ビタミン飲料業界におけるレモン並みに「自然高放射線地域」として引き合いに出されるブラジル・ガラパリ地方であるが、その健康への影響を調べた資料がネット上で手に入る。
http://www.rist.or.jp/atomica/data/dat_detail.php?Title_No=09-02-07-03
話は一見するとわかりやすい。
A「ガラパリの住民202人とその対照地域の住民147人についての調査結果によると、(抹消血リンパ球の)染色体異常(欠失、2動原体、リング)の頻度はガラパリと対照地域とでは有意に異なっており、検査細胞数中の染色体異常の割合(%)は対照地域の0.98%に対して1.30%とガラパリの方が高くなっている」
が
B「しかしながら、エスピリト・サント州の夫婦8000組とその妊娠終結(生・死・流産)44,000回について、産児の性比、先天性異常、流産、死産、乳児死亡、生殖能(受胎率、出産率)を調べた結果によると、対照群と比較して、「良い」影響も「悪い」影響も認められなかった」
ということで、C「染色体異常は生じるが、妊娠出産に関しては問題なし」と解釈できそうだが、たぶんそういう結論にはならない。
なぜなら、A と B では母集団が違うから。(なお、ガラパリはエスピリト・サント州にある)
C をいうためには染色体異常を調べたガラパリの集団の夫婦と妊娠終結を調べなくてはならないはずだが、どういうわけかこの研究デザインでは妊娠出産に関しては母集団を広げてしまっている。私の感覚ではこれはおかしい。例えとしては不完全だが「××川周辺では確かに水俣病類似の症状を示す患者が有意に多いが、××川のある○○県全体と他の地域では差はない。だから、××川周辺は安全だ」っていってるようなもんでしょ。特定の「濃い」地域を全体に還元しちゃえば、そりゃ薄まるよね。あと、便宜的に「妊娠出産」と書いたが、実は妊娠に関しては、このデータは何もいってない。妊娠終結44,000回がデータだから、妊娠のしやすさなんてことはこのデータからはわからない。
つっこみどころ満載のこの研究デザインであるが、C が仮にいえたにしても D「だからガラパリ程度に放射線量が上がっても健康(少なくとも出産に関しては)には被害はない」とはいえないはずだ。
この手の研究は統計的な均質性、つまり比較対象には質的な差はないという前提から出発しているが、実際のデータはバイアスがつきものでこれを評価する必要がある。すぐに思いつくのは「ガラパリでは長年に渡る放射線被曝の影響を低減するために既に選択圧がかかっており、放射線耐性を持った個体(例えばDNA修復を助ける特定の酵素の活性が高い個体)が有意に多い」というもの。
このバイアスの影響を打ち消すためには「他地域に住む人をガラパリに連れていき、その集団とネイティブのガラパリの人たちと比較する」ことが一案だが、しかしこれは福島で今おこっていることに限りなく近い。
一部の識者から「避難指示の範囲を拡大しないのは人体実験をしているようなもの」という指摘があるが、それは以上のような理由からだろう。