コロナ後遺症の精神症状について

新型コロナ感染症については、現在(2021年2月)、ワクチンや後遺障害がトピックといったところだろうか。

今回は、コロナ後遺症に関して気になったことがあったので、ちょっと述べさせてもらう。

新型コロナの病態で厄介なのは、炎症反応が活発化し時に宿主自体の組織を不可逆的に損傷してしまうことだ。
だから、肺炎自体は軽快しても、呼吸困難感などの後遺障害が残ることが知られている。他の症状としては、倦怠感や脱毛などがよく挙げられる。

図は https://news.yahoo.co.jp/byline/kutsunasatoshi/20210131-00220218/ より。クリックで元記事に飛べます。

倦怠感や集中力の低下と言ったら、うつ病などでもよくみられる症状だ。慣例的な身体症状 or 精神症状という二分法に従うならば、精神症状に分類される。

では、精神症状があった場合、その治療は典型的な精神科的な治療(安定剤や抗うつ薬などの投与、精神療法、電気けいれん療法…etc)だけですむかいえば、そうはならない。
精神症状の中には身体的な疾患に伴って現れる精神症状というものがあり、この場合、対症療法的な精神科的治療はあってもいいが、より重視すべきはやはり元となった身体疾患の治療だ。
例えば、甲状腺ホルモンの分泌が低下した場合、なんとなく元気がない(≒意欲の低下)といった症状が出るが、抗うつ薬の投与が本質的な治療に繋がるものではないというのは言うまでもないでしょう。優先して考慮すべきは原疾患の治療なのだ。
他には、更年期障害に伴う抑うつ症状も有名だが、尊重すべきは婦人科的治療(ホルモン補充療法など)だ。マニアックな例としては、CNS ループスの精神症状がある。この場合、問診などでは統合失調症急性期とほとんど区別がつかない。幸いなことに両者は画像診断などで鑑別可能だが、神経内科的な治療が遅れると生死に関わる。

で、コロナ後遺症に話を戻すが、この場合も
・コロナ後遺症に伴う精神症状
・コロナ発症をきっかけとした心因反応
の区別は重要ではないかと考えている。
前者が本当に実在するならば、根本的な治療のためにはその病態の解明を急ぐ必要があるし、後者であれば、通常の精神科治療で事が足りてしまうからだ。

そして、私が気になっている点は、この区分が曖昧なまま実臨床の場で安直に「コロナ後遺症」という診断名が使われている節があるからだ。

例えば、こんな tweet を先日みかけた。

軽快してしまった新型コロナ感染症を直接的な原因とする過呼吸というのは考えにくく、おそらくは、もともとパニック障害などを持っていたか、環境変化などに起因する不安が高じての過呼吸発作かと思われる。
これを「新型コロナ後遺症」の範疇に含めるのは、ちょっとどうなんだろうと私は思う。

 

猪股弘明
医師:精神科(精神保健指定医)

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