高機能型境界性人格障害 High-Functioning Borderline Personality Disorder

前々からBPD(Borderline Personality Disorder 境界性人格障害)には、下位分類が必要では?と思っていたのだが

Research on Borderline Personality Disorder Subtypes

などを読むと、まだ一定の結論は得られていないようだ。

以前にも確か Twitter で「人格障害は病気なのか? 普通の健常人との違いは何か?」という質問をもらったことがあるのだが、そのとき「高機能型BPD は一見すると健常人と見分けがつかない。診察を続けていってようやく気がつく」みたいに返したと思う。
高機能型というのは、従来の典型的な BPD 患者(= 派手にリスカするようなタイプ)を低機能型ととらえ、少なくとも社会的「機能」は損なわれていない BPD の一群を低機能型とあえて区分して呼びたいときに用いられる言い方だ。世間的に知られている人の中では、例えば、ダイアナ妃がそうだったのではないかと言われている。
BPD はしばしば「ボーダー」と呼称されている。もともとこの疾患は、一昔前の精神科領域での二大疾患「統合失調症」と「うつ病」の「境界(ボーダー)」に位置付けられるとされていたため、その名残で今でもそう呼ばれているのだ。ただし、現代では、境界領域にある疾患などではなく、「人格が特異な方向に偏った」疾患群である「人格障害」内に位置付けられ、女性に多く、偏った母子関係・生育環境を起源とする独立する疾患と考えられている。

なお、従来の BPD の診断基準は DSM-5 では以下のようになっている。

DSM-5の境界性パーソナリティ障害(BPD)の診断基準(簡略化されたもの)

(1)見捨てられる体験を避けようとする懸命の努力。
(2)理想化と過小評価との両極端を揺れ動く不安定な対人関係。
(3)同一性障害(自己像や自己感覚の不安定さ)。
(4)衝動性によって自己を傷つける可能性のある、浪費薬物常用といった行動。
(5)自殺の脅かし、自傷行為の繰り返し。
(6)著明な感情的な不安定さ。
(7)慢性的な空虚感、退屈。
(8)不適切で激しい怒り。
(9)一過性の妄想的念慮もしくは重症の解離症状。

(詳しくは、『林直樹先生に「パーソナリティ障害」を訊く』などをご参照ください

内面に関するものと行動パターンと対人関係に関する項目が並んでいるため、わかりにくいのだが、高機能型では、このうち対人関係に関する症状(1, 2, 5 など)が特定の人に向けられており、社会的な場ではこういった症状が出ることはほぼないといわれている。それゆえ、社会的な適応も取れていて、一見すると健常者のように見える。
「高機能型BPD は一見すると健常人と見分けがつかない」と書いたのはそういった事情による。

また、このカテゴリーに入ると思われる人は、ある程度、自分のそういった部分に違和感を感じており、例えば、診療が上手く進行すると主治医・スタッフにそのことを伝えてくれる。どこかで書きたいと思うが、この自己に対する認識(=自己洞察などという)があるとキレイに治ってしまうことが、多くはないにせよ、条件次第ではある。何回か経験したことがある。

・・・とちょっと固く書き過ぎたかもしれない。具体例がないかな?と思っていたら、(元)患者さんが、「これ、面白いよ」とあるブログの記事を紹介してくれた。

年末にメンタル闇落ちする不倫女子の正体は「愛されて育った素直なマジメ女子」

この記事でメンタル云々は触れられてはいるが、(当たり前だが)精神科特有の記載方法ではない。が、高機能型BPDのうち、依存傾向が強く、その対象が薬物や異性(特に年上上司)に向かってしまうタイプの特徴をある程度捉えているようには思える。

特に、「精神的な免疫力のないマジメで可愛い女子が上司への相談をきっかけに不倫にハマってしまう」という論理構成は、「なるほどな」と思わせるところがある。表現もユーモラスで「読ませる」記事ではある。私もさらりとではあるが、最後まで目を通すことができた。

だが、(一般向け記事なので当然なのだが)その手の女子がそもそも家族背景や生育環境に何かしら特異な部分があり、それが起源になっている場合などは触れられていない。
対処方法も、「精神の免疫力を上げる」。具体的には、

1 他人の意見を即ダウンロードしない
2 自分で選び意思決定する癖をつける
3 複数の第三者機関=友人を持つ
4 人生の意思決定をするのは自分だ、という覚悟を持つ

といった方法が列挙されている。が、「そういったことは頭ではわかっていても、行動レベルでの変容ができない」といったかなりコジらせたケースではこういった方法は単純適用が難しいように思う。もともとの精神的な健康度が高く、経験から行動を修正できるようなタイプを想定しているのだと思われる。

だが、私たち精神科医が真に相手にしているのは、何度か(異性間の関係に起因する)トラブルを経験してもなかなか行動レベルでの変容ができないタイプなのだ。

 

・・・などとエラソーに書いていたら、その(元)患者さん「そんな風に勝手にカテゴライズしないで、私たちは簡単じゃないの」とややプンプンヽ( )`ε´( )ノ

でもねえ、こちらは、遺伝性が強く出たと思われる統合失調症の患者さんを診察した直後にあなたのようなタイプを診なくてはいけないわけで、カテゴリーを意識していないと何やっているかわからなくなるんすよ。

 

それはそうと、最近では、チー太郎@精神科医さんの Tweet に興味深いものがあった。

「自尊心が低い」と説明しているが、職業柄、パーソナリティ障害の方々を念頭に置いて書いていると思う。どなたかが、この図をさして「誰もが幸せになれない永久機関」と形容したが、言い得て妙。

あとは、スピリッツ(だったかな?)で連載されている漫画にけっこう面白い表現があったかな。見つけたら、取り上げてみたい。

 

(続いてます)

 

猪股弘明(精神保健指定医)

 

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