オープンソース(Open Source)ソフトウェアに関する軽めの話など。
まず、オープンソースって何ぞやって人は、『伽藍とバザール』あたりを読むと雰囲気掴めると思います。このエッセイ自体、お話として抜群に面白い。
筆者のエリックレイモンドさんが自身が開始したプロジェクトでオープンソース開発方式を意識的に選んだときの経験談やコードを書く際の箴言めいた教訓が語られています。
Linux コミュニティはむしろ、いろんな作業やアプローチが渦を巻く、でかい騒がしいバザールに似ているみたいだった(中略)。そしてそこから一貫した安定なシステムが出てくる なんて、奇跡がいくつも続かなければ不可能に思えた。
このバザール方式がどういうわけかまともに機能するらしく、しかもみごとな結果を生むなんて、衝撃以外の何物でもなかった。
よいソフトはすべて、開発者の個人的な悩み解決から始まる。
何を書けばいいかわかってるのがよいプログラマ。なにを書き直せば(そして使い回せば)いいかわかってるのが、すごいプログラマ。
目玉の数さえ十分あれば、どんなバグも深刻ではない
賢いデータ構造と間抜けなコードのほうが、その逆よりずっとまし。
ところで、OSI (Open Source Initiative) という団体が認めたライセンスに合致したソフトしか「オープンソース」としては言わないとかという面倒くさい主張もあるんですが、ここでは「ソースコードが公開されていて、改変・再配布などの自由も認められているソフト」程度の意味で使います。
特に後で出てくる OpenDolphin に関しては、当初は GPL という OSI お墨付きのライセンスが適用されていましたが、現在ではそうなってはいません。
この話は説明しだすと長いのでここでは詳しくは触れませんが(『OpenDolphin -wikipedia 風解説-』あたりをご参照ください)、このプロジェクトの経過を追うと日本においてオープンソースのソフトが成立しにくいと言われる理由がよくわかると思います。
話が横道に逸れました。オープンソースそのものの定義とかという半ば宗教論争みたいな議論をここでしたいわけではありません。
ソースコードが公開されていること、それを自由に改変してもかまわないことという特徴からどんなメリットが生まれてくるのでしょうか。
ここでは、この点に注目します。
実際、ユーザー視点や運営視点に立つと、ライセンスがどーのこーのと難しく考えるより、ソースコードを自由にいじれるかどうかという視点でみた方がわかりやすかったりします。
例を一つ。
Dynamics(ダイナミクス)
医療用のソフトの領域で Dynamics(ダイナミクス)という電子カルテ&レセコンのソフトがあります。
画像はHPトップのものですが、”開業医が開発した診療所発のソフト” とあるように、メーカー製のソフトの使いにくさに嫌気がさした診療所の先生が独自に作成し発展してきたソフトです。
だから、コミュニティ運営的は診療所開業医の先生方の相互扶助的な面が重視されています。「データの囲い込み」などもちろん持ってのほか。
HPにはこんな記載もあります。
Dynamics はプログラム内容などをすべてオープンにしていますので、ちょっとしたプログラムの知識があれば、好きなように画面や文字をレイアウトしたり、データを抽出したり、ときにはオリジナルの機能なども追加することが可能です。
このウィッキッキサイトでは全国のダイナユーザーが作成した独自プログラムやノウハウが多数、掲載されております。Dynamics の機能にはなくても、このウィッキッキサイトで解決するようなプログラムもあるかもしれません。是非、ご活用ください。
ね。開業医さんの立場にたてば、活用してみたくなるでしょう?
このような経緯があるので、ダイナミクス自体は OSI 認定のライセンスではライセンスされていません。
あくまで商用ユーザーにソースコードを公開しているのみです。
ですが、ソースコードを自由に改変してもいいという特徴は十分に「オープンソース」的です。
そして、この特徴は対象となるユーザーを何か強く惹きつけるところがあるようです。
実際、このダイナミクスというソフト、数あるメーカー製のソフトに負けない人気があります。導入数ランキングや購入後満足度ランキングなどでは、例年、上位にきています。
1998 年頃より配布を開始して、現在は導入実績が 4000 超。
データベースが MicroSoft Access に依存しているため windows OS でしか動かなくて不便とか電子カルテ部が使いにくいといった声もありますが、立派なものです。
これは、OpenDolphin(オープンドルフィン)という電子カルテと比較した場合、顕著になるでしょうか。
OpenDolphin(オープンドルフィン)
OpenDolphin という電子カルテがどういうものなのかは見てもらった方が早いでしょうか。
使ったことのない人にうまく伝わるかわかりませんが、ダイナミクスより UI などは凝ってますし、医師目線でもかなり使いやすい電子カルテです。
ライセンス的な観点でいううと、一時期の OpenDolphin は、GPL でライセンスされていたオープンソースの ORCA 連動型電子カルテでした(ただし、現在ではこのプロジェクトが GPL として妥当であったかは疑問が呈されているし、運営している会社も何度か変わっていますが、変わるたびに、この点に関してはむしろ同様に否定的な見解を示しいています)。
(一時時的だったとはいえ)OSI お墨付きのライセンスはあるし、ユーザーフレンドリーな設計だしで、普及しそうな要素はあったと思うんですが、残念ながらそうはなりませんでした。
2000 年代に開発が活発化し、一時期は商用開発元から 200 程度出ていましたが、現在は販売を終了しています。
いわゆるクラウド型では命脈は保っているのですが、2018 年頃よりライセンスは曖昧になったまま、それ以降のバージョンのソースコードは開示はされていません。
実際には、商用開発元を経由せずに使われている例が多かったと思いますが、プロジェクト自体の発展やコミュニティの熟成という意味では、上手くいったとは言い難いものがあるかなあと思います。
この理由に関しては、ここでは触れませんが、いづれどこかの機会にでも書きたいと思います。
(参考)
『OpenDolphin -wikipedia 風開設-』ANN2B Blog
『OpenDolphin-2.7m のこれから』PHAZOR.JP Blog
オープンソースプロジェクトが成功する条件
ところで、冒頭で「目玉の数さえ十分あれば、どんなバグも深刻ではない」という箴言を引用しましたが、この言葉は「目玉の数が不十分な場合、バグは深刻なものになりうる」とも取れるでしょう。
やはり、ユーザーの数や活発なコミュニティが重要なんですね。
オープンソースの成功例としてよくあげられる Linux カーネルの開発は、この条件をよく満たしていると思います。
これはソフト自体の特徴、つまり
・誰もが使う機会が多く、汎用的である
・システムの基本部分を受け持ち、透明性への要求が高い
ことから、この要求を満たしやすかったんでしょうね。
一方、医療系のソフトはなかなかこの条件を満たしにくいですね。
『ORCA, OpenDolphin, OsiriX は三種の神器だったのか?』あたりも参考にしてください。
かつてはオープンソースであったがクローズドなプロジェクトになったもの、もはやその運営形態を維持できなくなったもの、などの具体例を解説しています。
コンソーシアム開発方式
ところで、OpenDolphin に関しては私たちのグループはそれなりに評価されているようだ。
これまでにもファイルバックアップシステムやデータ移行ツールは、それなりに評価されていたと思うが、正直、それほど派手な機能ではなく、熱心なユーザーさんや独自カスタマイズを入れている医療機関(のSEさん)に支持されていた程度だと思う。
最近の OpenDolphin HTML/PDF Viewer や WebDolphORCA は、まだプロトタイプ程度の完成度なのだが、それよりも評判がいい。
これに関して某氏が「この関係者のみでソースコードを共有する仕組みは、一般のオープンソース開発方式よりうまくいっているようで」(『OpenDolphin と商業GPL』)と面白いことを言っていた。
確かに、医療用ソフトでは上で述べたようにオープンソースプロジェクトが成立する条件(汎用的なプロダクツで透明性への要求が高い云々)は満たしにくい。
ただ、解決しなければいけない課題は、(OSのカーネルを構築するのに比べれば)遥かに限定的・具体的なため、その分野に明るいエンジニアが数名集まれば解決までの道程はかなり短縮できる。
この開発方式はなんていうんでしょうね?
たぶん、専門的な正式名称はありそうだが、個人的には「コンソーシアム開発方式」とでも呼びたい。(私が以前に在籍していた ERATO のプロジェクトはこれに近い方法論を取っていたし、拠点にしていたのは「つくば研究コンソーシアム(現つくばイノベーションベース)」というところであったから)
猪股弘明
医師(精神科医:精神保健指定医)
OpenDolphin-2.7m : developer
HorliX : developer
Horos : contributor
OsiriX(open-source version) : contributor
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