ベンゾジアゼピン系受難の時代に

近年、ベンゾジアゼピン系薬物は一種の迫害を受けているのだがその筆頭はデパス(一般名:エチゾラム)だろう。

こんな記事があった。

発売から30年 睡眠導入剤「デパス」に深刻な副作用が次々と

なのだが、私はデパスはけっこう使っている。市中のクリニック外来で来院頻度が多いのは適応障害で、もともと健常な人でも環境からのストレスで軽く抑うつ症状を呈する患者さんは多い。
だから、治療方針も「ストレス源からの隔離」が第一となり、症状に対して対症療法的にデパスを出したりする。
もともと健康な人が多いから、2週間も休養を取ってもらえば、かなり回復するし、「薬は飲みたくない」という人も多いから、自然にデパス使用量は減ってくる。
ベンゾ系薬物の漫然とした長期投与は論外だと思うが、デパスをそんなに目の仇にしなくてもいいのではと思う。
軽い適応障害あたりでいきなり SSRI (現在、主流になっている抗うつ薬)いれてグダグダな病態になるよりなんぼかマシだと思う。


なお、この Friday の記事自体、けっこうツッコミどころがある。facebook タイムライン上では医師の諸先生と、ここではもうちょっと一般的に(と言っても薬剤師さんメインですが)ディスカッションされました。

 

猪股弘明(精神保健指定医)

 

抗うつ薬併用療法に関して

うつ病に対してカリフォルニアロケットという投薬方法がある。この分野で頑張っているのはストール先生のほかには、Pierre Blier という人。 Am J Psychiatry は眼を通すようにしているが(最近はちょっと…)この人の論文はよく見かける。

例えば

Combination of Antidepressant Medications From Treatment Initiation for Major Depressive Disorder: A Double-Blind Randomized Study. Pierre Blier et al, 2009

決定的なのはこの図でしょう。

Pierre Blier 2009 figure

面白いのは、 Fluoxetine 単剤よりも

1.他の3つの併用療法の方がすべて効果が上回っている

2.併用療法間には効果に大きな違いはない

というところでしょうか。狭義のカリフォルニアロケットは Venlafaxine (SNRI 日本未承認) + Mirtazapine ですが、フルオキセチンやブプロピオンでも代用可能というようにも読み取れます(どちらも日本では使えませんが)。

私はたまに SSRI + 少量の三環系・四環系 という処方をすることがありますが、(今まで意識していませんでしたが)発想にはこういった記事の影響があったかなと思います。

猪股弘明(精神科医)

 

 

EBM と単剤化神話

某SNS で EBM に関してのトピックがあった。この話題に関しては日頃から思うところがあったので、コメントをつけたのだが、けっこう評判がよかったようなのでここに再掲(若干、修整あり)してみよう。

以下は「 EBM なんて単純ですよ」という発言に対しての私のコメント。

『EBM が「単純」? ところが精神科領域だとそうでもないんです。

A「2種以上の精神科薬を処方されている患者集団」

B「単剤で治療されている患者集団」

AとBの治療効果と副作用を比較したら、治療効果はBの方が高く副作用はAの方が大きかったというエビデンスが出て、そこから「単剤化治療」が錦の御旗のように掲げられるようになったわけです。

似たようなタイプの薬を大量に重ねる多剤併用大量療法が抑制されたという意味でこのネガキャンは意義があったと思うのですが、これであおりをくったのが「この患者さんは不安焦燥が強いようだから、この薬を加剤」というように丁寧に診察して投薬をしていた医師です。

近年になって(特に)うつ病患者さんを対象に

C「SSRI or SNRI + 別のタイプの抗うつ薬で治療されている患者集団」・・・(※1)

を対象に設定し、BとCを比較するスタディがおこなわれるようになりましたが、結果は驚くべきものでした。(少なくとも)治療効果はCの方が高かったのです。(副作用に関しては今まさに調べられている最中)

私が「均質性の仮定」とか「隠れたパラメータ」うんぬんといったのはこれを踏まえてのことです。
初期のスタディでは、(包含関係でいえばC⊂Aですから)私の言い方では「均質性の仮定」が崩れている( or 過剰な一般化のバイアスがかかっている)ので信用ならないともいえるし、薬の種類と数という「隠れたパラメータ」を無視している点で臨床的なエビデンスとしては不十分なデザインであったといえるでしょう。

これで丁寧な投薬をしていた医師は救われたわけですが、逆に困った立場に立たされたのは製薬会社です。今までは「うちの**は単剤で十分に効果があるんです」でよかったのが、今度は「で、**とどの薬剤の組み合わせが一番効果があるの?」と突っ込まれる立場になってしまったわけです。

もちろん「単剤化」自体がビッグファーマの影響だったんじゃないの?という批判もなされています。
どうです。そんなに「単純」ではないでしょう?

(※1) SNRI + NaSSA (サインバルタ+リフレックス)は「カリフォルニアロケット」としてそれなりに普及してきたが、これ以外の組み合わせでもほとんどの場合、併用療法は単剤治療を上回るという報告が多い。』

なんで、いちいちこんなことを書いたかというと、ここらへんの状況がマスコミに変な伝わってしまい、いまだに「単剤化」神話を「単純」に信じているような記事が目につくからだ。
例えば、某新聞の『精神医療ルネッサンス』。

> 統合失調症の誤診やうつ病の過剰診断、尋常ではない多剤大量投薬、
>セカンドオピニオンを求めると怒り出す医師、患者の突然死や自殺の
>多発……。様々な問題が噴出する精神医療に、社会の厳しい目が向け
>られている。このコラムでは、紙面で取り上げ切れなかった話題により
>深く切り込み、精神医療の改善の道を探る。

担当の佐藤記者には何の恨みもないのだが(一回、取材を受けたが、実に熱心で人あたりの良いベテラン記者さんです。ただ、精神科医療に関する知識は???)、中途半端な勉強ぶりがかえってロジックの弱点になっちゃているような感じがする。この考え方だと「古典的なタイプの抗うつ薬単剤(トリプタノール、アナフラニール)」はよくて「睡眠剤+カリフォルニアロケット+抗不安薬」が多剤併用療法で批判の対象になってしまいますね。

 

猪股弘明(精神科医)

 

インターフェロンの林原って

会社更生法を申請してたんですね。あんまり話題にもならなかったような…。
中野不二男氏の力作『インターフェロン 第5の奇跡 -長野・岸田両博士と林原生物化学研究所-』も現在では絶版になっているようだ。
倒産の経緯に関しては、ここがそこそこ詳しかった。