというのは、あっていい考え方だと思う。
実際、枠組みを新しくする構想は前からあったようですね。
『iPS細胞、産業化見据え 再生医療研究の新指針れ』
この時期にこのような主張をするのはなんでだろ?
と疑問に思ってたら、その背景をさらりと書いている記事があった。
『日本の iPS 研究は、なぜガラパゴス化したのか?』
現在の延長線上には、臨床応用は難しいという認識は私だけではなかったようで、ちょっと安心。あと、国際的視点が興味深かった。
猪股弘明
PHAZOR合同会社
精神科医