微細構造定数とリーマン予想と物理学帝国主義 の続き

微細構造定数の方のプレプリントは
にありました。
海外の若い人がよく指摘しているのは、 7.1 のトッド関数とやらを使って実際に微細構造定数(α)の逆数を求めると
 
 1/α = 0.1602598029967017
 
となり、超有名なこの値
 
 1/α = 137.035999139…
 
と異なるというもの。
確かに大きく違っているね(笑)。
大御所にズケズケと反論する若者、大好きです。(^^)

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微細構造定数とリーマン予想と物理学帝国主義

ちょっと前に各種 SNS の数学クラスタと物理クラスタで騒ぎになっていたのだが、アティヤというお爺ちゃん数学者が、微細構造定数を計算で導出、そのボーナス(おまけ)でリーマン予想を解いたというニュースが流れた。
当直明け虚脱状態から脱しつつあるので、軽く調べるとアティヤさん自身が書いた解説記事が
The_Riemann_Hypothesis
に落ちていた。
目を通すと、トッド関数を導入し背理法を用いてリーマン予想を解いたとかいうことが書かれていたのだが、ダメだ、よくわからん。
わからないし、こちらには実のところあまり興味がない。学生の頃から周囲が「宇宙がー」とか「素粒子ぃー」とか言っているなか、ホジキン・ハクスリー方程式とか各種測定装置の原理や技術とかにマニアックな関心を寄せていた私が惹かれるのは、微細構造定数の方だ。
こちらの詳細は、
M.F.Atiyah The Fine Structure Constant. submitted to Proc.Roy. Soc A 2018
に投稿中とのこと。なんだ、それじゃ、真偽のほどはまだよくわからないね。
 
なんで微細構造定数が気になるかというと、生体の物性値も組織ごとにある程度は調べられていて、誘電率や導電率なども計測されている。そのときの生体の誘電率 ε(CSF), ε(skin),…etc は真空の誘電率との比を用いて定義され、その真空の誘電率と微細構造定数が軽く(本質的に?)関係しているから。
 
医学でも電気・磁気の力を用いた治療があるが、その力を支配する原理は実用的には(量子的な効果を考えなくてよければ)マクスウェルの方程式で完全に記述される。
例えば、脳灰白質(gray matter)に電場 E をかけたとすれば、
 ε(gray matter)∇・E = ρ
となる。組織をある程度巨視的・均一的にみて、細胞の膜構造などを無視できるとすれば ρ = 0 とおけて(もちろんこれは静電場のみで成り立つ間違った仮定なのだが、ここでは最も簡単な場合の一例として提示)
 ε(gray matter)∇・E = 0
と何ともシンプルな式になる。他の方程式と絡むので適切に交流的に取り扱うのはかなり面倒(だし、間違った理論も山ほど提出されているように思う)だが、やってやれないことはない。
そして物理屋さんたちは理論化・モデル化がある程度完成すれば、数値計算(シミュレーション)に持ち込むことができることを知っている。
最近の CPU の性能はパワフルだ。実用的な時間内に数値解をはじき出してくれるし、解が求まりさえすればそれを HorliX は「美しく」表示してくれる。
 
ところで、こういった訳の分からない開発・研究をさせたとき物理学出身者、特に実験物理屋さんほど最適な人種はいないのではないだろうか?

物理学科は数学科ほどではないにせよ

 就 職 に は 極 め て 不 利 だ が

理論の構築から、実現手段の設計・制作、応用まで割と広範囲にカバーできる。
オープンソースの世界でもオールラウンダータイプの物理屋さんが加わっていると、そのプロジェクトは上手くまわるように思う。
物理出身者は他分野に進出してもその方法論を押し通そうとするのでよく「物理学帝国主義」と皮肉られることがあるが、でも何の有効な方法論も持たずに漫然と作業しているのとどっちがいいだろう?
少なくとも私は精神科にきて初めて ECT を見たとき、「これを何らかの方法で評価しないのは患者さんに虐待しているのと一緒」と思ったけどね。
時代遅れと思われるかもしれないが、私は内心「物理学帝国主義」にはちょっとした誇りを持っているのだ。それに「帝国主義」とはいうものの他分野でその方法論がそのまま使えるほど現実は単純にはできていないと思う。他分野で個々の興味深い問題に取り組むうちにそれが元の理論の自然な拡張になることもあるのではないかと最近では思うようになった。
こういった営為はなかなか周囲に理解してもらえないが、私が「なんかこの人面白いな」と思う人は、なぜかこの手の変わった試みも一緒になって面白がってくれる。
元上司の H 先生や O 先生もそうだったし、最近ではご存知 S 先生も HorliX の熱烈な信者?になってくれている。
HorliX がほぼ宣伝ゼロで世界で売れたのは、このタイプの人々が世界にもいたからだと思う。
有難いことだ。

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都立松沢病院の ECT

『Macの高機能DICOM Viewer/Analyzer : HorliXの紹介 (1)はじめに』

なんでこんな偉大な先生が HorliX のためにここまでしてくれるのだろう?
この感じ、以前にもあったなと思っていたのだが、思い出した。
都立松沢病院麻酔科のM先生だ。
M先生は、私の long brief pulse method を最後の最後まで擁護してくれた。long brief pulse method というのは、悪名高きECTの一種の変法だ。通常設定でECTの効果がなかったとき、刺激波形を決める各種パラメータを一施行毎に変化させ最適値に近づけていく。一種のテーラーメード医療といってもいいと思う。もちろん最適値が事前にわかるわけがないので、施行後に速やかに結果を評価して可能な限り最短手数で最適値を見つけ出す必要がある。
松沢病院では、サイン波 ECT が強く関係していると思われる医療事故がおこったため「サイン波ECTは危険」という認識が生じ(これは疫学的研究からまったく正しい)、それまでの
 ECT装置通常設定無効時→サイン波装置使用
から
 ECT装置通常設定無効時→パルス幅変更
(つまり、サイン波装置は使わない)
といういわゆるlong brief pulse method というアルゴリズムに変わった。
ECTをかける技術が未熟な医師にインシデント・アクシデントおこされて麻酔科医として巻き添えは食いたくないというリスク回避も正直あったと思うが、そこにはそういったことを超えた何かがあったように思う(というかそう思いたい)。
 
その long brief pulse method も現在の斎藤院長に変わり「パルス幅を2倍にすれば、電力は2倍になる。装置の設定を変えるなど言語道断」という電気回路工学的・物理学的には完全に間違った理由で放棄されてしまった。(この主張が成立するのは、系の応答を直流的に取り扱っても良いときだけだが、生体組織は一種の誘電体として振る舞うため、交流的に取り扱わなければならず、問題設定の把握という点から間違えている。また、「共鳴」とは異なる原理なのだが、最適値付近では必要な電荷量は少なくてすむことがかなり多くのグループから報告されており、この特性を把握していないという意味でも間違えている)
そのときもM先生は最後まで抵抗してくれたと聞いている(その時点で私はヒラの医員だったか非常勤だったかで幹部会には当然出席を許されていなかった)。
 
なお、long brief pulse method は無名のジャーナルとはいえ peer-review を通っているので、エビデンスの有り無しでいえば(一例モノでグレードは低いものの)「有り」である。
A case of schizophrenia successfully treated by m-ECT using ‘long’ brief pulse. Inomata H et al, International Journal of Case Reports and Images 2012;3(7):30–34.
有難いことに京大の川嶋先生・村井教授らも追試をおこなってくれているので、何らかの加点要素はあるのではないかと思う。
それに対し、従来アルゴリズムは単に経験的におこなわれているだけなのでエビデンスは「無い」(と思う。すみませんEBMに関してはそれほど詳しくないです)。少なくともAPAのガイドライン的にも「今後の課題」とされていて、はっきりとした指針があるわけではない。
なんでエビデンスのある治療法が、ない治療法に取って代わられなければいけないのか? しかもよくわからない理由で。
 
以前にこのことに関して「今から考えるとおかしい」と書いたのはそういった理由による。
 
そういえば、両先生、(斎藤先生にはまだ実際にはお会いしてないが)容姿なども似ているような…。

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電子版医師国家試験問題集 PastMaster

🌟電子版医師国試問題集 PastMaster
私は諸々の理由で国試対策に積極的にソフトを活用していた。
私が国試を受ける前年、学卒の千葉の医学生さんがメディックメディアのCD問題集から全ての問題文と回答をテキスト形式で抜き出すというナイスなハッキングを敢行、さらにそのデータを使って電子版の問題集をつくってくれていたのだった。これを活用した。
使ってばかりでなく恩返しもしようと思い、ちょっとした自作ソフトも公開していた。
PastMaster という。

使い方としては、間違えた問題のみ中古のクエスチョンバンク(=医師国家試験問題集)から解説をリライトしてコメント欄にまず書き込む。これで、1周まわった時点でオリジナルな電子教材が格安で出来上がる。
2周目からは、電子媒体の良さが出る。回答をクリック、ボタン一発で正誤と自分が書き込んだ解説が確認できるので、いちいち回答を紙に書き出すより早い。爆速で問題がさばけるし、知識の定着も効率的だ。
コメント欄を read/write 可能にしておくのがキモで、あやふやな回答の仕方しかできない問題には、例えば
「言語の遅れがある→自閉症
 言語の遅れがない→アスペルガー」(当時の診断名)
というような自分なりの回答判別基準を追加で書き込んでおく。自分がわかればいいだけなので、網羅的な解説でなくていい。
 
私は、ポリクリ終了直後から出入りしていた某ソフトハウス経由で創薬・計算化学分野のさる超高額ソフト(確か600万くらいした)のデバッグを引き受け作業におわれていたため(確か仕事から解放されたのは10月中旬くらいだったと思う)、とにかく卒試や国試の対策にかけられる時間がなかったのだ。
苦肉の策だった。
なお、このソフトハウス、コードが書けるとわかると、誰でも登用されるという私みたいな人間にとっては大変都合の良い職場だった。左手首のリスカ痕も隠すでもなくキーボードを超高速で打鍵するメンヘラーさんらしき人も大活躍していた(今から考えるとボダさんだよね)。
 
まったく同じ立場にいるような学生がいるとは思えないが、私が医学畑にきて感じたことに
 ・OsiriX MD の価格が不当に高い
 ・国試に関する問題集・参考書・模試にかかるトータル
  の費用が高すぎる
ということがあり、前者はそこそこ支持されたようなので、後者もきちんと取り組めばそれなりに結果も出るような気がするのだ。

  
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医学部受験時カースト: 男子>女子>多浪>…>再受験

東京医大の贈収賄をめぐる事件は、受験時の点数調整の問題も明るみに出され、これが「医学部の適正な男女比」や「医師にとって幸せな働き方とは何か?」といった一般的な社会的な問題を惹き起こしている感がある。

こういう議論が今までなされこなかったという側面もあり、これはこれでいいことなのではないかと思う。

ところで「医学部受験時の個人属性による差別」は医師ならばある程度は知っていることであり、逆に一般の方はまるで知らなかったのかとちょっと驚いた。

医学部受験時に不利とされるのが「女子」・「多浪生」であるが、ニュースなどであまり取り上げられていない属性として「再受験生」というのがある。他学部在学中の学生や一度大学を卒業した社会人が医学部を受ける際に使われる呼称だ。

現在では学部(以上)卒業者を対象に学士入学枠なども設定されているので、差別云々というよりは特別枠として認められていると思うが、この制度が定着する以前は「再受験生」はほぼ「悪」・受験時の差別の対象の筆頭格とみなされていた。私が医学部を受験した20年ほど前はちょうど過渡期であり、群馬大などで学士入学枠が新たに設定され始めた頃であった。

その当時、再受験生に対し、一般受験時の差別、つまりあからさまな点数調整があったかといえば、(大学にもよるのだが)かなりの大学で「あった」と思う。では、それが絶対であったかというとそうでもなかったように思う。

例えば、私の出身大学は、当時、「再受験に対し厳しい」・「4浪以上は絶対に取らない」とされていたが、(入学するとわかるのだが)私を含め毎年何人かの再受験生が合格していた。では、点数調整がなかったのかというと(たぶん)そんなことはなくて、私の場合でいえば「センター+筆記試験」では中位以上で合格していたはずだが、実際には補欠合格であった。

正直、不公平では?と思わないでもなかったが、「試験問題に専攻分野が出た場合、現役高校生と比べ点数取れて当然」という事情もあり、私を含めそういうものだと受け入れていた。その代わり、そういった「差別」を乗り越えてきた学生は、細かいことに拘らない何かとパワフルな学生が多かったと思う。

結局、何が言いたいのかというと、受験の選抜方法というのはどんなに議論を尽くしても不公平さは残るものだし、万人が納得する完璧に公平な選抜方法というものはおそらく存在しない、だが、それを絶対とはみなさず、しぶとく生き残っているマイノリティは存在するのだ、というようなことだ。

 

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